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第13話 診療放射線技師国家試験合格

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 診療放射線技術専門学校はこの年、昨年に引き続き2回目の受験で合格した。筆記のテストは簡単だった。あとは面接のみであるが、私がすでに病院で勤務している事は有利になる。面接には計算ミスはありえず、何故、昼間部ではなく夜間部を選択したかが重要であった。

 私はこの面接に対してちょっとした思い出がある。入試前日にもかかわらずウィスキーを飲み過ぎてしまい二日酔いで臨んでいた。筆記試験は問題としなかったが面接時にどうも酒臭い息を吐いていた記憶がある。

 この夜学での4年間の学生達の入れ替わりは激しかった。進級できない者、卒業試験を放棄して行方をくらました者、八十数名からスタートした学生生活だったが、最後の国家試験の受験まで辿りつけた者は五十名を割っていた。

 脱落していく理由は幾つもある。 まずは夜学である事、病院で働きながらの苦学生ばかりだったから、通学の体力に限界を感じていくし、最も進級を妨げる原因となったのは学校の立地場所である。

 診療放射線技術学校は有楽町線で言えば要町駅で、西武線だと椎名町駅になる。あの『帝銀事件』の舞台となった銀行跡地を通り抜けて通うのだが、1つだけ駅を通り過ぎれば繁華街、池袋がネオンを灯らせて待ち受けている。若くて可愛い女の子もいっぱいるだろう。加えて繁華街にはアルコールと焼き鳥と男と女の愛欲が溢れていた。

 夕方遅くの18:00に学校の教室でつまらない授業を受けて未来に夢を繋ぐか、たった一駅だけ行き過ぎれば若者の賑わう繁華街の雑踏の住人になれる。どっちを選ぼうが自己責任であるが、誘惑に負けて消えていった学生は多かった。

「たかが4年の辛抱がなんでできないんだ。国家試験さえ受かっちまえば、何でも好き勝手に遊べるし金も手に入る。取りあえずでいいから出席しろよ。明日、来なかったら君の職場の技師長に電話して事実を伝えるからな。」

 この言葉を投げつけてやった丸山という地方出身の学生にはその後、一度も会っていない。三学年まで進級できたのに、勤め先から学校のある豊島区までが遠過ぎた事もあったのだろう。東松山駅から椎名町駅までの往復の途中で行方をくらました。

 彼が消えたあと、勤め先にも連絡はしてみたが、すでに退職していて捜索しても無駄だった。

 私はと言えば四年間をそれなりに適当に過ごし『決めどころ』だけはしっかりと決めて無事に卒業し、国家試験も難なく合格できた。

 ここに『国家資格者 診療放射線技師 桑名 遼平』が誕生したのである。

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