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第3章 贈ったオカメのその先に
第41話 噛み合わない
しおりを挟む「イザベル様、相談したいことがあるのですが……」
そう言いながらリリアンヌはミーアをちらりと見た。
「それでは、私は失礼致します。ご用の際はこちらでお呼びください」
呼び出し用のベルを置いて部屋からミーアは出ていけば、イザベルとリリアンヌの二人きりだ。
(うむ、相談とな。前の生を合わせても初めてじゃな。浮かれてはならぬ、浮かれてはならぬぞ。リリアンヌは真剣なのじゃから、頼ってもらえて嬉しいなどと思うては……)
イザベルは、にやけそうになるのを我慢して真剣な表情を作り、早速切り出した
「それで、相談とは」
「相談というか……聞きたいことなんですけど、愛の重い男性ってどう思いますか?」
「愛の重い男性ですか?」
「はい。とても愛してはしてくれるけれど、執着心の強い方に想われたら、どうされますか?」
(なるほど。誰とは言えぬということは、身分が上の殿方に想いを寄せられておるのじゃな。しかも、重く、執心されておると。
はて、リリアンヌはその殿方をどう思っておるのじゃろうか……)
「お相手をどう思っているのかにはよると思いますが……」
「嫌いじゃないけど、恋愛感情はないと思います」
(そうよね!? 当たってるよね?
ルイスのことを嫌ってはいないけど、特別ではなさそうだったもん。恋する乙女の雰囲気ゼロだったし)
「愛されることは幸せだとは思いますが、好きではない相手だと確かに重いかもしれませんわね。
まして、執心となると大変そうですわ……」
リリアンヌに自身とルイスのことを聞かれているなど思いもよらないイザベルは真剣に悩んでいた。何せ、前世を含めて婚約はしていても、恋をしたことがないイザベルである。
経験がないだけに、上手い言葉も良いアドバイスも見つからない。
(あぁ、何と凡庸な。折角、われを頼ってくれたというに。……はっ! イザベルの記憶を頼れば良いのでは!?
われの記憶が戻るまでは、ルイス様に焦がれておったしのぅ。
どれどれ……。むっむむむ……うむぅ……。これは、普通なのか? いや、人として……。じゃが、他に参考になるものもない。皆がどうなのか判断がつかぬのぅ)
イザベルの記憶、つまり悪役令嬢だった頃の記憶なので、過激なものばかりだ。少しでもまともそうなものを探し、ついに見つけたそれは、まだルイスと出会ったばかりのもの。
「私には恋があまり分かりませんが……もし、愛してくださるのなら、可能な限り気持ちを返していきたい……とは思いますわ。
もちろん、横恋慕や二心はいけませんけど」
(ということは、ルイスを受け入れてるってことかな。こんなに美人なのに、心も広いとか、私じゃなくてイザベルがヒロインじゃん。
……二心かぁ。確かに浮気はダメよね。私なんて、二人どころか…………って違う違う! ローゼンは違うって。傍にいてくれないもの。
私は三心だよ。私が狙ってるのは、ヒューラック、カミン、メイスだもの。って、それも三股かぁ……。よく考えなくても、私って最低じゃん)
イザベルの心配をしていたが、自身の最低さに気が付き、リリアンヌは息が苦しくなった。だが、今はイザベルのことだ! と気持ちを切り替える。
「もし、イザベル様が溺愛されて、執着もされたら嫌ですか?」
「私がですか!? そうですね……、ありがたいですが、申し訳なくて……」
「申し訳ないって、何故です?」
(どう考えても、ルイスには勿体無いのに、なんで?まさか、ここまで突っ込んで聞いたのに、自分のことだって気が付いてない?)
「何故って……。ほら、私の容姿ってあれでしょう?」
(あれって? 最&高ってことなら、言われなくても分かるし、そもそも申し訳ないとか言わないよね。
ってことは、まさかね。いやいや、いくら何でも……)
よく分かってなさそうなリリアンヌに、イザベルはグッと膝の上の手を握る。
「私って、不細工でしょ!!」
「はぁっ!? 嘘でしょ! どこが不細工なのよ。逆よ、逆! イザベルほどの美人なんて、どこ探してもいないわよ!!」
我慢できずにリリアンヌは激しく否定した。感情的になり思わず呼び捨てたが、そのことにイザベルもリリアンヌも気付いていない。
(ふぉっっ!! 怒らせてしもうた。何故じゃ!!
じゃが、われのことを慰めてくれようとしておる。何と、心根の優しい子じゃ。あれじゃな、これがミーアの言ってたツンデレってやつかの)
(まさかとは思ったけど、そのまさかなわけ!? どんな美意識してんのよ。オカメを美しいとか言ってるしさぁ。
……そうかなって思ってたけど、イザベルも転生者確定? しかも、日本……いや、そんなレベルじゃない。もしかして、世界軸が違う? 日本ともキミコイとも違う世界……。
それなら、オカメ信者なのも納得できる。
だけど、前世の記憶があるって聞くのはどうなんだろ。
もし、違ったら?
もし、軽蔑されたら?
もし、頭がおかしくなったと思われたら?
もし、私が最低なことを知られたら?)
もし、もし、もし、もし……。起きてもいない悪い想像が止まらない。リリアンヌは青ざめた顔ですがるような視線を一瞬だけイザベルに向けた。
だが、イザベルは一瞬を見逃さなかった。そして、その視線の意味をはき違えた。
(あぁぁ、やはり気を遣わせたのじゃな。ずっと恐ろしく思っておったのかもしれぬ。じゃが、それでも──)
(もし嫌われても、それは私が悪い。何より、ルイスと結婚してもイザベルは幸せになれない気がする。だって、自己肯定感の低さに漬け込んだってことでしょ。最低以外の何でもないじゃん。
私だけがキミコイを知ってるってことは、私だけがイザベルを助けられる可能性があるかもしれない。だったら──)
二人は決意し、相手を真っ直ぐと見たので、視線が交わった。そして──。
「リリアンヌさんには、これからもずっと仲良くして欲しいの。私もリリーって呼んでもいいかしら?」
「やっぱり、ルイス殿下とは婚約破棄した方がいいと思うんです!! あの人はちょっとヤバいです」
「「……えっ!?」」
イザベルとリリアンヌは目を瞬かせた。
なんと、同時に話したことで、互いが何を言ったのか分からなかったのである。
少しの沈黙のあと、譲り合い合戦が始まった。
「イザベル様、お先にどうぞ」
「リリアンヌさんこそ」
「いえいえ、どうぞどうぞ」
「リリアンヌさんが先にお話しなさって」
「そんなそんな、どうぞどうぞ」
「「…………じゃあ、お先に(失礼しますわ)」」
変なところで息がぴったりで、全く先に進まない。
「それでは、じゃんけんで負けた方が先に言うのでどうですか?」
「じゃんけん?」
(あっ! ここはじゃんけんないんだっけ?)
少し説明すれば、イザベルはすぐに理解してくれたので、じゃんけんをする。
「じゃーんけーん、ぽんっ!」
「勝った!!」
「負けたわ」
イザベルが悔しそうに肩を落とす姿が可笑しくて、リリアンヌは笑う。
それをジトリとイザベルは見た後、笑いながら話し出した。
「私、リリアンヌさんとお友だちになりたいの。リリーと呼んでもいいかしら?」
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