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八
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サリーシアが去っていく間も王はわめき続けた。
「離せ!貴様ら!何をしているのかわかっているのか!」
ベアディスを抑えているのは、妃の部屋にいた近衛騎士達。
不敬だと騎士らに暴言を吐いてみせたが、だれもベアディスの命を聞かない。
「…陛下。彼らの主は陛下にありません」
「…なに?白い結婚を審査する神殿の騎士か?」
「いえ…先代国王の専属の者達です」
「…父の?」
そういえば、あまり見慣れない顔ぶれだとまじまじと騎士らを観察した。
「先王は…ベアディス陛下ほど国民には評価されていませんが、今も慕っている臣下は多いのです。
先王を主とする彼らは、陛下の命には応じないでしょう」
「何だそれは、それではまるで」
ベアディスには臣下の人望が無いと聞こえるではないか。
「どういうわけか、王妃殿下は先代国王を味方につけたようで。…我々はなす術もございません」
宰相はため息を吐いた。
神殿に申請を行われた時点でもう詰んでいる。
それでも、ベアディスの今夜の蛮行さえなければ、こんなに早く彼女が城を出ていくこともなかったのに、と思う。
いや、あの挑発するような格好で待ち構えていたとしたら、全て王妃の手の上だったのではないか。
その可能性に行き着いて、背筋が凍る。
「くそっ、父王は退いた!今の王は私だ!私に従わぬお前ら全員首を差し出せ!!」
「国の王たる者が率先して法を犯そうとするのを止める事になんの咎がありましょう」
宰相は暗い目をしてベアディスを見た。
「なん、だと」
「全てあなたが招いたこと。婚約破棄をしておきながら、公務の負担を思い知り、恥知らずにもサリーシアを再び妃に呼び戻し、どこぞの下位貴族の令嬢を妾にしてその者しか愛さぬなど、わけのわからぬ事を宣っていたのは貴方ですよ、陛下」
「貴様」
「ええ、どうぞ。私めなどお切りください。宰相なんて大役は務まりかねました。王妃殿下が去った今、私に降りかかる仕事量を考えますと、そうしてくださった方がすっきりいたします」
宰相の吐き捨てた言葉に、熱が下がったベアディスの顔色が変わる。
これからの公務を思い出し、ぞっとした。
「サリーシアを、連れ戻す」
「無理でしょう。王妃殿下に危害を加えようとした事を、第三者の彼らがきちんと確認していますから」
現王の命令にも応じなかった騎士らを見上げる。
「…っ!どうして父がサリーシアの肩を持つんだ!!」
ベアディスを拘束する近衛騎士が、その叫喚に応えた。
「先代国王の願いを、サリーシア様がお叶えになったそうです。その対価に我らを使いたいと」
「…願い?それはなんだ」
「そこまでは」
ベアディスの父が退位してから、親交があったはずもない。
手紙のやり取りをしていれば、ベアディスに報告はあったはずだから。
「…我々すら知り得ない先王の願いを…。
あの方は何処まで見通しているのか」
宰相の呟きは、今度はベアディスの耳に届いた。
「離せ!貴様ら!何をしているのかわかっているのか!」
ベアディスを抑えているのは、妃の部屋にいた近衛騎士達。
不敬だと騎士らに暴言を吐いてみせたが、だれもベアディスの命を聞かない。
「…陛下。彼らの主は陛下にありません」
「…なに?白い結婚を審査する神殿の騎士か?」
「いえ…先代国王の専属の者達です」
「…父の?」
そういえば、あまり見慣れない顔ぶれだとまじまじと騎士らを観察した。
「先王は…ベアディス陛下ほど国民には評価されていませんが、今も慕っている臣下は多いのです。
先王を主とする彼らは、陛下の命には応じないでしょう」
「何だそれは、それではまるで」
ベアディスには臣下の人望が無いと聞こえるではないか。
「どういうわけか、王妃殿下は先代国王を味方につけたようで。…我々はなす術もございません」
宰相はため息を吐いた。
神殿に申請を行われた時点でもう詰んでいる。
それでも、ベアディスの今夜の蛮行さえなければ、こんなに早く彼女が城を出ていくこともなかったのに、と思う。
いや、あの挑発するような格好で待ち構えていたとしたら、全て王妃の手の上だったのではないか。
その可能性に行き着いて、背筋が凍る。
「くそっ、父王は退いた!今の王は私だ!私に従わぬお前ら全員首を差し出せ!!」
「国の王たる者が率先して法を犯そうとするのを止める事になんの咎がありましょう」
宰相は暗い目をしてベアディスを見た。
「なん、だと」
「全てあなたが招いたこと。婚約破棄をしておきながら、公務の負担を思い知り、恥知らずにもサリーシアを再び妃に呼び戻し、どこぞの下位貴族の令嬢を妾にしてその者しか愛さぬなど、わけのわからぬ事を宣っていたのは貴方ですよ、陛下」
「貴様」
「ええ、どうぞ。私めなどお切りください。宰相なんて大役は務まりかねました。王妃殿下が去った今、私に降りかかる仕事量を考えますと、そうしてくださった方がすっきりいたします」
宰相の吐き捨てた言葉に、熱が下がったベアディスの顔色が変わる。
これからの公務を思い出し、ぞっとした。
「サリーシアを、連れ戻す」
「無理でしょう。王妃殿下に危害を加えようとした事を、第三者の彼らがきちんと確認していますから」
現王の命令にも応じなかった騎士らを見上げる。
「…っ!どうして父がサリーシアの肩を持つんだ!!」
ベアディスを拘束する近衛騎士が、その叫喚に応えた。
「先代国王の願いを、サリーシア様がお叶えになったそうです。その対価に我らを使いたいと」
「…願い?それはなんだ」
「そこまでは」
ベアディスの父が退位してから、親交があったはずもない。
手紙のやり取りをしていれば、ベアディスに報告はあったはずだから。
「…我々すら知り得ない先王の願いを…。
あの方は何処まで見通しているのか」
宰相の呟きは、今度はベアディスの耳に届いた。
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