120 / 145
120話
しおりを挟む
臨太郎と共に探し始めたのは秋星だけだった。臨太郎の力を信用していないのではない。ただ人手を拡散させているのと、間違いなく臨太郎がたどり着けるのなら目立たないほうがいいからだ。父親から渡されている携帯電話にはGPS機能とやらが付いているそうで、居場所はすぐにわかるようになっているらしかった。
魔物としての力はあまり強くない様子の臨太郎ではあるが、やはり鼻は秋星よりも格段に利くようだった。とりあえず橘家の使いとして邦一が向かったであろう先までは秋星が案内したのだが、そこからは臨太郎に任せた。
「多分こっち」
多分と言いながらもかなり確信はある様子だった。だがそれも途中からあやふやになっていく。
「大丈夫なん、チャラ猫」
「ちょ、ちゃんと名前で呼んでもらえない?」
「クソ猫よりマシやろ」
「あ、確かに! って、いやいや、そういう問題じゃ」
「ええから、どないやねん」
「……優しくない……。んー……まぁ予想通りあのハーフが拉致ったんだと思う。途中から匂いが紛れ込んで……」
「っはよ探せ!」
「わかってるってば!」
秋星としては胸ぐらをつかんで揺さぶり倒したかったが、そんなことをしても何もならないということくらいは冷静でなくともわかるため、その後は黙り込んだ。
昨夜、邦一が行方不明となってからもうずいぶん経つ。時間が経てば経つほど、邦一のことが心配である他に、見つけるのも困難になっていくため、正直かなり焦ってはいた。それもあり、寝ていなくてもちっとも眠くなかった。元々あまり眠らなくとも問題ない体質ではある。
逆に臨太郎はある程度の睡眠が必要らしく、探索中も何度かその辺に座り、仮眠を取っていた。普段からあまり眠りは深くないようで、寝たと思ったらわりにすぐ起きる。
本当は「寝てんちゃうで」と胸ぐらをつかみ上げたいところだが、化け猫とは言え猫の体質がそうなら仕方がない。無理やり起こしていて逆に効率が悪くなるよりはマシだと思うようにした。
臨太郎が短い仮眠を取っている間に秋星は何度か父親に電話をしたが、やはりあちらではまだ何もーからないようだった。
仮眠から復活する度に、臨太郎はだんだんと人気のない場所へ進んで行く。秋星としては、今まで見つからなかったのは人に溶け込んでいるからだろうかと思っていたのだが、夜が更けるにつれむしろベタなくらい山の方へ近づいて行く。
「俺としてはだいぶ核心に近づいてきた気がする!」
「こんなとこに屋敷なんか構えとったら、かえって目立たへんの……」
「ほら、人間の言葉もあまり喋られないなら人の間に潜むよりはやっぱ人気のないほうがいいっしょ」
「……お前、そんなに相手の気持ちわかるん、やっぱり仲間とかちゃうやろな」
「やめてくんない?」
「ところでな、今の間にお前の望み、聞いとこぉか」
じろりと臨太郎を見れば「あー……」と困ったように笑っている。
「その笑いは何やねん」
「いやー、まぁ主には橘の皆さんとお近づきになりたいってのかな」
「はぁ? お前ケット・シーやろが」
「そーだけど、俺あんま力ねーし、強いもんには巻かれるより親しくしときたいっしょ?」
「ほんまチャラいな」
「素直で正直って言ってよ」
「お前のどこが素直で正直やねん。腹になんか持ってるよーなやつが。まぁ、そーゆー食えんやつ、嫌いちゃうけどな」
「やだ、秋星……!」
「やけどお前はクニになんか絡んでそぉで好きちゃう。気安く名前呼び捨ててくんな」
だいたい「主には」って何やねん、と秋星は微妙になる。絶対、橘と親しくなりたいだけじゃないだろと秋星がじろりと睨むも、臨太郎は「酷いなー」とへらへらしていた。
それ以上言うつもりがないならそれで構わない。いざ交渉する段階になっても「俺が確認した時に言わんかったから無効や」と指摘し、流すこともできる。そんなことを思っていると臨太郎が真顔になり「近い」と呟いてきた。
「よぉやった。で、どこや。はよ行け」
「こっち」
二人とも移動は速い上に暗闇は関係ない。目的地さえ定まればそこへたどり着くのはあっという間だった。
「このクソ屋敷か」
「ちょ、待って、まずは様子を……」
「アホ言うな、既にどんだけ時間かかってる思うねん!」
臨太郎が止めるのも構わず、玄関をぶち破るようにして中を見た秋星の目にまず入ってきたのがボロボロの邦一だった。
その後のことはあまりはっきり覚えていない。多分、とにかく邦一から野良ヴァンパイアを引き離し、そいつを倒すことしか頭になかった気がする。邦一があまりにも気がかりでありながらも、その男を放置して邦一に駆け寄る訳にはいかなかった。
一瞬、邦一の叫び声が聞こえたような気がして、ようやくある意味我に返る。ふと過去の記憶が過った。
完全に弱りきった男を魔力で縛り上げて身動きの取れない状態にし、秋星は父親へ連絡を入れた。
そしてようやく邦一の元へ駆け寄ろうとして、血塗れでボロボロだった筈の邦一が綺麗になっているにも関わらず意識がないことに気づいた。おまけに気配がおかしい。
何があったのか臨太郎に聞こうとして、近くに茶トラの猫がぼとりと転がっていることにも気づく。
「チャラ猫?」
秋星の呼びかけに、猫はピクリと反応した。そしてヨロヨロと起き上がる。
「あ、ありがたく、お……思え、よ……」
猫のくせに息を切らしながら偉そうなことをほざいている。
「って、何がやっ? 一体何があったんや、邦一はどないなったねんっ」
秋星は容赦なく、その猫をつかみ上げ、ガタガタと揺らした。端から見れば、血塗れの野良ヴァンパイアや意識のない邦一をよそに猫とじゃれつきあっている、もしくは虐待している図のようにしか見えなかっただろう。
魔物としての力はあまり強くない様子の臨太郎ではあるが、やはり鼻は秋星よりも格段に利くようだった。とりあえず橘家の使いとして邦一が向かったであろう先までは秋星が案内したのだが、そこからは臨太郎に任せた。
「多分こっち」
多分と言いながらもかなり確信はある様子だった。だがそれも途中からあやふやになっていく。
「大丈夫なん、チャラ猫」
「ちょ、ちゃんと名前で呼んでもらえない?」
「クソ猫よりマシやろ」
「あ、確かに! って、いやいや、そういう問題じゃ」
「ええから、どないやねん」
「……優しくない……。んー……まぁ予想通りあのハーフが拉致ったんだと思う。途中から匂いが紛れ込んで……」
「っはよ探せ!」
「わかってるってば!」
秋星としては胸ぐらをつかんで揺さぶり倒したかったが、そんなことをしても何もならないということくらいは冷静でなくともわかるため、その後は黙り込んだ。
昨夜、邦一が行方不明となってからもうずいぶん経つ。時間が経てば経つほど、邦一のことが心配である他に、見つけるのも困難になっていくため、正直かなり焦ってはいた。それもあり、寝ていなくてもちっとも眠くなかった。元々あまり眠らなくとも問題ない体質ではある。
逆に臨太郎はある程度の睡眠が必要らしく、探索中も何度かその辺に座り、仮眠を取っていた。普段からあまり眠りは深くないようで、寝たと思ったらわりにすぐ起きる。
本当は「寝てんちゃうで」と胸ぐらをつかみ上げたいところだが、化け猫とは言え猫の体質がそうなら仕方がない。無理やり起こしていて逆に効率が悪くなるよりはマシだと思うようにした。
臨太郎が短い仮眠を取っている間に秋星は何度か父親に電話をしたが、やはりあちらではまだ何もーからないようだった。
仮眠から復活する度に、臨太郎はだんだんと人気のない場所へ進んで行く。秋星としては、今まで見つからなかったのは人に溶け込んでいるからだろうかと思っていたのだが、夜が更けるにつれむしろベタなくらい山の方へ近づいて行く。
「俺としてはだいぶ核心に近づいてきた気がする!」
「こんなとこに屋敷なんか構えとったら、かえって目立たへんの……」
「ほら、人間の言葉もあまり喋られないなら人の間に潜むよりはやっぱ人気のないほうがいいっしょ」
「……お前、そんなに相手の気持ちわかるん、やっぱり仲間とかちゃうやろな」
「やめてくんない?」
「ところでな、今の間にお前の望み、聞いとこぉか」
じろりと臨太郎を見れば「あー……」と困ったように笑っている。
「その笑いは何やねん」
「いやー、まぁ主には橘の皆さんとお近づきになりたいってのかな」
「はぁ? お前ケット・シーやろが」
「そーだけど、俺あんま力ねーし、強いもんには巻かれるより親しくしときたいっしょ?」
「ほんまチャラいな」
「素直で正直って言ってよ」
「お前のどこが素直で正直やねん。腹になんか持ってるよーなやつが。まぁ、そーゆー食えんやつ、嫌いちゃうけどな」
「やだ、秋星……!」
「やけどお前はクニになんか絡んでそぉで好きちゃう。気安く名前呼び捨ててくんな」
だいたい「主には」って何やねん、と秋星は微妙になる。絶対、橘と親しくなりたいだけじゃないだろと秋星がじろりと睨むも、臨太郎は「酷いなー」とへらへらしていた。
それ以上言うつもりがないならそれで構わない。いざ交渉する段階になっても「俺が確認した時に言わんかったから無効や」と指摘し、流すこともできる。そんなことを思っていると臨太郎が真顔になり「近い」と呟いてきた。
「よぉやった。で、どこや。はよ行け」
「こっち」
二人とも移動は速い上に暗闇は関係ない。目的地さえ定まればそこへたどり着くのはあっという間だった。
「このクソ屋敷か」
「ちょ、待って、まずは様子を……」
「アホ言うな、既にどんだけ時間かかってる思うねん!」
臨太郎が止めるのも構わず、玄関をぶち破るようにして中を見た秋星の目にまず入ってきたのがボロボロの邦一だった。
その後のことはあまりはっきり覚えていない。多分、とにかく邦一から野良ヴァンパイアを引き離し、そいつを倒すことしか頭になかった気がする。邦一があまりにも気がかりでありながらも、その男を放置して邦一に駆け寄る訳にはいかなかった。
一瞬、邦一の叫び声が聞こえたような気がして、ようやくある意味我に返る。ふと過去の記憶が過った。
完全に弱りきった男を魔力で縛り上げて身動きの取れない状態にし、秋星は父親へ連絡を入れた。
そしてようやく邦一の元へ駆け寄ろうとして、血塗れでボロボロだった筈の邦一が綺麗になっているにも関わらず意識がないことに気づいた。おまけに気配がおかしい。
何があったのか臨太郎に聞こうとして、近くに茶トラの猫がぼとりと転がっていることにも気づく。
「チャラ猫?」
秋星の呼びかけに、猫はピクリと反応した。そしてヨロヨロと起き上がる。
「あ、ありがたく、お……思え、よ……」
猫のくせに息を切らしながら偉そうなことをほざいている。
「って、何がやっ? 一体何があったんや、邦一はどないなったねんっ」
秋星は容赦なく、その猫をつかみ上げ、ガタガタと揺らした。端から見れば、血塗れの野良ヴァンパイアや意識のない邦一をよそに猫とじゃれつきあっている、もしくは虐待している図のようにしか見えなかっただろう。
1
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる