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五
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「それで、一体なんの御用でしょうか?」
フリージアは、予定にない訪問者を屋敷に招き入れ、対面するソファに座った。
侍女に入れさせたお茶を取り、口をつける。
来訪者の前にカップはない。
貴女は招かれざる客だと、わかりやすく示したつもりだった。
「…お願いします。ロマンセ様と、もう一度婚約を結び直していただけませんか」
以前、フリージアにいきなり無礼を働いた伯爵令嬢カリーナは、たった一月しか経っていないにもかかわらず、随分やつれていた。
身を小さくして、俯いたままフリージアに願う。
「私はもう、婚約者が居るのだけれど?」
「知っています、ですが…!」
「それに、ロマンセ様のお家はもう…存続が危ぶまれておりますし」
「…っですから、ロマンセ様を助けるために、フリージアさまがお力を貸していただいて」
フリージアは、ゆっくりカップをソーサーに戻す。
「あら、なんの為に」
「それは…」
「あの家を救って、私にどんなメリットが?」
カリーナが、己のドレスのスカートをぐっと握る。
「…」
「ロマンセ様から直接何かおっしゃられたのかしら」
「…」
あの方は、フリージアに対して無関心な態度を取っては居たが、けして婚約解消や婚約破棄は求めてこなかった。
ロマンセは、伯爵家におけるフリージアの役割を理解していた。
家に金を運ぶ為に必要な人質と。
王命である以上、どれだけフリージアを蔑ろにしても、破談になる事はないと知っていた男。
それが、青天の霹靂。突然、婚約が白紙撤回となり、フリージアは大公家との婚約を結んでしまった。
それに続くように高位貴族が、以前とは違う婚約者と婚約を重ねて行き、ロマンセの家は焦ったのだろう。
王家に求めても、以前のような支援はない。婚約相手は自分で探せと突っぱねられてしまったはずだ。
何故こんなことになったのか、原因を探って、きっと知ったのだろう。
自身が演出したロマンセとベルガモの悲恋で勝手に盛り上がり、公爵家に喧嘩を売ったカリーナの事を。
激高したロマンセが、カリーナの家に乗り込んで責任をとれと喚き散らしたのだろうなと、フリージアの想像だが、まぁ、それに近いことはあっただろう。
ロマンセは、それほど自分勝手な人間であったと、婚約者だったフリージアは知っている。
「…フリージア様が、ロマンセ様と再婚約をして頂ければ、私も…再び想う方と、もう一度婚約できるのです、」
「ふぅん」
カリーナは伏せていた顔を上げて、フリージアと真っ直ぐ視線を合わせた。
「ですからっ…!」
「貴女も、ロマンセ様との同類なのですね。随分と身勝手でいらっしゃる」
「っ…!」
「私が今婚約を解消したらば、ルーパスは…大公子息は再び侯爵家のトリフォリウム嬢と縁を結ばねばならないの。家柄と血筋の問題でね?」
「…」
「そうなったら、トリフォリウム嬢も既存の婚約を破棄せねばならなくなるのよ?
彼女も想い人のレペンス様とようやく婚約できたというのに。お可哀想ではなくて?」
「…でも、今のままでは…私は」
再び俯くカリーナに、フリージアは優しく諭す。
「貴女は悪女に戻りたくはないでしょう?」
「…?」
「愛する者同士を引き裂こうとする悪女にはなりたくはないのでしょう?」
いつか言われたカリーナの言葉をそのまま返してやる。
「私がいま婚約解消をすれば、少なくとも二組の婚約が無くなることになりますわ。しかも、愛する者同士の婚約を…」
「…ぁ、ぁあ」
「想い合う二人を引き裂こうとするのは、悪女なのでしょう?」
カリーナは、頭を抱えて呻き始めた。
「でも、安心して。私は貴女を悪女にはしないから。
ルーパスとの婚約を止めるつもりもないし、ロマンセ様との再婚約もない」
二度と絡んでこなければ、彼女にこれ以上痛みを与えるつもりなかったけれど、仕方がない。
何度も訪問されても困るから、ちゃんととどめは刺しておがなければならない。
思い余ってルーパスに…大公家に突撃されても困るから。
「貴女の元婚約者も、状況が変わったおかげで初恋の令嬢と婚約できたみたいから、きっとこれでよかったのよ。
ー…貴女も、愛する二人を引き裂いていた悪女だったのだから、ね?」
フリージアは、予定にない訪問者を屋敷に招き入れ、対面するソファに座った。
侍女に入れさせたお茶を取り、口をつける。
来訪者の前にカップはない。
貴女は招かれざる客だと、わかりやすく示したつもりだった。
「…お願いします。ロマンセ様と、もう一度婚約を結び直していただけませんか」
以前、フリージアにいきなり無礼を働いた伯爵令嬢カリーナは、たった一月しか経っていないにもかかわらず、随分やつれていた。
身を小さくして、俯いたままフリージアに願う。
「私はもう、婚約者が居るのだけれど?」
「知っています、ですが…!」
「それに、ロマンセ様のお家はもう…存続が危ぶまれておりますし」
「…っですから、ロマンセ様を助けるために、フリージアさまがお力を貸していただいて」
フリージアは、ゆっくりカップをソーサーに戻す。
「あら、なんの為に」
「それは…」
「あの家を救って、私にどんなメリットが?」
カリーナが、己のドレスのスカートをぐっと握る。
「…」
「ロマンセ様から直接何かおっしゃられたのかしら」
「…」
あの方は、フリージアに対して無関心な態度を取っては居たが、けして婚約解消や婚約破棄は求めてこなかった。
ロマンセは、伯爵家におけるフリージアの役割を理解していた。
家に金を運ぶ為に必要な人質と。
王命である以上、どれだけフリージアを蔑ろにしても、破談になる事はないと知っていた男。
それが、青天の霹靂。突然、婚約が白紙撤回となり、フリージアは大公家との婚約を結んでしまった。
それに続くように高位貴族が、以前とは違う婚約者と婚約を重ねて行き、ロマンセの家は焦ったのだろう。
王家に求めても、以前のような支援はない。婚約相手は自分で探せと突っぱねられてしまったはずだ。
何故こんなことになったのか、原因を探って、きっと知ったのだろう。
自身が演出したロマンセとベルガモの悲恋で勝手に盛り上がり、公爵家に喧嘩を売ったカリーナの事を。
激高したロマンセが、カリーナの家に乗り込んで責任をとれと喚き散らしたのだろうなと、フリージアの想像だが、まぁ、それに近いことはあっただろう。
ロマンセは、それほど自分勝手な人間であったと、婚約者だったフリージアは知っている。
「…フリージア様が、ロマンセ様と再婚約をして頂ければ、私も…再び想う方と、もう一度婚約できるのです、」
「ふぅん」
カリーナは伏せていた顔を上げて、フリージアと真っ直ぐ視線を合わせた。
「ですからっ…!」
「貴女も、ロマンセ様との同類なのですね。随分と身勝手でいらっしゃる」
「っ…!」
「私が今婚約を解消したらば、ルーパスは…大公子息は再び侯爵家のトリフォリウム嬢と縁を結ばねばならないの。家柄と血筋の問題でね?」
「…」
「そうなったら、トリフォリウム嬢も既存の婚約を破棄せねばならなくなるのよ?
彼女も想い人のレペンス様とようやく婚約できたというのに。お可哀想ではなくて?」
「…でも、今のままでは…私は」
再び俯くカリーナに、フリージアは優しく諭す。
「貴女は悪女に戻りたくはないでしょう?」
「…?」
「愛する者同士を引き裂こうとする悪女にはなりたくはないのでしょう?」
いつか言われたカリーナの言葉をそのまま返してやる。
「私がいま婚約解消をすれば、少なくとも二組の婚約が無くなることになりますわ。しかも、愛する者同士の婚約を…」
「…ぁ、ぁあ」
「想い合う二人を引き裂こうとするのは、悪女なのでしょう?」
カリーナは、頭を抱えて呻き始めた。
「でも、安心して。私は貴女を悪女にはしないから。
ルーパスとの婚約を止めるつもりもないし、ロマンセ様との再婚約もない」
二度と絡んでこなければ、彼女にこれ以上痛みを与えるつもりなかったけれど、仕方がない。
何度も訪問されても困るから、ちゃんととどめは刺しておがなければならない。
思い余ってルーパスに…大公家に突撃されても困るから。
「貴女の元婚約者も、状況が変わったおかげで初恋の令嬢と婚約できたみたいから、きっとこれでよかったのよ。
ー…貴女も、愛する二人を引き裂いていた悪女だったのだから、ね?」
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