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31話
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「これじゃあ俺が悪者みたいじゃないか」
ルーカスは苦笑し、ため息を吐いた。え? っとサファルがルーカスを見ると既に苦笑は普通の笑みになっており、「俺も、改めて初めまして」とフードを取ったカジャックに笑いかけていた。今度は手を差し出していなかった。
悪者の訳がない。
サファルは首がもげるくらいブンブンと横に振りたかった。
いつも誰にでも優しくて温かいルーカスなのだ。子供たちからも本当に好かれている。そんなルーカスが、悪者の訳がない。サファルを大切に思い心配しているからこそ、きっと心を鬼にしてカジャックを第三者として見極めようとしていた。
サファルを信じ、温かく迎えてくれるリゼとともに、やっぱりルーカスも本当の兄のようだし大好きだとサファルは思う。
「凄い、何だこの幸せ空間……」
その後ようやく布を敷いてピクニックの準備をし始めた時にサファルが呟くと、ルーカスとカジャック二人にため息を吐かれた。二人とも違う意味でではあるがそれぞれ本当に大好きだ。だが嫌なところが変に似ているなとサファルは微妙な気持ちになる。
「ね、カジャックさんもこれ、食べて。今朝作り立て自家製のバターと、ルーカスが持ってきてくれた新鮮な野菜、それにサファルが獲ってきた鳥を燻製にしたのを挟んだ同じく自家製パンのサンドイッチです。こんなの絶対美味しいから!」
リゼが満面の笑みを浮かべて、言われた通りに大人しく布の上に座っているカジャックへサンドイッチを差し出した。
「……ありがとう」
カジャックは少々戸惑った様子でパンを受け取った。サファルとルーカスは自分たちで手に取り、大きな口を開けてパンを頬張る。
「……うん、美味いな」
サファルたちが食べるのを見て自分もニコニコ口にしているリゼに、同じく頬張ったカジャックは咀嚼してから静かに頷いた。リゼは一瞬驚いたような顔をした後にまた満面の笑みを浮かべた。
「そうでしょう! 愛情こもってるしね、美味しくないはずないよ!」
「……これはおま──リゼが作ったのか?」
リゼ、と名前を呼ばれてリゼは嬉しそうに頷く。
「うん、私が作ったよ。サファルはね、肉を扱うのは凄く上手いんだけど、料理とか家事全般はほんっと向いてないんだ」
「っちょ、リゼ! 余計なこと言うなよ!」
リゼとカジャックが会話している様子を嬉しく眺めていたサファルがハッとなった。カジャックにも料理が出来ない云々は知られているが、改めて身内から言われると居たたまれない。
村でも恐らく町でも、男女カップルだと基本的に力のある男が外で狩りをしたり何らかの力仕事をして、女が家の仕事をするパターンがやはり本来それぞれの体質的に理にかなっているのもあるのか多いとは思われる。だがもちろん力仕事が向いている能力を持つ女や家事が得意な男も当たり前のようにいる。また男同士や女同士のカップルはどちらにしても両方同じ性なのもあってお互い補い合うことが多い。
お互い補い合うならやはり外部での仕事が出来た上で家の仕事も出来るほうが便利なのもあり、結局男だから女だからと役割に拘りを持つ者はいない。出来る者がすればいいと大抵の者が考えている。
逆を返せば、家事全般が得意でないサファルは偏った仕事しか出来ないということだ。全くもって自慢出来ることではない。
「余計なことじゃないでしょ。本当のことなんだから。カジャックさんにもちゃんと本当のサファルを知ってもらったほうがいいよ」
「いやいや、だって俺の片思いだっつってんだろ。まず好いてもらわないと話になんない段階で、何で駄目なとこ率先して知らせんの」
「どのみち知っている」
リゼに淡々と返すカジャックに、リゼだけでなくルーカスも笑った。
「まぁ、隠し事ができないやつだからな、サファルは。他にどんな情けないとこバレてるんだ」
「ルーカス、煩い! カジャックはこんな俺でも仲良くしてくれてんだからな。……恋愛対象には見てくんないけど」
「また本人目の前にして」
「またそれか」
ルーカスとカジャックの呆れたような声が少し重なった。今度は二人とも目を合わせて少し笑っている。本来なら喜ばしく微笑ましい光景なのだろうが、理由が自分の至らないところだと思うとサファルには笑えなかった。
最高に美味い食事に対して飲み物は酒場と違い道具屋で売っている安い雑なエールに松ヤニやシナモンといったスパイスを混ぜたものだったが、こういった場で飲むと不思議と美味かった。
食事の後、寝転がって話をしていたサファルは気づけばいつの間にか昼寝をしていたようだ。カジャックといる時は一分一秒たりとも疎かに出来ないとばかりに眠らないはずだが、今日はつい普段の習慣が出てしまっていたらしい。
普段サファルは午後の休憩時によく昼寝をしている。ただ、これは別にサファルに限ったことではない。午後に休憩を取り、その際ゆっくり昼寝をする者は少なくない。
カジャックと一緒なのにと、リゼに「そろそろ起きなさいよ」と起こされた時にサファルは真っ先に思った。
「それじゃあ、カジャックさん。また会ってね」
「ああ」
「今度はちょっと剣術の稽古を一緒にやってみないか」
「また森の中でよければ」
別れ時、知らない内に更に二人とカジャックは親密さを増していたような気がサファルにはした。
ルーカスは苦笑し、ため息を吐いた。え? っとサファルがルーカスを見ると既に苦笑は普通の笑みになっており、「俺も、改めて初めまして」とフードを取ったカジャックに笑いかけていた。今度は手を差し出していなかった。
悪者の訳がない。
サファルは首がもげるくらいブンブンと横に振りたかった。
いつも誰にでも優しくて温かいルーカスなのだ。子供たちからも本当に好かれている。そんなルーカスが、悪者の訳がない。サファルを大切に思い心配しているからこそ、きっと心を鬼にしてカジャックを第三者として見極めようとしていた。
サファルを信じ、温かく迎えてくれるリゼとともに、やっぱりルーカスも本当の兄のようだし大好きだとサファルは思う。
「凄い、何だこの幸せ空間……」
その後ようやく布を敷いてピクニックの準備をし始めた時にサファルが呟くと、ルーカスとカジャック二人にため息を吐かれた。二人とも違う意味でではあるがそれぞれ本当に大好きだ。だが嫌なところが変に似ているなとサファルは微妙な気持ちになる。
「ね、カジャックさんもこれ、食べて。今朝作り立て自家製のバターと、ルーカスが持ってきてくれた新鮮な野菜、それにサファルが獲ってきた鳥を燻製にしたのを挟んだ同じく自家製パンのサンドイッチです。こんなの絶対美味しいから!」
リゼが満面の笑みを浮かべて、言われた通りに大人しく布の上に座っているカジャックへサンドイッチを差し出した。
「……ありがとう」
カジャックは少々戸惑った様子でパンを受け取った。サファルとルーカスは自分たちで手に取り、大きな口を開けてパンを頬張る。
「……うん、美味いな」
サファルたちが食べるのを見て自分もニコニコ口にしているリゼに、同じく頬張ったカジャックは咀嚼してから静かに頷いた。リゼは一瞬驚いたような顔をした後にまた満面の笑みを浮かべた。
「そうでしょう! 愛情こもってるしね、美味しくないはずないよ!」
「……これはおま──リゼが作ったのか?」
リゼ、と名前を呼ばれてリゼは嬉しそうに頷く。
「うん、私が作ったよ。サファルはね、肉を扱うのは凄く上手いんだけど、料理とか家事全般はほんっと向いてないんだ」
「っちょ、リゼ! 余計なこと言うなよ!」
リゼとカジャックが会話している様子を嬉しく眺めていたサファルがハッとなった。カジャックにも料理が出来ない云々は知られているが、改めて身内から言われると居たたまれない。
村でも恐らく町でも、男女カップルだと基本的に力のある男が外で狩りをしたり何らかの力仕事をして、女が家の仕事をするパターンがやはり本来それぞれの体質的に理にかなっているのもあるのか多いとは思われる。だがもちろん力仕事が向いている能力を持つ女や家事が得意な男も当たり前のようにいる。また男同士や女同士のカップルはどちらにしても両方同じ性なのもあってお互い補い合うことが多い。
お互い補い合うならやはり外部での仕事が出来た上で家の仕事も出来るほうが便利なのもあり、結局男だから女だからと役割に拘りを持つ者はいない。出来る者がすればいいと大抵の者が考えている。
逆を返せば、家事全般が得意でないサファルは偏った仕事しか出来ないということだ。全くもって自慢出来ることではない。
「余計なことじゃないでしょ。本当のことなんだから。カジャックさんにもちゃんと本当のサファルを知ってもらったほうがいいよ」
「いやいや、だって俺の片思いだっつってんだろ。まず好いてもらわないと話になんない段階で、何で駄目なとこ率先して知らせんの」
「どのみち知っている」
リゼに淡々と返すカジャックに、リゼだけでなくルーカスも笑った。
「まぁ、隠し事ができないやつだからな、サファルは。他にどんな情けないとこバレてるんだ」
「ルーカス、煩い! カジャックはこんな俺でも仲良くしてくれてんだからな。……恋愛対象には見てくんないけど」
「また本人目の前にして」
「またそれか」
ルーカスとカジャックの呆れたような声が少し重なった。今度は二人とも目を合わせて少し笑っている。本来なら喜ばしく微笑ましい光景なのだろうが、理由が自分の至らないところだと思うとサファルには笑えなかった。
最高に美味い食事に対して飲み物は酒場と違い道具屋で売っている安い雑なエールに松ヤニやシナモンといったスパイスを混ぜたものだったが、こういった場で飲むと不思議と美味かった。
食事の後、寝転がって話をしていたサファルは気づけばいつの間にか昼寝をしていたようだ。カジャックといる時は一分一秒たりとも疎かに出来ないとばかりに眠らないはずだが、今日はつい普段の習慣が出てしまっていたらしい。
普段サファルは午後の休憩時によく昼寝をしている。ただ、これは別にサファルに限ったことではない。午後に休憩を取り、その際ゆっくり昼寝をする者は少なくない。
カジャックと一緒なのにと、リゼに「そろそろ起きなさいよ」と起こされた時にサファルは真っ先に思った。
「それじゃあ、カジャックさん。また会ってね」
「ああ」
「今度はちょっと剣術の稽古を一緒にやってみないか」
「また森の中でよければ」
別れ時、知らない内に更に二人とカジャックは親密さを増していたような気がサファルにはした。
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