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異世界の残酷な洗礼編
020:うつくしき我が家
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◇◇◇
――桜が部屋に戻る頃、玉座の間ではセルド王と宰相のバーゲンが話していた。
「陛下。よいのですか、あのような不審な男を始末せずに」
「よきよき。そちも見たであろう? あの異常なステータスを。あれは伝承にあるものやもしれぬぶふぅ」
「伝承……ですか。私がこの国に来る前にあったと言われる、与太話と聞いていますが」
「与太話とは失敬だぶふぅ。あれは確かな伝承じゃし、余しか今は書物を持っておらぬぶふぅ」
「……承知いたしました。では明日から適当に修行させ、使い物にならない時には」
セルドは三重アゴをブルリと震わせ頷く。
その醜く脂ぎった口を開き、バーゲンへと命ずる。
「新しく見つかったダンジョンへ放り込むといいんだぶふぅ。罠よけくらいには使えるぶふぅ」
「ではそのようにいたします。それでは失礼いたします陛下、良き夜を」
「うむ、そちもなバーゲン。ぶふふ、さて今夜はどの娘にするか迷うぶふぅ」
セルド王は今夜の事に頭を悩ませ始めたころ、バーゲンは静かに頭を下げ部屋を後にする。
誰もいない廊下から見える月夜を見ながら、バーゲンは内心を吐露。
「ここまで来たのだ、失敗は許されん。あの方が望む事の成就のためには、勇者召喚など博打でしかないが……あの二人は有望そうだ」
「ええ、マリエは十分な素質を持っていますわ。それとショウジもですわね」
柱の陰より染み出すように現れた女、聖眼のエカテリーナがバーゲンの元へ歩きながら話す。
それに視線を合わせずにバーゲンは口を開く。
「お前か……。勇者どもの様子はどうだ?」
「有望な二人は無邪気にはしゃぎ、残りは家に帰りたいと泣いていますわね」
「ふむ、エサを好きなだけ与えてやれ。特に有望なバカどもにはな」
「承知いたしましたバーゲン卿」
そう言うとエカテリーナは影に沈みこむように消え失せる。
「あの方の望む世界を、今この国から始めよう。さぁ楽しもうか……混沌をな」
低く笑うバーゲン。その不気味な様子を二つの月は憂うように見下ろすのだった。
◇◇◇
――翌日の朝。
戦極は悪臭で目が覚める。あまりの臭さで飛び起きると、目の前には。
「うわあああああ!? 馬の尻がドアップでえええええ!! ってやめてええええ」
馬が目の前で盛大に糞をしており、それが戦極の足元へとビチビチとはねていた。
少しだけ靴についたようで、その現実にショックを受ける戦極。
「うぅぅ異世界なんて大嫌いだ……くそっ、買ったばかりなのに」
「糞だけに? いやねぇ下品なギャグで」
「お前のギャグセンスの方が酷いだろうフェリス」
「あはは、よく言われるかな。ふぅ~ほらほら、あなたたち。ここはトイレじゃないって何度言っても分からないかな? 食べちゃうぞ! ガオー」
フェリスがそう脅すと、馬は恐怖に震え脱糞&放尿。ガクガクと震えて逃げていく。
「……あの、フェリスさん。よけいにひどい状況なんですが?」
「ア、アハハ……ごめんね? テヘ」
「たく、それにしても酷い状況だな」
戦極はため息交じりに周囲を確認する。確実に掃除をしていない状況であり、馬たちの健康状態も怪しいものだ。
そんな状況に心当たりがあるフェリスは、重い口を開く。
「うん……自分のせいなんだよね。ほら、自分ってこんなんでしょ? だからお掃除してくれる人が怖がって来てくれないのよ」
なるほどね、確かにマンティコアがいる場所で掃除なんてしたくないわな。
だが藁とかはそれなりに新しいが……。
「藁とかどうしてるんだ? 湿ってはいるけど、俺の寝てたやつなんかそれなりだったぞ」
「それは小屋の外まで運んでくれるのよ。で、私が少しずつ中にいれているってわけ。あとはライオスの兵士でも自分を恐れない人が、たまにお掃除してくれるんだけどね」
「なるほどね、なら快適な我が家を目指していっちょ頑張りますか」
「って、何をするの?」
戦極は「決まっているさ」と言うと、壁に立てかけてある掃除用具を手に取る。
「フェリス、水はどこだ?」
「え、ああ! お掃除してくれるの? 助かるなぁ。私じゃそれは無理でね。えっと、お水は外に出てからすぐ右に、魔具で補充する水井戸があるよ」
「マグ? なんだそれは」
フェリスは「あぁ」と頷くと、この世界の仕組みの一つを説明する。
それは魔具と呼ばれた物の原動力となる、魔核と呼ばれるものや、それの採取のしかたなどであった。
「へぇ、つまり魔物を倒すと魔核と呼ばれるものが出てきて、それを原動力に魔具が動くと言うわけか。面白いな異世界」
「さっきは大嫌いって言ってたくせに。ふふ、そんなワケで色々と魔具はあるんだよ」
「へぇ。もしかしてその壁のランプもそれで?」
「そうそう。あれも一緒だよ、あの程度ならゴブリンの魔核を一つあれば、二十日間は持つかな」
その後フェリスに馬たちを誘導してもらい、大量のフンを片付ける。
想像以上に過酷な作業であり、やってはみたものの吐き気と涙が止まらなかった。
「うっぷ……ガマンだ。俺の生活をよくするためにガマンだ。頑張れ俺、負けるな俺、泣いてなんか無いんだもん」
「呪文のように呟くの怖いんですけど」
「うっさいよ! たく、ここまで過酷なものだとは思わなかったぜ……酪農家さんの苦労を初めて知った。今度から感謝して食べることにする」
「この状況で食べることねぇ。図太いというか何というか……ん、誰か来たよ?」
「あぁそのようだな。敵か?」
「堂々と入って来たから、多分違うかな」
フェリスと戦極は四人の気配を感じる。
その影が近づいてくると、二人の前に現れて大声で叫ぶのであった。
☆*:゚♪+。.☆.+**:゚+。☆彡
【あなた様に大感謝♪】
☆*:゚+。.☆.+*♪*:゚+。★彡
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――桜が部屋に戻る頃、玉座の間ではセルド王と宰相のバーゲンが話していた。
「陛下。よいのですか、あのような不審な男を始末せずに」
「よきよき。そちも見たであろう? あの異常なステータスを。あれは伝承にあるものやもしれぬぶふぅ」
「伝承……ですか。私がこの国に来る前にあったと言われる、与太話と聞いていますが」
「与太話とは失敬だぶふぅ。あれは確かな伝承じゃし、余しか今は書物を持っておらぬぶふぅ」
「……承知いたしました。では明日から適当に修行させ、使い物にならない時には」
セルドは三重アゴをブルリと震わせ頷く。
その醜く脂ぎった口を開き、バーゲンへと命ずる。
「新しく見つかったダンジョンへ放り込むといいんだぶふぅ。罠よけくらいには使えるぶふぅ」
「ではそのようにいたします。それでは失礼いたします陛下、良き夜を」
「うむ、そちもなバーゲン。ぶふふ、さて今夜はどの娘にするか迷うぶふぅ」
セルド王は今夜の事に頭を悩ませ始めたころ、バーゲンは静かに頭を下げ部屋を後にする。
誰もいない廊下から見える月夜を見ながら、バーゲンは内心を吐露。
「ここまで来たのだ、失敗は許されん。あの方が望む事の成就のためには、勇者召喚など博打でしかないが……あの二人は有望そうだ」
「ええ、マリエは十分な素質を持っていますわ。それとショウジもですわね」
柱の陰より染み出すように現れた女、聖眼のエカテリーナがバーゲンの元へ歩きながら話す。
それに視線を合わせずにバーゲンは口を開く。
「お前か……。勇者どもの様子はどうだ?」
「有望な二人は無邪気にはしゃぎ、残りは家に帰りたいと泣いていますわね」
「ふむ、エサを好きなだけ与えてやれ。特に有望なバカどもにはな」
「承知いたしましたバーゲン卿」
そう言うとエカテリーナは影に沈みこむように消え失せる。
「あの方の望む世界を、今この国から始めよう。さぁ楽しもうか……混沌をな」
低く笑うバーゲン。その不気味な様子を二つの月は憂うように見下ろすのだった。
◇◇◇
――翌日の朝。
戦極は悪臭で目が覚める。あまりの臭さで飛び起きると、目の前には。
「うわあああああ!? 馬の尻がドアップでえええええ!! ってやめてええええ」
馬が目の前で盛大に糞をしており、それが戦極の足元へとビチビチとはねていた。
少しだけ靴についたようで、その現実にショックを受ける戦極。
「うぅぅ異世界なんて大嫌いだ……くそっ、買ったばかりなのに」
「糞だけに? いやねぇ下品なギャグで」
「お前のギャグセンスの方が酷いだろうフェリス」
「あはは、よく言われるかな。ふぅ~ほらほら、あなたたち。ここはトイレじゃないって何度言っても分からないかな? 食べちゃうぞ! ガオー」
フェリスがそう脅すと、馬は恐怖に震え脱糞&放尿。ガクガクと震えて逃げていく。
「……あの、フェリスさん。よけいにひどい状況なんですが?」
「ア、アハハ……ごめんね? テヘ」
「たく、それにしても酷い状況だな」
戦極はため息交じりに周囲を確認する。確実に掃除をしていない状況であり、馬たちの健康状態も怪しいものだ。
そんな状況に心当たりがあるフェリスは、重い口を開く。
「うん……自分のせいなんだよね。ほら、自分ってこんなんでしょ? だからお掃除してくれる人が怖がって来てくれないのよ」
なるほどね、確かにマンティコアがいる場所で掃除なんてしたくないわな。
だが藁とかはそれなりに新しいが……。
「藁とかどうしてるんだ? 湿ってはいるけど、俺の寝てたやつなんかそれなりだったぞ」
「それは小屋の外まで運んでくれるのよ。で、私が少しずつ中にいれているってわけ。あとはライオスの兵士でも自分を恐れない人が、たまにお掃除してくれるんだけどね」
「なるほどね、なら快適な我が家を目指していっちょ頑張りますか」
「って、何をするの?」
戦極は「決まっているさ」と言うと、壁に立てかけてある掃除用具を手に取る。
「フェリス、水はどこだ?」
「え、ああ! お掃除してくれるの? 助かるなぁ。私じゃそれは無理でね。えっと、お水は外に出てからすぐ右に、魔具で補充する水井戸があるよ」
「マグ? なんだそれは」
フェリスは「あぁ」と頷くと、この世界の仕組みの一つを説明する。
それは魔具と呼ばれた物の原動力となる、魔核と呼ばれるものや、それの採取のしかたなどであった。
「へぇ、つまり魔物を倒すと魔核と呼ばれるものが出てきて、それを原動力に魔具が動くと言うわけか。面白いな異世界」
「さっきは大嫌いって言ってたくせに。ふふ、そんなワケで色々と魔具はあるんだよ」
「へぇ。もしかしてその壁のランプもそれで?」
「そうそう。あれも一緒だよ、あの程度ならゴブリンの魔核を一つあれば、二十日間は持つかな」
その後フェリスに馬たちを誘導してもらい、大量のフンを片付ける。
想像以上に過酷な作業であり、やってはみたものの吐き気と涙が止まらなかった。
「うっぷ……ガマンだ。俺の生活をよくするためにガマンだ。頑張れ俺、負けるな俺、泣いてなんか無いんだもん」
「呪文のように呟くの怖いんですけど」
「うっさいよ! たく、ここまで過酷なものだとは思わなかったぜ……酪農家さんの苦労を初めて知った。今度から感謝して食べることにする」
「この状況で食べることねぇ。図太いというか何というか……ん、誰か来たよ?」
「あぁそのようだな。敵か?」
「堂々と入って来たから、多分違うかな」
フェリスと戦極は四人の気配を感じる。
その影が近づいてくると、二人の前に現れて大声で叫ぶのであった。
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