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外伝 シンデレラを訪ねて
03 舞踏会二日目
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(マシュー視点)
おお、あなたは…!
お久しぶりです、ええそうです、ガルシア家の執事だったマシューです。
よくここにたどり着きましたね…本当に久しぶりだ。
エラお嬢様が生まれたあの日以来ですね。
奥様がお亡くなりなったことは…ああ、あの町に行ったのですね。
いまや危険な町になっていると聞きましたが…。
いえね、何年前だったか、あの町で文房具店を営んでいた女主人にばったり出くわしたんですよ。
私の顔を見るなり、お前のせいだと、ものすごい形相で飛び掛かってきました。
なんでも私たちが町を出てからならず者たちが町を牛耳るようになり、女主人の息子一家が強盗に押し入れられて全員殺されたそうです。
そんなことを私に言われても…。
え、どうしてその女は私のせいだと思ったのかって?
それは…。
そんな目で見ないで下さい。
どうせあなたは全てお見通しなのでしょう。
分かりました、すべて話しますよ。
でも信じてください、私はただエラお嬢様を守りたかっただけです。
あなたの名付け子の、エラを。
ケイトリン夫人とその娘たちにしたことは本当に反省しています。
…本当ですよ。
ティファニー嬢が怪我をしたことは別に私やお嬢様が仕組んだことではありません。
町の連中が勝手にやったことです。
ええ、確かに。
お嬢様に協力して、ケイトリン夫人がお嬢様を虐げているように誤解させました。
でもそれがあんなことになるなんて…。
ケイトリン夫人が生粋の貴族だということを私は失念していたのでしょうね。
彼女は他人の心の動きに機敏でした。
私とお嬢様をじっと観察し、自分たちが陥れられたと知るや、あっという間に豪商の妻の座を捨ててしまいました。
もし彼女が意地でもあの屋敷に居座っていれば、私とお嬢様の嘘は、簡単にはばれなかったでしょうね。
それにしても、旦那様があのタイミングで事故に合われるとは…。
あの日から、私たちの運命が狂ったと言っても過言ではありません。
私は…エラお嬢様が成長されるのをお傍で見守り、亡き奥様に代わって立派に育てて差し上げたかった。
そしていつかはエラお嬢様が選んだ男と幸せになるのを見届けられればそれでよかったのです。
ですが、旦那様まで亡くされたお嬢様は、なんと貴族の養女になってしまわれた。
私との間に溝ができたのです。
引き取られた先の準男爵の妻は、私とお嬢様が会って話をすることを禁じました。
それでも私は、お嬢様との間には切っても切れぬ絆があると信じていました。
お嬢様がケイトリン夫人に虐待されていた、父親の遺産を取られてしまったと準男爵の息子や使用人たちに話していれば、それを肯定し、辻褄を合わせたりしていました。
でもそれが準男爵夫妻にばれ、私は屋敷を追い出されてしまったのです。
ケイトリン夫人はガルシアの遺産の相続を放棄する際、それと異なる話をすれば賠償を請求するという念書にサインさせてきました。
準男爵夫妻はその賠償を請求されることを恐れたのでしょう。
確かに、今考えれば浅はかでした。
エラお嬢様と引き離されて焦っていたのかもしれません。
私は準男爵の商会の仕事をしながら、エラお嬢様に何とか屋敷に戻れないかと手紙を送り続けました。
でも返事は一度も来ませんでした。
私は準男爵夫妻が手紙を握りつぶしているのだと思いました。
エラお嬢様は私の存在を求めていて、いつかまた一緒に生活できると信じていました。
…でも違ったのです。
私は準男爵の領地を一度出ることにしました。
準男爵に監視されたままでは、いざというときにエラお嬢様と連絡を取ることができないと思ったからです。
そして二か月ほど前でしょうか。
準男爵家を出入りしている商人が、最近準男爵夫妻を見かけない、全て息子のハロルドが対応するとこぼしていました。
私はすぐ準男爵の屋敷に行き、下働きの女に金を握らせて内情を知りました。
なんとエラお嬢様は、準男爵夫妻を幽閉して、実質女主人のようにふるまっているとのことでした。
ようやくエラお嬢様のお傍に戻る日がやってきたのだ!
私は意気揚々と準男爵家の門を叩きました。
対応したのはハロルドでした。
彼は私に領地から去るように冷たく言い、踵を返したのです。
私は追いすがろうとしましたが、屈強な門番たちに暴行され、片腕と片足の骨を折られました。
もう私も年ですから、なすすべなどありません。
彼らは私を殴りながらこう言いました。
「お前はもう、エラ様に必要とされていない」
「エラ様にとって、お前は迷惑な存在だ」
「お前を追い返すのは、エラ様のご命令だ」
そんなはずはない!
そんなはずは…。
見上げた屋敷の窓から、美しく成長したエラお嬢様が見えました。
見間違えるはずがありません…亡き奥様に生き写しですから。
間違いなく私と目が合ったというのに…エラお嬢様は、冷めた目で私を一瞥すると、窓から消えてしまったのです!!
ええ、そうですよ!
門番たちの言う通り!
私はエラお嬢様に見捨てられた…!!
手紙に返事を書かなかったのも、準男爵夫妻の陰謀ではなくお嬢様ご自身の意思だったのでしょう。
どうぞお笑いになって下さい。
とんだモンスターを育て上げ、それに食い殺された哀れな男だと。
…王太子の舞踏会?
ええ、話は聞いていますよ。
恐らくエラお嬢…いいえ、エラはその舞踏会に行くでしょうね。
王太子が元平民の娘を正妻にするとも思えませんが、もう私には関係のないことです。
…そうですか、もう行かれるのですね。
お見送りしたいところですが…すみませんね、まだ折られた足が痛むんです。
どこに行かれるのですか?
王都?
まさかエラに会いに行くのですか?
私にあなたを止めることはできませんが、行くだけ無駄だと思いますよ。
あ、最後に一つだけ。
あなたはいくつでしたっけ?
十六年前に見たあなたと、今私の目の前にいるあなたは全く変わっていないように見えるのですが…。
気のせい?
…まあ、あなたがそう言うのならそうなのでしょうね。
ではお気をつけて。
おお、あなたは…!
お久しぶりです、ええそうです、ガルシア家の執事だったマシューです。
よくここにたどり着きましたね…本当に久しぶりだ。
エラお嬢様が生まれたあの日以来ですね。
奥様がお亡くなりなったことは…ああ、あの町に行ったのですね。
いまや危険な町になっていると聞きましたが…。
いえね、何年前だったか、あの町で文房具店を営んでいた女主人にばったり出くわしたんですよ。
私の顔を見るなり、お前のせいだと、ものすごい形相で飛び掛かってきました。
なんでも私たちが町を出てからならず者たちが町を牛耳るようになり、女主人の息子一家が強盗に押し入れられて全員殺されたそうです。
そんなことを私に言われても…。
え、どうしてその女は私のせいだと思ったのかって?
それは…。
そんな目で見ないで下さい。
どうせあなたは全てお見通しなのでしょう。
分かりました、すべて話しますよ。
でも信じてください、私はただエラお嬢様を守りたかっただけです。
あなたの名付け子の、エラを。
ケイトリン夫人とその娘たちにしたことは本当に反省しています。
…本当ですよ。
ティファニー嬢が怪我をしたことは別に私やお嬢様が仕組んだことではありません。
町の連中が勝手にやったことです。
ええ、確かに。
お嬢様に協力して、ケイトリン夫人がお嬢様を虐げているように誤解させました。
でもそれがあんなことになるなんて…。
ケイトリン夫人が生粋の貴族だということを私は失念していたのでしょうね。
彼女は他人の心の動きに機敏でした。
私とお嬢様をじっと観察し、自分たちが陥れられたと知るや、あっという間に豪商の妻の座を捨ててしまいました。
もし彼女が意地でもあの屋敷に居座っていれば、私とお嬢様の嘘は、簡単にはばれなかったでしょうね。
それにしても、旦那様があのタイミングで事故に合われるとは…。
あの日から、私たちの運命が狂ったと言っても過言ではありません。
私は…エラお嬢様が成長されるのをお傍で見守り、亡き奥様に代わって立派に育てて差し上げたかった。
そしていつかはエラお嬢様が選んだ男と幸せになるのを見届けられればそれでよかったのです。
ですが、旦那様まで亡くされたお嬢様は、なんと貴族の養女になってしまわれた。
私との間に溝ができたのです。
引き取られた先の準男爵の妻は、私とお嬢様が会って話をすることを禁じました。
それでも私は、お嬢様との間には切っても切れぬ絆があると信じていました。
お嬢様がケイトリン夫人に虐待されていた、父親の遺産を取られてしまったと準男爵の息子や使用人たちに話していれば、それを肯定し、辻褄を合わせたりしていました。
でもそれが準男爵夫妻にばれ、私は屋敷を追い出されてしまったのです。
ケイトリン夫人はガルシアの遺産の相続を放棄する際、それと異なる話をすれば賠償を請求するという念書にサインさせてきました。
準男爵夫妻はその賠償を請求されることを恐れたのでしょう。
確かに、今考えれば浅はかでした。
エラお嬢様と引き離されて焦っていたのかもしれません。
私は準男爵の商会の仕事をしながら、エラお嬢様に何とか屋敷に戻れないかと手紙を送り続けました。
でも返事は一度も来ませんでした。
私は準男爵夫妻が手紙を握りつぶしているのだと思いました。
エラお嬢様は私の存在を求めていて、いつかまた一緒に生活できると信じていました。
…でも違ったのです。
私は準男爵の領地を一度出ることにしました。
準男爵に監視されたままでは、いざというときにエラお嬢様と連絡を取ることができないと思ったからです。
そして二か月ほど前でしょうか。
準男爵家を出入りしている商人が、最近準男爵夫妻を見かけない、全て息子のハロルドが対応するとこぼしていました。
私はすぐ準男爵の屋敷に行き、下働きの女に金を握らせて内情を知りました。
なんとエラお嬢様は、準男爵夫妻を幽閉して、実質女主人のようにふるまっているとのことでした。
ようやくエラお嬢様のお傍に戻る日がやってきたのだ!
私は意気揚々と準男爵家の門を叩きました。
対応したのはハロルドでした。
彼は私に領地から去るように冷たく言い、踵を返したのです。
私は追いすがろうとしましたが、屈強な門番たちに暴行され、片腕と片足の骨を折られました。
もう私も年ですから、なすすべなどありません。
彼らは私を殴りながらこう言いました。
「お前はもう、エラ様に必要とされていない」
「エラ様にとって、お前は迷惑な存在だ」
「お前を追い返すのは、エラ様のご命令だ」
そんなはずはない!
そんなはずは…。
見上げた屋敷の窓から、美しく成長したエラお嬢様が見えました。
見間違えるはずがありません…亡き奥様に生き写しですから。
間違いなく私と目が合ったというのに…エラお嬢様は、冷めた目で私を一瞥すると、窓から消えてしまったのです!!
ええ、そうですよ!
門番たちの言う通り!
私はエラお嬢様に見捨てられた…!!
手紙に返事を書かなかったのも、準男爵夫妻の陰謀ではなくお嬢様ご自身の意思だったのでしょう。
どうぞお笑いになって下さい。
とんだモンスターを育て上げ、それに食い殺された哀れな男だと。
…王太子の舞踏会?
ええ、話は聞いていますよ。
恐らくエラお嬢…いいえ、エラはその舞踏会に行くでしょうね。
王太子が元平民の娘を正妻にするとも思えませんが、もう私には関係のないことです。
…そうですか、もう行かれるのですね。
お見送りしたいところですが…すみませんね、まだ折られた足が痛むんです。
どこに行かれるのですか?
王都?
まさかエラに会いに行くのですか?
私にあなたを止めることはできませんが、行くだけ無駄だと思いますよ。
あ、最後に一つだけ。
あなたはいくつでしたっけ?
十六年前に見たあなたと、今私の目の前にいるあなたは全く変わっていないように見えるのですが…。
気のせい?
…まあ、あなたがそう言うのならそうなのでしょうね。
ではお気をつけて。
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