シンデレラの継母に転生しました。

小針ゆき子

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外伝 シンデレラを訪ねて

02 舞踏会初日

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(ヨーク準男爵)

 おお、助かりました!
 なんとお礼を申し上げていいものか…。
 しかし、私と妻があの部屋に監禁されているとどうしてわかったので?
 え?偶然?
 そうでしたか…。
 これは申し遅れました、私は準男爵位を賜っているジョージ・ヨークと申します。
 こちらは妻のエレインです。 
 詳しい事情を聴きたい?
 ええ、ええ!どうか聞いてください!
 すべてはエラ!
 あの悪魔がこの屋敷に来たことで始まったのです。
 …なんですって?
 エラのことを知っている?
 あの娘とどういった関係なのですか?
 実の母親と知り合い…なんと、そうでしたか。
 ではエラがこの屋敷に来た経緯はお調べになっているのですね。
 
 そうです。
 私はエラの実父バーノン・ガルシアとは従兄弟同士になります。
 とはいえガルシアの伯母にあたる私の母とガルシア家は疎遠だったので、ガルシアの存在を知ったのは彼が事故死した後ことでした。
 七年前、アッカーという弁護士が訪ねて来たのです。
 ガルシアの二番目の妻の依頼で私を探していたということでした。
 詳しく話を聞くと、ガルシアの後妻ケイトリン夫人は、ガルシアと離婚調停中だったそうです。
 しかし離婚が成立しないままガルシアが事故死してしまい、ガルシアの連れ子の処遇に困っているとのことでした。
 ガルシアは連れ子と一緒に莫大な遺産を残していましたが、ケイトリン夫人は連れ子の引き取りを嫌がっていて、そのためなら遺産の受け取りを放棄してもいいとのことでした。
 私はガルシアの遺産に全く興味がないわけでもありませんでしたが、どちらかというとエラという年頃の娘を引き取れることに魅力を感じました。
 …いや、誤解しないで下さいよ。
 ただ、私と妻の間には息子が一人しかいません。
 そして私の準男爵という爵位は一代限りのもので、息子には継がせることができないのです。
 息子の将来のためにも、貴族、あるいは役人に根回しするための婚姻の道具が必要でした。
 ちょうど妻の親類の子を誰か養女にできないかと話し合っていたところに、降って沸いた話だったのです。
 
 迷いがなかったわけではないですが、私はエラを引き取りました。
 当時のエラは7歳でしたが、かなりの美少女でしたからね。
 彼女をさらに磨き上げ教育を施せば、伯爵位くらいまでの貴族と縁が結べると思ったのです。
 ケイトリン夫人には忠告されましたよ。
 「あの子は平気で嘘をつく。そして人の心を操るのが上手い。お気をつけください」とね。
 でも真面目には聞きませんでした。
 …だって、七歳の娘ですよ?
 それに恥ずかしい話ですが噂に惑わされたのもあります。
 ガルシアが住んでいた町では、ケイトリン夫人が継子のエラを虐待していたと皆が口にしていましたから。
 今から考えれば本当に愚かでした。
 決して恵まれた環境にあるわけではないケイトリン夫人が、大金を得る機会を捨ててまでエラの引き取りを拒んだ事実をもっと真剣に受け止めるべきだったのです。

 エラはこの屋敷で貴族令嬢としての教育を受けながら、ゆっくりと爪を研いでいました。
 そしていつの間にかハロルド…私たちの息子を手懐けていたのです。
 最初の違和感は、エラにつけた家庭教師でした。
 しっかりした協会から派遣された年配の女でしたが、エラは彼女に暴力を振るわれるとハロルドに相談したようです。
 するとハロルドは家庭教師の女を罵り、屋敷から追い出して、さらに派遣元の協会に密告しました。
 …ええ、やりすぎでしょう。
 私も息子がそこまでやるとは思っていませんでした。
 エラに少しでも気に入られようとしていたのでしょうね。
 家庭教師の女はもともと差別主義者だったようで、隠れて平民の使用人を蔑んだりしていたので、あちこちから告発が起き、エラへの暴力もおそらく本当だろうということになりました…妻は疑っていたようですが。
 その後、次に雇った家庭教師や屋敷の者たちとトラブルを起こすこともなかったのですが、違和感は続きました。
 ある日、息子が言ったのです。
 「エラが受け取るはずだった実父の遺産を、再婚相手だった女とその娘たちに取られたと言っている。これからその女たちを探し出して、金を取り戻し、エラに謝罪させてやる」と。
 私は慌てました。
 ケイトリン夫人と娘たちは遺産を一銭も受け取っていません。
 私はハロルドに遺産は全て養父となった私が管理している旨を説明しましたが、ハロルドは私がケイトリン夫人を庇っていると本気で信じていたようでした。
 この時ばかりはアッカー氏が作成した書類が本当に役立ちましたよ。
 あのまま息子を放置すれば、私はケイトリン夫人に莫大な賠償金を払う羽目になるところでした。
 何とか納得させ、どうしてケイトリン夫人が遺産を盗んだと思っているのか聞き出すと、やはりエラがそれを匂わせる話をしていたようでした。
 エラを恐ろしいと思ったのはその時です。
 息子だけでなく彼女の周りの使用人たちですら、エラが継母だった女に虐待され、父の死後は騙されて遺産をかすめ取られ、着の身着のまま私の屋敷に引き取られたのだと信じていました。
 町での虐待の話はともかく、遺産の件は私は当事者なので事実無根であることを知っていますが、そうでなければやはり私も可憐なエラの話を信じていたのでしょうか…。
 あともう一つ、エラの話に信ぴょう性を持たせたのはマシューでした。
 我が家の養女となったエラと平民のままマシューを二人きりにすることは禁止していましたが、二人は結託していました。
 正確に言うと、エラが吹聴した嘘をマシューが肯定し、辻褄合わせをしてやっていたのです。
 マシューに同情する気はありませんが、奴もまたエラに篭絡され、心を捧げていたのでしょう。
 私は理由を作ってマシューを屋敷から出しました。
 二人を引き離せば、エラのほら吹きも止まるかもしれないと思ったのです。
 マシューの配置換えにエラは特に反応を示しませんでした。
 その後マシューはエラに手紙を送っていたようでしたが、エラは一つも返事を出さなかったようです。
 …そう、彼女はすでにマシューを必要としなくなっていました。
 彼が居なくても、エラは屋敷を掌握しつつあったのです。
 
 そうしてエラが本性を現したのは、つい半年前のことです。
 十五歳になり、成人を迎えた彼女はとうとうガルシアの莫大な遺産を手にしました。
 すっかりエラが気味悪くなっていた私と妻は、元平民とはいえ金持ちになった彼女に縁談をいくつか持ち込み、早々にこの屋敷を出てもらおうとしていました。
 そんな矢先、私たちは食事に薬を盛られて…。
 そうです。
 半年間、この部屋に閉じ込められていたのです。
 エラはその美貌と話術、そして金の力で屋敷の使用人たちを完全に牛耳り、ハロルドを使って私たちを幽閉させたのです。
 息子とはいえ情けない話です。
 この屋敷の使用人たちも…彼らを信じていたのですが…。
 マシュー?
 マシューにこれから会いにいくのですか?
 申し訳ありません、私も居場所を知らないのです。
 先ほど言った通り、エラと引き離すために屋敷から出し、領地内にある私が経営していた商会の仕事をさせていたのですが、いつの間にか姿を消していました。
 その後のことは…。
 ええ、お役に立てずすみません。
 
 私たちのこれからですか?
 ひとまず妻の実家に身を寄せて、王家に恥を忍んで今回の顛末を連絡しようと思います。
 貴族に毛が生えた準男爵家のお家騒動など王家は意に介さないでしょうが、黙っているわけにもいきませんからね。
 では、あらためてお礼を申し上げます。
 お救いいただき、ありがとうございました。
 それにしても、不思議なことがあるものですね。
 今日に限って見張りの者だけでなく、使用人たち全員が居眠りをしていたなんて。
 ご婦人、使
 
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