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第3章 贈ったオカメのその先に
第40話 公爵低じゃない、公爵城だ
しおりを挟むイザベルとリリアンヌが打ち解けた週末、イザベルの家でオカメお茶会が開催されることになった。
リリアンヌはドレスを持っていないので、マッカート公爵家ではなく、学園のサロンを借りようと提案したのだが、オカメコレクションを見せたいイザベルが引かなかったのだ。
自身の持つ一番高そうに見えるワンピースを着て、マッカート公爵家から来た迎えの馬車に乗ったリリアンヌは、自然と溜め息が溢れた。
(もうさぁ、ワンピースで公爵家ってマナー的にアウトじゃん。だから、嫌だって言ったのに。
オカメが絡むと本当に強引なんだから……)
心の中でぶつぶつと文句を言いながらも、実は楽しみにしていたリリアンヌ。
両親は貴族間での交遊関係はほぼないため、貴族の友達の家へのはじめてのお呼ばれなのだ。
ワンピースの裾を直し、鏡で髪が崩れていないかを確認した後、門に着いたので降りようとしたが、馬車は止まらない。
そのことに疑問を抱いて早10分。マッカート公爵家に到着したはずなのに、まだ走り続けている。
そして、やっと馬車から降りられた時、リリアンヌは言葉を失った。
(おっっきぃっっ!! 何これ、もうお城じゃん! 公爵邸じゃないよ、公爵城だよ!!)
イザベルと自身の差を嫌でも実感し、ワンピースでのこのことやってきた自分がリリアンヌは恥ずかしくて、楽しみだった気持ちが萎んでいくのを感じた。
リリアンヌがマッカート公爵家を見上げていた頃、イザベルはミーアと戦っていた。
「イザベル様、いけません!」
「何がいけないの? これは究極の美よ!」
「美というのは、個人の価値観です。そして、それを美ととる人は多くありません。
そもそも、面をして客人を迎えるなど失礼ですよ」
ミーアの言葉にイザベルは言葉を詰まらせた。
何故なら、ミーアはイザベルが学園ではオカメをしていることをまだ知らない。怒られるのが嫌だからと隠し続けた付けが回ってきたのだ。
(ミーアの言っていることが正論すぎて、返す言葉もない。じゃが、われの素顔を知らぬリリアンヌがこの姿で行けば誰か聞かれるのは必須。
何としても言いくるめてみせる!!)
「オカメを見にリリアンヌさんは来るのよ。今日は言うなれば、オカメお茶会。ならば、オカメで出迎えるのが筋でしょう?」
「何が筋でしょう? ですか!!
何度も訪問されている殿下ならともかく、初めていらっしゃる方にはきちんとお出迎えされるべきです。親しき中にも礼儀ありですよ。
ほら、リリアンヌ様がいらしたようですから、出迎えに行きますよ」
ぐいぐいと背中を押され、オカメを没収されたイザベルは、処刑台に向かう気持ちであった。
楽しみにしていたお茶会は二人にとって気の重いものへと変わったが、まだ始まってもいない。
(何故このようなことに……)
(何でこんなことに……)
二人の気持ちは同じであった。片や顔を気にし、片や服を気にする。
イザベルはやや特殊ではあるものの、年頃の令嬢あるあるなのかもしれない。
そんな二人の事情など知らないミーアはイザベルを急かす。
「リリアンヌ様は既に応接間でお待ちとのことです。急いでください」
そして、イザベルが決意を固める間もなく扉をノックし、開かれた。
開かれた扉の向こうの目を見開いたリリアンヌの姿に、イザベルは心臓が潰れそうだった。
(見られてしもうた。あぁ、言葉も出ぬか。このような醜悪なものを見せて申し訳ない)
悲嘆するイザベルだが、リリアンヌが見ていたのはイザベルの顔ではない。見ていたのはその下。服装であった。
(ワンピース! イザベルもワンピースだ!! よかった、本当に良かった……。私に合わせてくれたんだろうけど、これでイザベルだけドレスだったら辛すぎて泣く)
リリアンヌはすっかり先程までの憂鬱さなど忘れ、人好きのする笑みを浮かべた。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね」
(イザベルって本当にビックリするぐらい美人だわ。何でいつも顔隠してるんだろう?
男避け……はルイスに溺愛されてるから必要ないし。やっぱり、あれかなぁ、かわいそう……。ここはイザベルが切り出すまでは見て見ぬふりをしてあげよう)
(慈悲! 慈悲の心じゃ!! うぅ……、申し訳ないやら、有り難いやら……)
お互いに助かった! という気持ちは同じものの、その他は全く噛み合わないままオカメお茶会は始まった。
そして、イザベルのオカメコレクションを二人で見る。
「このオカメはさっきのものと一見同じみたいだけれど、素材が違うの。あと、裏地が藤の花で見えないオシャレを──」
イザベルが話し、リリアンヌは相槌を打つ。
オカメに興味はないものの、今日のお茶会の主目的である為、イザベルの話に適度に相槌を打ちつつ、お茶を楽しむことにリリアンヌは徹した。
(はぁ……。さすがマッカート公爵家。紅茶に詳しくないけど、フォーカス子爵家とは全然違うわ。素人でも香りの良さの違いが分かるもんなのね)
リリアンヌは紅茶を飲みつつ、お茶一つの差に感心した。その間もイザベルは嬉々としてオカメの説明に励んでいる。
(イザベルが絶世の美女で微笑めば誰もが見惚れるって設定は本当だったなぁ。中身はオカメ狂いで残念だけど、性悪より遥かにいいよね。
ルイスが隠したくなる気持ち、分かるわぁ。まぁ、それも執着強すぎで怖いだけだけど)
イザベルの美しすぎる顔を眺めていたリリアンヌの中で、『学園でオカメを着けているのはルイスのせい』と疑いが真実へとあまりにも自然に変化していたのであった。
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