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三十六 結婚後七月 ?
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久しぶりに異母姉さんの顔を見た。
結婚の半年前から生家を出て、ずっと婚家に囲われていた異母姉が、屋敷を出て知らない爺さんの家に向かったと見張らせていた男から報告があった。
報告を受けて、すぐに動いた。
厳重な警備のある異母姉の婚家には、一度も訪問を許されなかった。
それが、どういうことか小さな鞄を携えて一人屋敷を出たというのだ。
貴族夫人ならお供をつけるべきなのに。
早朝、異母姉が知らぬ爺に手を振って民家から送り出す姿を遠巻きに確認した。
母に貴族の屋敷に連れて行かれて十数年。
屋敷に先住していた年上の女は、母親の違う異母姉だと聞いた。
彼女は父と母に放置され、気の毒に思って自分が相手をしてやっていた。
異母姉には感情がない欠陥人間と思っていたのに、満開の笑顔を弟である自分はこの時はじめて見たのだ。
しかも、その男は以前屋敷に忍び込もうとした時に自分を捕えた爺だと気づいた。
あんな爺に笑顔を向ける、異母姉も爺も許せなかった。
爺が外出したタイミングで、民家に近づき、表では出せないような商品を扱う商人から購入した魔法鍵を使った。
簡単な錠ならどんなものでも開けられる代物。
異母姉の婚家に忍び込むために購入したものだった。
「久しぶり、異母姉さん」
彼女は笑顔だった。
実家では見たことがない笑顔を向けてくれた。
しかし、こちらを認識したと同時に、すんっと表情をが消えた。
「家をお間違えよ」
「異母姉さんに会いに来たんだから間違ってないよ」
「此方は会いたいなんて片時も思ったことがないわ」
両親に愛されなかった異母姉は、愛されている自分に嫉妬して、いつも強気に振る舞う。
でも、可哀想な異母姉を愛してやれるのは自分しかいない。
王命で結ばれた婚姻なのだから、結婚相手にも愛されていないのだろう事は知っている。
屋敷の情報は金で買った。
屋敷の主も屋敷には数回しか戻っていない事も調べがついている。
どこに行っても愛されぬ異母姉は、本当に憐れで可哀想な女だった。
「愛されなさすぎて、おかしくなってあんな爺にホイホイついて行ったの?」
「あなたに関係ある?先生は、…素敵な人よ」
感情を見せたことがなかった異母姉が、苛ついている。
自分への中傷より爺を庇う異母姉に、此方がなぜか苛立った。
昔から、異母姉を愛してやっていた自分を差し置いて、他の男を褒めることが許せなかった。
どこがだ、と言いかけて声が出なかった。
異母姉の首筋に真新しい紅い鬱血痕を見つけてしまったから。
それはない、と思っていた。
親よりも年の離れた男相手に。
寂しさから近くの手近な男に縋っただけ。
子供のように可愛がられているのだと、愛されているのだと思っていた。
だめだ。
早く異母姉を取り返さねば。
「異母姉さん、また後で会おうね」
会うつもりはない、と強気で返されるけれど再会はもう決められた運命だから。
異母姉さん。早くぼくの元に戻ってきてね。
結婚の半年前から生家を出て、ずっと婚家に囲われていた異母姉が、屋敷を出て知らない爺さんの家に向かったと見張らせていた男から報告があった。
報告を受けて、すぐに動いた。
厳重な警備のある異母姉の婚家には、一度も訪問を許されなかった。
それが、どういうことか小さな鞄を携えて一人屋敷を出たというのだ。
貴族夫人ならお供をつけるべきなのに。
早朝、異母姉が知らぬ爺に手を振って民家から送り出す姿を遠巻きに確認した。
母に貴族の屋敷に連れて行かれて十数年。
屋敷に先住していた年上の女は、母親の違う異母姉だと聞いた。
彼女は父と母に放置され、気の毒に思って自分が相手をしてやっていた。
異母姉には感情がない欠陥人間と思っていたのに、満開の笑顔を弟である自分はこの時はじめて見たのだ。
しかも、その男は以前屋敷に忍び込もうとした時に自分を捕えた爺だと気づいた。
あんな爺に笑顔を向ける、異母姉も爺も許せなかった。
爺が外出したタイミングで、民家に近づき、表では出せないような商品を扱う商人から購入した魔法鍵を使った。
簡単な錠ならどんなものでも開けられる代物。
異母姉の婚家に忍び込むために購入したものだった。
「久しぶり、異母姉さん」
彼女は笑顔だった。
実家では見たことがない笑顔を向けてくれた。
しかし、こちらを認識したと同時に、すんっと表情をが消えた。
「家をお間違えよ」
「異母姉さんに会いに来たんだから間違ってないよ」
「此方は会いたいなんて片時も思ったことがないわ」
両親に愛されなかった異母姉は、愛されている自分に嫉妬して、いつも強気に振る舞う。
でも、可哀想な異母姉を愛してやれるのは自分しかいない。
王命で結ばれた婚姻なのだから、結婚相手にも愛されていないのだろう事は知っている。
屋敷の情報は金で買った。
屋敷の主も屋敷には数回しか戻っていない事も調べがついている。
どこに行っても愛されぬ異母姉は、本当に憐れで可哀想な女だった。
「愛されなさすぎて、おかしくなってあんな爺にホイホイついて行ったの?」
「あなたに関係ある?先生は、…素敵な人よ」
感情を見せたことがなかった異母姉が、苛ついている。
自分への中傷より爺を庇う異母姉に、此方がなぜか苛立った。
昔から、異母姉を愛してやっていた自分を差し置いて、他の男を褒めることが許せなかった。
どこがだ、と言いかけて声が出なかった。
異母姉の首筋に真新しい紅い鬱血痕を見つけてしまったから。
それはない、と思っていた。
親よりも年の離れた男相手に。
寂しさから近くの手近な男に縋っただけ。
子供のように可愛がられているのだと、愛されているのだと思っていた。
だめだ。
早く異母姉を取り返さねば。
「異母姉さん、また後で会おうね」
会うつもりはない、と強気で返されるけれど再会はもう決められた運命だから。
異母姉さん。早くぼくの元に戻ってきてね。
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