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四
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「今頃、セレスティアはどうしている?」
ニヤニヤと王太子は何もないところに向かって喋る。
姿を見せずに答えが返るのは王族に生まれ落ちたその日からついている影。
「さぁわかりかねます」
王太子は勿体ぶられているのかと、白けた。
「つまらん。早く報告せよ」
「報告と言われましても」
王太子は期待している。
婚約破棄を告げたあの日、セレスティアは動揺を見せなかった。
しかし、あの悪魔の辺境伯に嫁げと命じたあの時、彼女は確か嘆いていた。
隠したつもりだろうが、溢れ落ちた涙には誰もが気づいていた。
僅かに震えた声にも。
「嫌ならばその立場をわきまえ、俺に跪いて許しを乞え…おい!ちょっと待て!」
ショックでこちらの声が聞こえていないのか、セレスティアはその場から足早に去っていく。
「待て!」
一歩を踏み出して、留まる。
王太子が、女を追うのか?と冷静になった。
どうせセレスティアに戻れる場所はない。
城に戻ってくるしかないと思っていた。
しかし予想は外れ一日、二日経っても戻ってくる気配はない。
それでも焦りはない。
影がついている。危険があれば彼らが対処するだろう、と。
一月経ち、なんの音沙汰もない事に王太子の方が我慢できなくなった。
影を呼び、彼女の所在を確認したかった。
「セレスティア様についていた影は、婚約解消に伴いその役目から解任されておりますので」
「…はぁ?」
王太子は間抜けに口をぱかりと開けた。
「王族の婚約者でなくなった令嬢に影をつけることはありません」
至極真っ当な言葉に、頭を叩かれたような衝撃を覚えた。
「セレスティアは、俺の」
「元婚約者ですね」
影の気配が消える。
「ちがう、今は婚約者でないだけだ…彼女はまた戻ってくる。…俺しか居ないのだから…」
彼女のショックを受けた顔を思い出す。
気の強い彼女を傷つけられた事に愉悦を感じる。
それが、全くの的外れだったことに気づけることはなかった。
ニヤニヤと王太子は何もないところに向かって喋る。
姿を見せずに答えが返るのは王族に生まれ落ちたその日からついている影。
「さぁわかりかねます」
王太子は勿体ぶられているのかと、白けた。
「つまらん。早く報告せよ」
「報告と言われましても」
王太子は期待している。
婚約破棄を告げたあの日、セレスティアは動揺を見せなかった。
しかし、あの悪魔の辺境伯に嫁げと命じたあの時、彼女は確か嘆いていた。
隠したつもりだろうが、溢れ落ちた涙には誰もが気づいていた。
僅かに震えた声にも。
「嫌ならばその立場をわきまえ、俺に跪いて許しを乞え…おい!ちょっと待て!」
ショックでこちらの声が聞こえていないのか、セレスティアはその場から足早に去っていく。
「待て!」
一歩を踏み出して、留まる。
王太子が、女を追うのか?と冷静になった。
どうせセレスティアに戻れる場所はない。
城に戻ってくるしかないと思っていた。
しかし予想は外れ一日、二日経っても戻ってくる気配はない。
それでも焦りはない。
影がついている。危険があれば彼らが対処するだろう、と。
一月経ち、なんの音沙汰もない事に王太子の方が我慢できなくなった。
影を呼び、彼女の所在を確認したかった。
「セレスティア様についていた影は、婚約解消に伴いその役目から解任されておりますので」
「…はぁ?」
王太子は間抜けに口をぱかりと開けた。
「王族の婚約者でなくなった令嬢に影をつけることはありません」
至極真っ当な言葉に、頭を叩かれたような衝撃を覚えた。
「セレスティアは、俺の」
「元婚約者ですね」
影の気配が消える。
「ちがう、今は婚約者でないだけだ…彼女はまた戻ってくる。…俺しか居ないのだから…」
彼女のショックを受けた顔を思い出す。
気の強い彼女を傷つけられた事に愉悦を感じる。
それが、全くの的外れだったことに気づけることはなかった。
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