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新たな旅 ーミズガルドー

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「ここだ!手を貸してください!!」

 探索をしていて大きな釜を覗いたトゥーレが大きな声を出した。
 皆んなで急いで駆け寄ると中にエルフの男が首だけ出して全裸で液体に漬けられていた。

「何だこれは・・・。」

 眉間にシワを寄せたヴァルトにトゥーレは叫んだ。

「細いですが息があります。
 うなじに奴隷印があるのでヴァハマンの暗部でしょう。
 とりあえず、外に出してやりましょう。」

 腕力があるマルクルを中心にエルフの男を引き上げると、トゥーレは洗浄魔法をかけてタオルで包んでやった。

「ポーションです。
 少しづつ飲ませて下さい。」

 同じエルフなのが辛いのだろう。リルラはイオリからポーションを受け取ると少しづつ口に入れてやった。
 
「カハッ!オエェェ。」

 男は吐きながらも薄目を開けると怯えたように首を振った。

「大丈夫だ。これはポーションだ。
 あいつはいない。
 助けるから少しでも飲んでくれ。」

 リルラは涙を流しながらエルフの男にポーションを飲ませようとした。

「し・・・死なせてくれ。もう疲れた・・・。」

 小さな声で言う男の言葉にリルラはただただ首を振った。

「あの男は我らが捕まえた。
 これ以上お前に危害は加えさせない。」

「嘘だ・・・。人は嘘をつく。
 生きているのが、こんなに辛いなら死んだほうが幸せた。」

 男の悲観した声に一同が項垂れていると、イオリの明るい声が響いた。

「とりあえず助けるんで、死にたいのならその後どうぞ。
 貴方は自由だ。ただ、もったいないと俺は思いますよ。」

 イオリの手から赤い小鳥が飛び立つとエルフの男の胸元に降り立った。
 成獣に体の大きさを変えて歌を奏でるソルはいつ見ても美しい。

 エルフの男から体の強張りが取れ、頸の奴隷印も消えると安心したように眠りについた。

 再び小鳥の姿に戻ったソルはイオリの元に戻ると機嫌が良さそうに肩に留まった。

「お疲れ様。ありがとう。」

『イイヨ。デモ、ツカレタ。ネル。』

 イオリの首にもたれ掛かると目を閉じたソルをイオリは静かに撫でた。

「ソルって話すのか!?」

「あれ?言ってませんでした?
 時々、話しますよ。
 あと、ナギのライアーに合わせて歌います。」

 驚くヴァルトにイオリは微笑むとエルフの男に目をやった。

「無事そうですね。
 リルラ。助ける時に戸惑ってはいけないよ。
 人は生きていくしかないんだから。
 彼が、目を覚ました後にまだ死にたいって言うのなら相手になりますよ。」

 イオリの言葉にリルラは泣き笑いした。

「イオリは時々、横暴だ。」

「そうだろう!?リルラもそう思うか?
 私も常々思っているんだ。

 ・・・まぁ、その横暴も悪くはないがな。」

 ヴァルトの言葉にリルラは頷くともう一度、男の無事を確認した。

 その時だった。
 パタパタパタと足音がして、一同が身構えているとラックが顔を出した。

「いた!
 今ね。村の入り口に人が来たよ。
 3人!!この屋敷に向かってる!」

 ラックの報告にヴァルトは考え込んだ。

「以前、リルラが言っていた商人だな。
 捕まえるか?
 証人なんてのは多いほうが役立つ。」

 トゥーレとマルクルとリルラはニヤリとして立ち上がった。

「今度は俺たちがやろう。」

 数分後には運び屋の男達がグルグル巻きにされて気絶していた。

「さぁ、探索の続きだ!
 この男は上に運んで空気を吸わせてやろう。」

 助ける事の出来た命があった事に一先ずホッとするヴァルトであった。 
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