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新たな旅 ーミズガルドー
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イオリとヴァルト達による、その後の捜索は地獄との戦いであった。
ドミトリー・ドナードによる人体錬成や解剖などの実験の記録や、怪しげな薬品などが発見された。
同じくして、物のように何体もの遺体が発見され心を痛めた。
予測では村の住人達だろうと言うトゥーレにヴァルトは頷き、イグナートへ渡す記録に書き記していった。
冷たい床は寒かろうとイオリは村を見渡せる山にお墓を作った。
「春になれば美しい花が咲きますよ。
俺は何も出来なかったけど、休んで下さい。」
祈るイオリにヴァルトは肩を叩いた。
「ミズガルドの王都へ行こう。
イグナート様が待っている。馬鹿げた欲望の終止符を打つぞ。」
「はい。」
イオリ達は一路、王都へと急いだのであった。
人が消えたこの村には春、色とりどりの花が咲き乱れた。
大きい花から小さな花まで、数年後に研究した学者によると56の種類があったと言う。
奇しくもそれは、犠牲になった村人の数と同じであった。
風に靡く花は今や自由である。
_________
ミズガルドの王宮ではイグナート・カレリンの噂で持ちきりであった。
いつも姿を見せない、美貌の公爵。
哀れにも先妻を亡くし、傷ついた公爵を癒そうと再婚の誘いが多数あったものの、今は妻を迎え慎ましやかな生活を送っている。
そんな公爵が廊下を歩けば、貴族の婦人や令嬢はもとよりメイドや女性騎士も心が躍った。
何よりも、妻と一度も登城していないのが幸いだった。
側室にでもと卑しい心の女達が群がっていた。
「これはこれは、すごい人気だ。
相変わらずでございますね。カレリン公爵。」
にこやかに近づいてきた男にイグナートは頷いた。
「貴方も元気そうだ。ヴァハマン侯爵。
人気というが、ただの鑑賞物にしか見られていないようで不愉快なものだよ。
時に、私はご存知の通り王都に疎い。
何か変化はあるかお教え願いたい。」
イグナートの言葉にヴァハマンは嬉しそうに頷いた。
「それはそれは。このヴァハマンでよろしければお教えしましょう。」
「ロザリンダはどうしている?
アースガイルとの婚約が上手くいかなかったと聞いた。
可哀想な姪だ。」
ヴァハマンは顔色を変えずに微笑んだ。
「帰国後は別邸でお過ごしです。
お伺いをした事はありませんが、お元気なようです。」
「何?王宮にはいないのか?
会って、諌めようと思っていたのだがな。」
「それは、ロザリンダ様もお喜びになるでしょう。
しかしロザリンダ様の失態による破談でございましたので、登城は難しいと思われます。」
頭を下げるヴァハマンにイグナートは睨みつけた。
『この男の所為なのに、悪びれもなく話すものだ。』
イグナートはすぐに冷静になると、眉を潜めた。
「それにしても、明日の式典は憂鬱だ。
嫌な思い出があるのでね。」
「それは、はい。
奥方様におかれましてはお気の毒な事でございました。
カレリン公爵もお心がお疲れでございましょう。
新たな奥方様もご一緒にいらっしゃればお諌めする事も出来たでしょうに・・・。
宜しければ誰か呼びますか?」
ヴァハマン侯爵から嫌な笑いを向けられて、イグナートは怒鳴りそうになるのを堪え首を振った。
「いや、私は結構。
明日は何か催しはあるのか?」
「故人を偲ぶ式典でございます。
ダンス程度でございます。」
『そのダンスがおかしいのだがな』
イグナートは心が悲鳴を上げるのを我慢し、微笑んだ。
「それならば、私も何か考えよう。
久々に会えて良かったぞ、ヴァハマン。」
イグナートは今すぐ殴りつけたい気持ちを押さえつけた。
「では、また明日。」
「はい。楽しみでございます。」
離れていくヴァハマン侯爵を一瞬睨み付け自身に与えられた部屋に帰っていった。
「ああ、明日は楽しみだ・・・。
お前の化けの皮を剥がす。」
決意の籠もった目でイグナートは歩いた。
ドミトリー・ドナードによる人体錬成や解剖などの実験の記録や、怪しげな薬品などが発見された。
同じくして、物のように何体もの遺体が発見され心を痛めた。
予測では村の住人達だろうと言うトゥーレにヴァルトは頷き、イグナートへ渡す記録に書き記していった。
冷たい床は寒かろうとイオリは村を見渡せる山にお墓を作った。
「春になれば美しい花が咲きますよ。
俺は何も出来なかったけど、休んで下さい。」
祈るイオリにヴァルトは肩を叩いた。
「ミズガルドの王都へ行こう。
イグナート様が待っている。馬鹿げた欲望の終止符を打つぞ。」
「はい。」
イオリ達は一路、王都へと急いだのであった。
人が消えたこの村には春、色とりどりの花が咲き乱れた。
大きい花から小さな花まで、数年後に研究した学者によると56の種類があったと言う。
奇しくもそれは、犠牲になった村人の数と同じであった。
風に靡く花は今や自由である。
_________
ミズガルドの王宮ではイグナート・カレリンの噂で持ちきりであった。
いつも姿を見せない、美貌の公爵。
哀れにも先妻を亡くし、傷ついた公爵を癒そうと再婚の誘いが多数あったものの、今は妻を迎え慎ましやかな生活を送っている。
そんな公爵が廊下を歩けば、貴族の婦人や令嬢はもとよりメイドや女性騎士も心が躍った。
何よりも、妻と一度も登城していないのが幸いだった。
側室にでもと卑しい心の女達が群がっていた。
「これはこれは、すごい人気だ。
相変わらずでございますね。カレリン公爵。」
にこやかに近づいてきた男にイグナートは頷いた。
「貴方も元気そうだ。ヴァハマン侯爵。
人気というが、ただの鑑賞物にしか見られていないようで不愉快なものだよ。
時に、私はご存知の通り王都に疎い。
何か変化はあるかお教え願いたい。」
イグナートの言葉にヴァハマンは嬉しそうに頷いた。
「それはそれは。このヴァハマンでよろしければお教えしましょう。」
「ロザリンダはどうしている?
アースガイルとの婚約が上手くいかなかったと聞いた。
可哀想な姪だ。」
ヴァハマンは顔色を変えずに微笑んだ。
「帰国後は別邸でお過ごしです。
お伺いをした事はありませんが、お元気なようです。」
「何?王宮にはいないのか?
会って、諌めようと思っていたのだがな。」
「それは、ロザリンダ様もお喜びになるでしょう。
しかしロザリンダ様の失態による破談でございましたので、登城は難しいと思われます。」
頭を下げるヴァハマンにイグナートは睨みつけた。
『この男の所為なのに、悪びれもなく話すものだ。』
イグナートはすぐに冷静になると、眉を潜めた。
「それにしても、明日の式典は憂鬱だ。
嫌な思い出があるのでね。」
「それは、はい。
奥方様におかれましてはお気の毒な事でございました。
カレリン公爵もお心がお疲れでございましょう。
新たな奥方様もご一緒にいらっしゃればお諌めする事も出来たでしょうに・・・。
宜しければ誰か呼びますか?」
ヴァハマン侯爵から嫌な笑いを向けられて、イグナートは怒鳴りそうになるのを堪え首を振った。
「いや、私は結構。
明日は何か催しはあるのか?」
「故人を偲ぶ式典でございます。
ダンス程度でございます。」
『そのダンスがおかしいのだがな』
イグナートは心が悲鳴を上げるのを我慢し、微笑んだ。
「それならば、私も何か考えよう。
久々に会えて良かったぞ、ヴァハマン。」
イグナートは今すぐ殴りつけたい気持ちを押さえつけた。
「では、また明日。」
「はい。楽しみでございます。」
離れていくヴァハマン侯爵を一瞬睨み付け自身に与えられた部屋に帰っていった。
「ああ、明日は楽しみだ・・・。
お前の化けの皮を剥がす。」
決意の籠もった目でイグナートは歩いた。
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