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「ティナ。一個腑に落ちないことがある」
「何?」

高度を上げて空を駆ける馬上で、景色を楽しむ余裕の無いコルティナはデュードの胸に顔を埋めて震えている。

高い場所は苦手のようだった。

「結婚したかった相手とは誰だ」

「…ヴァイス」

「ヴァイス…?」

名を呼ばれたと思ったのかヴァイスはブルンと鼻を鳴らした。

「昔、居たの。うちの領地に迷い込んで保護した仔馬と少年が」

少年はすり傷だらけだったが何も喋らなかった。
仕方がないのでコルティナは彼をヴァイスと呼んだ。
黒い馬は珍しく、コルティナはじゃれついて仲良くなっていたら、ヴァイス少年は不貞腐れた顔でどうやって仲良くなったのかと訪ねてきた。
彼の馬なのに仲良くなれないのだとすねていた。

「無理やり背に乗ったら此処までやってきた」

何処から来たのかはけして口を割らなかったけれど、少なくともこの国の人間ではないとは思った。

彼らを保護して二週間。
仔馬に蹴られることがなくなったヴァイス少年はコルティナと領地を走り回るほどに仲良くなっていたけれど、とうとう身なりの良い貴族が彼を迎えに来た。

「またね」
「てぃな!おれはおまえをよめにするからな」

貴族は丁寧な礼をして、黒馬に跨って去って行った。

ヴァイス少年の名前は最後まで明かされなかった。



「ヴァイスは馬になってたの。だから結婚は叶わないから」
「おい、違う。違うぞ!あれは!名乗れなくて!でもあの時貰った仮り名を残したくてな!」
「はぁぁぁ。あの頃のヴァイスに会いたいな」

ヒンっとヴァイスは返事をした。

「ティナ!」

焦るデュードへの意趣返し。

高所に震えるコルティナを笑ったのだ。
これくらいの事を返しても罪はないはずだ。


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