41 / 88
第3章 贈ったオカメのその先に

第40話 公爵低じゃない、公爵城だ

しおりを挟む

 イザベルとリリアンヌが打ち解けた週末、イザベルの家でオカメお茶会が開催されることになった。

 リリアンヌはドレスを持っていないので、マッカート公爵家ではなく、学園のサロンを借りようと提案したのだが、オカメコレクションを見せたいイザベルが引かなかったのだ。

 自身の持つ一番高そうに見えるワンピースを着て、マッカート公爵家から来た迎えの馬車に乗ったリリアンヌは、自然と溜め息が溢れた。

 (もうさぁ、ワンピースで公爵家ってマナー的にアウトじゃん。だから、嫌だって言ったのに。
 オカメが絡むと本当に強引なんだから……)

 心の中でぶつぶつと文句を言いながらも、実は楽しみにしていたリリアンヌ。
 両親は貴族間での交遊関係はほぼないため、貴族の友達の家へのはじめてのお呼ばれなのだ。

 ワンピースのすそを直し、鏡で髪が崩れていないかを確認した後、門に着いたので降りようとしたが、馬車は止まらない。
 そのことに疑問を抱いて早10分。マッカート公爵家に到着したはずなのに、まだ走り続けている。

 そして、やっと馬車から降りられた時、リリアンヌは言葉を失った。

 (おっっきぃっっ!! 何これ、もうお城じゃん! 公爵じゃないよ、公爵だよ!!)

 イザベルと自身の差を嫌でも実感し、ワンピースでのこのことやってきた自分がリリアンヌは恥ずかしくて、楽しみだった気持ちがしぼんでいくのを感じた。




 リリアンヌがマッカート公爵家を見上げていた頃、イザベルはミーアと戦っていた。

「イザベル様、いけません!」
「何がいけないの? これは究極の美よ!」
「美というのは、個人の価値観です。そして、それを美ととる人は多くありません。
 そもそも、面をして客人を迎えるなど失礼ですよ」

 ミーアの言葉にイザベルは言葉を詰まらせた。
 何故なら、ミーアはイザベルが学園ではオカメをしていることをまだ知らない。怒られるのが嫌だからと隠し続けた付けが回ってきたのだ。

 (ミーアの言っていることが正論すぎて、返す言葉もない。じゃが、われの素顔を知らぬリリアンヌがこの姿で行けば誰か聞かれるのは必須。
 何としても言いくるめてみせる!!)

「オカメを見にリリアンヌさんは来るのよ。今日は言うなれば、オカメお茶会。ならば、オカメで出迎えるのがすじでしょう?」
「何が筋でしょう? ですか!!
 何度も訪問されている殿下ならともかく、初めていらっしゃる方にはきちんとお出迎えされるべきです。親しき中にも礼儀ありですよ。
 ほら、リリアンヌ様がいらしたようですから、出迎えに行きますよ」

 ぐいぐいと背中を押され、オカメを没収されたイザベルは、処刑台に向かう気持ちであった。



 楽しみにしていたお茶会は二人にとって気の重いものへと変わったが、まだ始まってもいない。

 (何故このようなことに……)
 (何でこんなことに……)

 二人の気持ちは同じであった。かたや顔を気にし、片や服を気にする。
 イザベルはやや特殊ではあるものの、年頃の令嬢あるあるなのかもしれない。


 そんな二人の事情など知らないミーアはイザベルを急かす。

「リリアンヌ様は既に応接間でお待ちとのことです。急いでください」

 そして、イザベルが決意を固める間もなく扉をノックし、開かれた。


 開かれた扉の向こうの目を見開いたリリアンヌの姿に、イザベルは心臓が潰れそうだった。

 (見られてしもうた。あぁ、言葉も出ぬか。このような醜悪なものを見せて申し訳ない)

 悲嘆するイザベルだが、リリアンヌが見ていたのはイザベルの顔ではない。見ていたのはその下。服装であった。

 (ワンピース! イザベルもワンピースだ!! よかった、本当に良かった……。私に合わせてくれたんだろうけど、これでイザベルだけドレスだったら辛すぎて泣く)

 リリアンヌはすっかり先程までの憂鬱ゆううつさなど忘れ、人好きのする笑みを浮かべた。


「本日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね」


 (イザベルって本当にビックリするぐらい美人だわ。何でいつも顔隠してるんだろう?
 男避け……はルイスに溺愛されてるから必要ないし。やっぱり、あれかなぁ、かわいそう……。ここはイザベルが切り出すまでは見て見ぬふりをしてあげよう)

 (慈悲! 慈悲の心じゃ!! うぅ……、申し訳ないやら、有り難いやら……)


 お互いに助かった! という気持ちは同じものの、その他は全く噛み合わないままオカメお茶会は始まった。


 そして、イザベルのオカメコレクションを二人で見る。

「このオカメはさっきのものと一見同じみたいだけれど、素材が違うの。あと、裏地が藤の花で見えないオシャレを──」

 イザベルが話し、リリアンヌは相槌あいづちを打つ。

 オカメに興味はないものの、今日のお茶会の主目的である為、イザベルの話に適度に相槌を打ちつつ、お茶を楽しむことにリリアンヌは徹した。

 (はぁ……。さすがマッカート公爵家。紅茶に詳しくないけど、フォーカス子爵家うちとは全然違うわ。素人しろうとでも香りの良さの違いが分かるもんなのね)

 リリアンヌは紅茶を飲みつつ、お茶一つの差に感心した。その間もイザベルは嬉々としてオカメの説明に励んでいる。

 (イザベルが絶世の美女で微笑めば誰もが見惚れるって設定は本当だったなぁ。中身はオカメ狂いで残念だけど、性悪より遥かにいいよね。
 ルイスが隠したくなる気持ち、分かるわぁ。まぁ、それも執着強すぎで怖いだけだけど)

 イザベルの美しすぎる顔を眺めていたリリアンヌの中で、『学園でオカメを着けているのはルイスのせい』と疑いが真実へとあまりにも自然に変化していたのであった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...