花嫁は忘れたい

四

気晴らしのつもりだった。

男は愛人の癇癪に耐えきれなくなって、仮面舞踏会に参加した。
好みの女性が一人で居たので声を掛けてみたら、驚くほど話が合った。

運命だと感じた。

彼女は名前を告げることはしなかった。

一時の夢。だからそれ以上は踏み込まないでほしい。

そう言っていたのは、彼女はもうすぐ結婚してしまうからだった。

もっと早くに出会いたかった。
互いにそう思っていた。

何度か、顔を隠した夜会で会い、視線を交わす。
互いの熱で焼けてしまいそうだった。

「もう、会えない」
「君を幸せにする。結婚などするな。式の日、君を迎えに行くから」
「だめ、それは」

駄目だという彼女の瞳から涙が溢れていた。

「さようなら」

別れを告げた彼女を見送っていたが、想いが抑えきれず後を追った。

仮面を外して、涙を拭う彼女の顔は、男の妻になる予定の女だった。


男は混乱し、そして歓喜した。

彼女と結ばれる！と。

その場で彼女に素性を明かしても良かった。
でも、結婚式当日のサプライズにしようと思ってしまった。

想い合った男が夫だったと知れば、彼女は喜んでくれるはず。

疑いはなかった。