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第3章 贈ったオカメのその先に

第39話 オカメの下は

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 異様なほど静まり返った教室で、食べるためにイザベルがオカメに手をかけたのを息を殺して皆が見詰めていた。

 そのことにイザベルも気が付いたが、躊躇ためらうことなくオカメを外す。

 (((((────っっ!!)))))

 皆、同じ気持ちになっただろう。まさかの展開すぎて、リリアンヌも取り巻きーズもクラスメイト達も言葉を失ってしまった。


「リリアンヌさんのオカメと私のをここに並べて置きますわね」
「あっ、はい」

 呆然としつつもリリアンヌはイザベルに返事をし、サンドイッチを手渡した。

 それを少しぽってりとした唇で食していく。口についてしまったソースをふく姿もまた扇情的せんじょうてきである。

 そんなイザベルの食べかけのサンドイッチをルイスは取り上げた。


「イザベル、毒味もせずに食べたらダメだ。どこか調子悪いところはないか?」
「毒なんて入れてないです!!」
「そうそう、大丈夫ですわ。リリアンヌさんは正面突破派ですもの」

 ルイスに有らぬ疑いをかけられたリリアンヌは瞬時に言い返した。それとともに、頭が再び回転し始める。


 (いや……もうさぁ、これは無しでしょ。外したことで逆に気持ち悪いんだけど。
 これのどこがいいわけ? 本当に理解できない。おかしいんじゃないの。
 それに、何で私のことかばってるんだよね? 悪役はどうした、悪役は……)


 オカメを外したイザベルの顔には、額から鼻までを隠してくれるオカメがいた。

 そのオカメは口から下の部分がカットされており、イザベル自身のぽってりとした赤い唇と細い顎がのぞいていて違和感がすごい。


 オカメinオカメ。

 オカメを取ったら、オカメが出てきた。


 (今までお昼になると、ルイスとイザベル、シュナイ、ローゼンはどこかへ消えてた。4人でお昼を食べていたから、驚かなかったわけね)

 皆へサンドイッチを取り分けながら、リリアンヌは納得した。


 イザベルのオカメを外そう!! 作戦は見事失敗したリリアンヌ。だが、悔しさは不思議となかった。
 その代わり、じわじわと来た。堪えなくては……と思うのに、それは大きくなっていく。


「ぶふっ……あはははははは…………」


 (もうさぁ、ただのバカでしょ。こんなバカなことを本気でやるって……。
 そんで、こんなバカを悪役令嬢だってしていた私もバカだわ。

 ムリムリ、イザベルに悪役はできない。だって、頭のネジが飛んじゃった変人オカメだもん。

 オカメ姿でも溺愛なルイスを狙うとか、どうかしてたわ。ルイスはパスだわ。時間の無駄だもん。

 今のところイベントは起こってるっぽいし、後ろの誰かで進めればいいかな)


 今までのことが馬鹿馬鹿しくなったリリアンヌは周りを気にすることなく笑った。
 それを見たイザベルの口角が上がっているのを見て、リリアンヌの手は自然とオカメへと伸ばされた。

 そして、オカメを手に取り顔へと持っていく。


「どうです? 似合っていますか?」


 そう言いながら、オカメを着けたリリアンヌの声は笑っている。

 イザベルは、オカメの下で目をカッと見開き、喜びで震えながらも、こくこくと何度も頷いた。


 (ぬおぉぉぉぉぉ!! 感無量!! 感無量じゃあ!! 遂に……遂に、オカメの良さが伝わったのじゃ。
 祭りじゃ!! 宴じゃ!!)


「パーティーですわ!!」
「えっ? パーティー?」

 思わず、イザベルの口から溢れた言葉にオカメなリリアンヌは首を傾げた。

 (あぁ、首を傾げるオカメ姿まで愛らしく、美しい。まさに、これぞ美の集大成じゃ)

「はい。リリアンヌさん、是非とも二人でパーティーをいたしましょう!!」


 リリアンヌの手を取り、興奮しながらイザベルは言う。

 オカメの手を取るオカメ。しかも、片や口だけ出ているオカメ。

 シュールな見た目に周囲は一部の人を除いて引いた。これでもかってくらいに。


「別にいいですけど、二人ならパーティーっていうより、お茶会なのでは?」
「お茶会! お茶会ですわ! リリアンヌさん!!」


 つい先程までのリリアンヌであったら、イザベルと二人でなんてせず、攻略対象も誘っていた。だが──。


 (乙女ゲームって分かってから、ちょっとどうかしてたかも……。舞い上がってたっていうのとはちょっと違うか。
 うーん。固執してたのかな。ヒロインに。

 もちろん、永遠の愛は欲しいけど、何か無理しなくてもいいかなーって思っちゃったんだよね。イザベルといる方が面白そうだし。
 何より、私に嫉妬の視線を向けてくるルイスへの優越感がたまらないわぁ)


 オカメを外して勝ち誇った顔でルイスを見れば、思い切り睨まれたので、リリアンヌは鼻で笑ってやった。

 そして、サンドイッチを取って口へと運ぶ。毒なんて入ってないと見せつけるように、わざと大きな口でかぶりつく。


「リリアンヌさん、ソースがついてますわよ」

 口元しか表情は分からないが、イザベルはふんわりと笑い、ハンカチを差し出してくれる。それをリリアンヌが受け取ろうとすれば、ルイスの邪魔が入った。

「イザベル、リリアンヌばかりでは妬いてしまうな」

 イザベルの細いあごを取り自分の方へと向けたルイスに、リリアンヌは冷めた視線を送る。

 だが、平安乙女イザベルには効果絶大で首まで真っ赤になった。
 口をパクパクと開けたり閉めたりしているが、言葉が出てこないらしく明らかに狼狽うろたえている。


 (これは、助けるべき? でもなぁ、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるって聞いたことあるんだよね……。今世は馬がそこら辺にいるし、本当に蹴られたら嫌だな。
 何より、ルイスが怖いしさぁ。馬に蹴られる前にルイスに殺されそう……)

 リリアンヌはイザベルを見捨て、自己保身に走ることに決めた。取り巻きーズはもちろんのこと、シュナイやローゼンも静観するようだ。

 自分も見捨てたのに、誰にも助け船を出してもらえないイザベルを不憫ふびんに思いながらも、リリアンヌは食べかけのサンドイッチをさっさと胃に納め、次のサンドイッチに手を伸ばすと──。

「フォーカス嬢」

 低くて落ち着いた声でローゼンがリリアンヌを呼び、ハンカチを差し出していた。

 イザベルとルイスのやり取りで、すっかり口元にソースがついていることなど忘れたリリアンヌが無言でローゼンを見詰めれば、躊躇ためらいながらもローゼンはリリアンヌの口元を拭いた。

「あっ……」

 不意打ちだった。口元にずっとソースがついていたことが恥ずかしいのか、はたまたローゼンが拭いてくれたことに照れたのか……。
 リリアンヌの頬は朱に染まっていく。

「すまないっっ」

 慌てて手を離したローゼンの耳もまた赤い。


「おいっ! 抜け駆けすんなよ!」
「そうだよ。ゼンったらずるいよー」
「まったく。今リリーの口を誰が拭くのか話し合ってたんですよ」

 取り巻きーズに怒られているローゼンを盗み見て、リリアンヌはまだドキドキしている自身の心臓に心の中で首を捻る。

 何とか昼休憩中にサンドイッチを食べ、午後の授業を受けながらも、リリアンヌは無意識に口元へと触れた。



 
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