辺境伯は悪女を愛す

基本二度寝

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ニ 前日譚

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王太子殿下は男爵令嬢の肩を抱いてセレスティアに婚約破棄を言い渡した。

どうにも男爵令嬢に苦言を呈したのが気に入らないらしい。
貴族らしからぬ振る舞いが目についてつい厳しく叱りつけたのだった。
それを殿下が許容していたのならば、セレスティアの叱咤は余計な行いだったのだろう。

セレスティアは素直に婚約破棄を受け入れると、王太子殿下は片眉を上げた。

侯爵家じっかとの話し合いも終えているようで、婚約破棄に伴いセレスティアは実家から追い出される手はずになっている、との事だ。

「そうですか」

ならば、セレスティアには行ってみたい所があった。
王太子の婚約者などに選ばれたせいで王都から出ることも叶わなかった。

新聞の端に、辺境伯の武勇伝が掲載される度にスクラップしていた。
セレスティアにとってクロード辺境伯は憧れの人物だ。

辺境の前伯爵は家督を成人したばかりの息子に託し、気ままに冒険者をやっているらしく、五年前に十代で辺境伯となった彼はその名を父親と同じく轟かせている。
…と言ってもセレスティアの中では、だ。
王都で正確なクロードの情報を持っている人間はほぼいない。

誰も新聞の端に書かれている辺境の事情など気にも止めていないだろう。
話を向けても「あの悪魔の?」「魔物の地の?」など、まともな話ができる人間は少ない。

時々絵姿が掲載され、その雄々しいその姿にセレスティアは恋をしていた。

思い出して顔に熱が集まる。
ダメダメ。まだ人前なのだから。
王太子に視線を戻す。

平民になるなら、辺境で雇ってもらえないかしら。

辺境には魔物が出没する。
それを退治し押しとどめているのが辺境伯クロード様なのだが。
そのような危険な場所にわざわざ向かう人間は少ないだろう。

頭を下げ一礼して踵を返し、辺境に向かう算段をしていた所で呼び止められた。

「まだ終わっていない。貴様は辺境の当主との婚約を命ずる。辺境伯クロード殿だ」

王太子殿下の側近たちが声を上げた。

「あの、悪魔の!」
「ならず者のような男と」

側近たちの声はセレスティアには聞こえていなかった。
目を見開いて、しかしそれ以上表情に出してはいない。
だが、頬が赤らむのはどうしょうもない。
歓喜の涙があふれるのも止められない。

「…かしこ、まりました」

溢れる涙をごまかすために頭を下げた。

ぽたりと床を涙が濡らした。

どうしよう。
嬉しい。
嬉しい。

セレスティアは今度こそ踵を返して、城を出た。
王太子の叫び声が聞こえたが頭には入ってなかった。

会いたい。
会いたい。
早く、会いたい。

御者に無理を言って、そのまま辺境に向かうことにした。

家からは放逐されると言っていたし問題はないだろう。
勝手に公爵家の馬車を使う事になるが、そこは目をつぶってほしい。

身一つで出ていくのだから。
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