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完全開放!! 爽快バトル編
093:戦極無双
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「聖眼のエカテリーナ、一つ聞きたい。どうして俺を殺そうとする?」
「どうして? 王名だからですわ。真の王のね」
「真の王? 誰だよソレは?」
「バーゲン卿ですわよ。まぁセルド王は、まだ下等種を活かせとの事でしたがね」
「で、どうして殺そうと?」
「知りませんわ。どうせ殺すんですもの、知ろうとも思いませんですし。ただ……おとぎ話に関係するのかもしれませんわね」
「おとぎ話? なんだよそりゃ」
「質問は一つまで。さぁお逝きなさい、旅立ちの支度はよくて?」
おいおい、ちゃんと王様の言う事は聞こうぜ?
おとぎ話ねぇ。俺の先祖と関係があるのか?……っと、そろそろ来るか。
「よろしくはないが、よくてよ?」
「どこまでもフザケタ男ですわね……死になさい! ダストホール!!」
歪む視界。
だが戦極がいる空間ではなく、少し前面の空間が歪み別のモノが戦極の前へと引き寄せられた。
「グゴアアアアアア!!」
それは王の残骸であり、戦極へとアシッドランスを放ちながら喰らいつく。
「チィッ、デタラメな事を」
『警告。骨ホネの背後より大魔力が放たれました。緊急回避を推奨』
「コイツごと俺を殺るきか!? どこまでもデタラメな事をしやがって!!」
アシッドランスが戦極へと向けられた瞬間、背後よりエカテリーナの渾身の魔法が放たれる。
「肉も骨も髪の毛すら残らず消え失せなさい! 【大気の刃よ、我が願いに応え濃密に絡み合い、圧殺し貫く暴力となれ! 大気魔法――エア・バースト!!】」
エカテリーナは十分に安全マージンを取り放った、殺戮の塊が戦極へ迫るまで、残り三十メートル。
すべてを飲み込む暴力の塊、エア・バースト。
圧倒的なまでの破壊力で、次々と柱を巻き込み襲い来る大気の暴力は、確実に王の残骸を呑み込み戦極をも殺す。
直前のアシッドランスに注意をそらされ、躱すタイミングを完全に失った戦極。
だが冷静に五連斬を放ち、アシッドランスを迎撃。
歪んだ空間から脱出に苦労している、王の残骸の背後よりせまる、黒い風の暴力を見て思う。
先祖も俺と同じような目にあったのか? と、取止めのない事を考え軽く笑う。
絶体絶命のピンチのはずだが、逆に冷静になる自分を面白く感じつつ、三百年の血筋に呆れる。
「やれやれ、俺の血筋は大概だな」
『驚。今さらですか? 治療魔法をオススメします』
「前向きに善処するさ。で、状況は?」
『戦極様、悲恋ともに、妖力は五割で目標充填率を達成。ウェポンズフリーです』
それに頷くも、なぜ横文字案内になるのか? と首をかしげつつ、使う業を選択する。
「――太刀魚を竜王形態で放つ」
『承知いたしました。悲恋内の妖気圧力チャンバー加圧。妖気充填率……五十……六十八……八十……九十九……百二十パーセント。開放タイミングは戦極様へと譲渡。何時でも放てます』
「了解だ。さぁ……ドSビッチに、目にものを見せてやろうぜ」
戦極は悲恋を納刀すると左足を引き、前かがみに腰を落とす。
妖刀・悲恋美琴に紫電がほとばしり、開放の時を待つ。
迫る黒い嵐。そこの中心にむかい、最大に圧縮した妖気を載せて開放。
「何人も竜王の道を遮ることを許さず――ジジイ流 抜刀術! 奥義 大太刀魚!!」
悲恋を高速抜刀した瞬間、鞘から妖気が爆発的に開放。
まばゆい妖光で一瞬目がくらみそうなほど、濃密で全てを破壊する力が出現する。
そのまま悲恋を目にも止まらない速さで振り抜くと、銀鱗の竜王が出現し、エア・バーストに噛みつき砕く。
凶悪な黒い嵐が〝バカリ〟と二つに割れると、そこへ周囲の空気が吸い込まれ始める。
『提案。ビッチまでの上昇気流が発生中。それに乗り感動の再会に期待』
「言うねぇ美琴。じゃあ、感動の再会ってやつをトコトン楽しもうじゃねぇか!」
そう言うと戦極は妖気で足を強化し、勢いよくエア・バースト内へと侵入するのだった。
◇◇◇
「ククク……ア~ッハッハッハ!! 勝った、完全に勝ちましたわ! あの忌々しい下等種を粉々にして、グズグズのゴミクズにして殺りましたわ!!」
すでにエア・バーストに呑み込まれそうになり、姿が見えなくなる戦極。
その様子を見て、今度こそ勝利を確信したエカテリーナは、両手を広げ高らかに嗤う。
その恍惚とした表情と同時に、エア・バーストが炸裂し部屋が衝撃と粉塵で満たされる。
エカテリーナはエアシールドで体をコーティングし、衝撃と爆風から身を守りホコリが収まるのを待つ。
だが今だエア・バーストは続いており、黒い風の暴力がやむ気配がない。
広いとは言え、いつ崩壊しても不思議じゃない部屋など知った事かと、魔法を放ちつづける。
いつの間にか王の残骸は消え失せ、散骨したのだろうと呆れつつも、そんなことよりも、戦極の安否が気になる。
「……完全に滅びましたか? 他愛のない、しょせんは下等種。上級妖魔に敵うはずが――ッ、なんですの!?」
突如エア・バーストが真っ二つに分かれ、そこから衝撃と共に爆風がエカテリーナを襲う。
さらにエアシールドの強度をました瞬間、裂け目より銀鱗のバケモノが現れて、エカテリーナの左側面をかすめ飛ぶ。
大きさは直径二メートルほどあり、先頭にはヒゲの生えたドラゴンによく似た生物のように見えた。
その事実に戦慄する暇もなく、爆風に押し上げられ、裂けた割れ目より現れた男にさらに戦慄。
それはここ最近、もてあそび、嬲り、今日殺すはずだった下等種と蔑む男――古廻戦極その人だったのだから。
「か、下等種!? 死んだはずでは!!」
「誰がドSビッチのそよ風で死ぬかよ。ホンモノの強者ってやつを、その身に刻み地獄で懺悔しな」
エカテリーナは両手にエアファルチェを作り出すと、前面より迫る戦極へと向かい刃を振るう。
「クッッソガアアアアア!! コマワリセンゴクウウウウウウウウウ!!」
「いい女に名を呼ばれるのは心躍るが、テメェは千回死んで出直せ。ジジイ流 連斬術――桜乱鏡舞!!」
――桜乱鏡舞。
桜の華が舞い散る刹那の如く、無軌道にいくつもの斬撃を放つ。
それが鏡に映り込み、二重八重と連斬は加速したように見え、結果――。
「……? はあああ? なんですの? その見せかけだけの攻撃は? 笑わせてくれるじゃないですか? アハハハハ」
「百……だったか?」
『否。戦極様を二百に切り刻む。そう言っていました』
「あぁそうだったか。すまないドSビッチ師匠、加減を間違えて五百を超えた」
戦極の言っている意味が、まったく理解できないエカテリーナ。
気がつけば戦極は自分の後ろにおり、しかも背中を向けていた。
「異世界人だからか、下等種なのか。意味のわからないことを言いますわね。でも――それが遺言として受け取っておきますわ!!」
右手に持つエアファルチェを高く上げ、背を向ける戦極へと勢いよく振り下ろす。
「ヴァアアアアカガ!! 今度こそ消えて無くなれええええええええええ!!」
戦国の首筋まで残り一メートル。
数瞬後には胴体から斬り落とされると想像し、快楽成分がエカテリーナの脳内を支配する。
そんな至福の時を、澄んだ音色がかき消した。
そう、戦極が悲恋を納刀した時に、鞘と鍔が合わさった事によるものだ。
日本人なら馴染み深い、南部鉄の風鈴を思わせる涼を感じる音によく似たもの。
それがよく響いた瞬間――。
「え……? ッぎゃああああ!? わたくしの腕があああああ!!」
「まずは右腕一本」
攻撃した腕がもげ落ち、それに泣き叫ぶエカテリーナ。
だがそれに戦極は振り返らず言うと、そのまま続ける。
「聖眼のエカテリーナ。テメェは喧嘩を売る相手を間違えた」
「ヒィ……!? な、何者なのアナタ!!」
「俺か? 俺はただの骨董屋になりたいただの一般人だ」
「そ、そんな商人がいていいはずが無いですわ! そ、そうだ下等――い、いえセンゴク様! わたくしが貴方様の配下になりましょう! わたくしがいれば、この国を自由にできますわよ? どうです、貴方様と二人でこの国を手に入れましょう! も・ち・ろ・ん、夜もわたくしを好きになさっ――」
それに戦極は言葉をかぶせ、宣言する。
「――聞くに堪えないとはこういう事をいうのかねぇ。こちとら創業三百年の武道家さね。異世界でオマエのようなバケモノを、屠るために舞い戻ってきた」
そこで戦極は話をやめた瞬間だった。
エカテリーナがチャンスとばかりに、残った左手にもったエアファルチェで襲いかかってきた、が。
「オマエのような小物界隈のバケモノは、〝ホンモノのバケモノ〟には敵わない」
「ウルサイしねええええッ!!」
戦極はそう言うと、右手で指を鳴らす。
「オマエはすでに終わっているんだよエカテリーナ。地獄でオマエに世話になった人々が待っている」
「ハ……何を言ってい――ッ」
そう言い残すと、エカテリーナは五百の断片になり崩れ落ちる。
戦国の背後で〝ドシャリ〟と生々しい音が響き、それを見ることもなく歩き出す。
「やれやれ、やっと終わったか。さて……」
戦極は悲恋を一瞬見るが、そのまま納刀して静かに話しかける。
「魂抜刀モード解除」
瞬間、悲恋より荒ぶる妖気がおさまり、穏やかになった悲恋から声がする。
『うぅ……ん……』
「大丈夫か美琴? お疲れ様、本当に助かったよ」
『あ……戦極様? あ! エッチィビッチはどうなったんだよ? やっつけられたんだよ?』
「おまえのお陰でな。本当にありがとう」
『えへへ♪ 褒められちゃったんだよ。なんか嬉しいかも』
そんな話をしつつ、出口へと向かう。
美琴はハット思い出すと、声を上げた。
『あ! 忘れていたんだよ! わん太郎が入口周辺に転がっているはずなんだよ!!』
「わん太郎? そういえばそんな事言っていたなぁ。まぁアイツの事だ、大丈夫だろう。とりあえずココを出ようぜ? 崩れそうでヤバイからな」
『そうだね。でもどこに行っちゃったのかな? 入り口にもいないし……ちょっと心配だよ』
「問題ないさ。アイツの封印もとけたろうから、ここが崩れても平気だろう」
『そういえばそうだったんだよ。だって、わん太郎だから平気なんだよ』
そう言うと二人は歩き出す。その足取りは軽く、今日までの苦労などなかったかのようだった。
◇◇◇
戦極たちがボス部屋を後にして数分後、エカテリーナの死体に変化があらわれる。
細切れだった体が、徐々に一つになり、やがて人の形になると激しく光を放つ。
そして荒々しい息とともに、一人の美しい女が復活した。
そう――聖眼のエカテリーナこと、サキュバスクィーンである。
「ぶあっはぁ!! ハァハァハァ……。や、やってくれましたわね下等種……必ず! そう必ず、わたくしが味わった以上に粉々にして、オークのエサにしてやりますわ!!」
エカテリーナの武器の一つ。血糸指輪にはもう一つの効果があった。
本来あれは攻撃用のアイテムではなく、指輪が奪われないようにするためもの。
それと言うのも、一度だけ復活できるという激レアアイテムであり、今回戦極に殺された事で自動的に復活を果たす。
貴重なアイテムまで使用したうえ、獲物たる戦極まで取り逃がし怒りがこみ上げる反面、このままでは勝てないと理解。
「忌々しいですが、この事を早急にバーゲン卿へお知らせせねば……」
一刻も早くこの事をバーゲンへと報告に行こうと、入り口へ向け歩き出した瞬間、背後から恐ろしい気配が近づく。
「な、なんですの!?」
びくりとして振り返るエカテリーナ。
だがそれを後悔した。死ぬほど後悔した。
その視線の先にいた、バケモノ中のバケモノを聖眼で見てしまったのだから。
バケモノの体は体長が十メートルはあり、恐ろしい四足獣。
よく見れば体全体が、透明度の高い氷で出来ており、そこに青白い毛皮が部分的に見える。
瞳は特大のルビーがハマっているように見え、まるで真紅の宝玉としか思えない。
一定の部分が、青白い毛皮で覆われた顔も氷で出来ており、恐ろしい足音で近づいてくる。
さらに近くで見れば、絶望的で圧倒的な強さを感じ、魂の芯から恐怖にしばられ震えが止まらない。
「我は氷狐王。親愛なる主を愚弄せし、ドブ川よりも醜い愚かな女に鉄氷を下す者よ」
絶対に敵うはずもない、目の前にいる存在の力が恐ろしかった。
死ぬほど恐ろしい。ただソレだけが魂からの叫びであり、エカテリーナは脇目も振らずに逃げ出す。
「ヒィッ!? ひぃぃぃぃぃぃぃ!! やだやダやだヤダやだヤだやダ! 死ぬのは嫌! 死、シヌ。いや、ダメあああああああ!! やだ、ダメ絶対にああああ!! 死にたくない!? たす、誰か、だれかあああああ!! た、た、たたすけぇぇぇ――え?」
自分の恐怖が臨界にたっした事で、過去最高の傑作だった光景が目に浮かぶ。
どこかの村で、今の自分と同じ事を言いながら、逃げた男を嬲った事を思い出す。
ブザマに四肢を失い、地面を汚虫と同じく這いずりまわる哀れな男を。
あれは最高の夜だった……。
甘美な悲鳴と、絶望に支配された胸焼けするほどの清々しい悲鳴。
それを楽しんで殺したあの時と、今自分がそれと同じ目にあっている絶対的な理不尽で、恐怖が加速する。
一刻も早くここを去りたい、逃げ出したい!!
そんな願いも虚しく、〝バメッギャリ〟と言う聞いたことのない音が足元から聞こえた。
振り返れば右足が後ろに立っており、片足がない反動でエカテリーナは前へと倒れる。
そのまま体全体が凍りつき、床に倒れる頃には粉々になり絶命したのだった。
「……こんなモノに主が嬲られていたとは。〆様が聞いたら、この国はあっという間に滅ぼされるだろうな」
そう言うと氷狐王は氷の体を震わせて恐れる。
〆とはそういう存在であり、元々は〆に召喚されたのが氷狐王だった。
「さて、主のところへとゆくか」
氷で出来た恐ろしい足音を響かせて、氷狐王は去ってゆく。
あとに残ったのは、永遠に溶けない氷で出来たエカテリーナの残骸が残り、聖眼が恐怖を浮かべ転がるだけであった。
「どうして? 王名だからですわ。真の王のね」
「真の王? 誰だよソレは?」
「バーゲン卿ですわよ。まぁセルド王は、まだ下等種を活かせとの事でしたがね」
「で、どうして殺そうと?」
「知りませんわ。どうせ殺すんですもの、知ろうとも思いませんですし。ただ……おとぎ話に関係するのかもしれませんわね」
「おとぎ話? なんだよそりゃ」
「質問は一つまで。さぁお逝きなさい、旅立ちの支度はよくて?」
おいおい、ちゃんと王様の言う事は聞こうぜ?
おとぎ話ねぇ。俺の先祖と関係があるのか?……っと、そろそろ来るか。
「よろしくはないが、よくてよ?」
「どこまでもフザケタ男ですわね……死になさい! ダストホール!!」
歪む視界。
だが戦極がいる空間ではなく、少し前面の空間が歪み別のモノが戦極の前へと引き寄せられた。
「グゴアアアアアア!!」
それは王の残骸であり、戦極へとアシッドランスを放ちながら喰らいつく。
「チィッ、デタラメな事を」
『警告。骨ホネの背後より大魔力が放たれました。緊急回避を推奨』
「コイツごと俺を殺るきか!? どこまでもデタラメな事をしやがって!!」
アシッドランスが戦極へと向けられた瞬間、背後よりエカテリーナの渾身の魔法が放たれる。
「肉も骨も髪の毛すら残らず消え失せなさい! 【大気の刃よ、我が願いに応え濃密に絡み合い、圧殺し貫く暴力となれ! 大気魔法――エア・バースト!!】」
エカテリーナは十分に安全マージンを取り放った、殺戮の塊が戦極へ迫るまで、残り三十メートル。
すべてを飲み込む暴力の塊、エア・バースト。
圧倒的なまでの破壊力で、次々と柱を巻き込み襲い来る大気の暴力は、確実に王の残骸を呑み込み戦極をも殺す。
直前のアシッドランスに注意をそらされ、躱すタイミングを完全に失った戦極。
だが冷静に五連斬を放ち、アシッドランスを迎撃。
歪んだ空間から脱出に苦労している、王の残骸の背後よりせまる、黒い風の暴力を見て思う。
先祖も俺と同じような目にあったのか? と、取止めのない事を考え軽く笑う。
絶体絶命のピンチのはずだが、逆に冷静になる自分を面白く感じつつ、三百年の血筋に呆れる。
「やれやれ、俺の血筋は大概だな」
『驚。今さらですか? 治療魔法をオススメします』
「前向きに善処するさ。で、状況は?」
『戦極様、悲恋ともに、妖力は五割で目標充填率を達成。ウェポンズフリーです』
それに頷くも、なぜ横文字案内になるのか? と首をかしげつつ、使う業を選択する。
「――太刀魚を竜王形態で放つ」
『承知いたしました。悲恋内の妖気圧力チャンバー加圧。妖気充填率……五十……六十八……八十……九十九……百二十パーセント。開放タイミングは戦極様へと譲渡。何時でも放てます』
「了解だ。さぁ……ドSビッチに、目にものを見せてやろうぜ」
戦極は悲恋を納刀すると左足を引き、前かがみに腰を落とす。
妖刀・悲恋美琴に紫電がほとばしり、開放の時を待つ。
迫る黒い嵐。そこの中心にむかい、最大に圧縮した妖気を載せて開放。
「何人も竜王の道を遮ることを許さず――ジジイ流 抜刀術! 奥義 大太刀魚!!」
悲恋を高速抜刀した瞬間、鞘から妖気が爆発的に開放。
まばゆい妖光で一瞬目がくらみそうなほど、濃密で全てを破壊する力が出現する。
そのまま悲恋を目にも止まらない速さで振り抜くと、銀鱗の竜王が出現し、エア・バーストに噛みつき砕く。
凶悪な黒い嵐が〝バカリ〟と二つに割れると、そこへ周囲の空気が吸い込まれ始める。
『提案。ビッチまでの上昇気流が発生中。それに乗り感動の再会に期待』
「言うねぇ美琴。じゃあ、感動の再会ってやつをトコトン楽しもうじゃねぇか!」
そう言うと戦極は妖気で足を強化し、勢いよくエア・バースト内へと侵入するのだった。
◇◇◇
「ククク……ア~ッハッハッハ!! 勝った、完全に勝ちましたわ! あの忌々しい下等種を粉々にして、グズグズのゴミクズにして殺りましたわ!!」
すでにエア・バーストに呑み込まれそうになり、姿が見えなくなる戦極。
その様子を見て、今度こそ勝利を確信したエカテリーナは、両手を広げ高らかに嗤う。
その恍惚とした表情と同時に、エア・バーストが炸裂し部屋が衝撃と粉塵で満たされる。
エカテリーナはエアシールドで体をコーティングし、衝撃と爆風から身を守りホコリが収まるのを待つ。
だが今だエア・バーストは続いており、黒い風の暴力がやむ気配がない。
広いとは言え、いつ崩壊しても不思議じゃない部屋など知った事かと、魔法を放ちつづける。
いつの間にか王の残骸は消え失せ、散骨したのだろうと呆れつつも、そんなことよりも、戦極の安否が気になる。
「……完全に滅びましたか? 他愛のない、しょせんは下等種。上級妖魔に敵うはずが――ッ、なんですの!?」
突如エア・バーストが真っ二つに分かれ、そこから衝撃と共に爆風がエカテリーナを襲う。
さらにエアシールドの強度をました瞬間、裂け目より銀鱗のバケモノが現れて、エカテリーナの左側面をかすめ飛ぶ。
大きさは直径二メートルほどあり、先頭にはヒゲの生えたドラゴンによく似た生物のように見えた。
その事実に戦慄する暇もなく、爆風に押し上げられ、裂けた割れ目より現れた男にさらに戦慄。
それはここ最近、もてあそび、嬲り、今日殺すはずだった下等種と蔑む男――古廻戦極その人だったのだから。
「か、下等種!? 死んだはずでは!!」
「誰がドSビッチのそよ風で死ぬかよ。ホンモノの強者ってやつを、その身に刻み地獄で懺悔しな」
エカテリーナは両手にエアファルチェを作り出すと、前面より迫る戦極へと向かい刃を振るう。
「クッッソガアアアアア!! コマワリセンゴクウウウウウウウウウ!!」
「いい女に名を呼ばれるのは心躍るが、テメェは千回死んで出直せ。ジジイ流 連斬術――桜乱鏡舞!!」
――桜乱鏡舞。
桜の華が舞い散る刹那の如く、無軌道にいくつもの斬撃を放つ。
それが鏡に映り込み、二重八重と連斬は加速したように見え、結果――。
「……? はあああ? なんですの? その見せかけだけの攻撃は? 笑わせてくれるじゃないですか? アハハハハ」
「百……だったか?」
『否。戦極様を二百に切り刻む。そう言っていました』
「あぁそうだったか。すまないドSビッチ師匠、加減を間違えて五百を超えた」
戦極の言っている意味が、まったく理解できないエカテリーナ。
気がつけば戦極は自分の後ろにおり、しかも背中を向けていた。
「異世界人だからか、下等種なのか。意味のわからないことを言いますわね。でも――それが遺言として受け取っておきますわ!!」
右手に持つエアファルチェを高く上げ、背を向ける戦極へと勢いよく振り下ろす。
「ヴァアアアアカガ!! 今度こそ消えて無くなれええええええええええ!!」
戦国の首筋まで残り一メートル。
数瞬後には胴体から斬り落とされると想像し、快楽成分がエカテリーナの脳内を支配する。
そんな至福の時を、澄んだ音色がかき消した。
そう、戦極が悲恋を納刀した時に、鞘と鍔が合わさった事によるものだ。
日本人なら馴染み深い、南部鉄の風鈴を思わせる涼を感じる音によく似たもの。
それがよく響いた瞬間――。
「え……? ッぎゃああああ!? わたくしの腕があああああ!!」
「まずは右腕一本」
攻撃した腕がもげ落ち、それに泣き叫ぶエカテリーナ。
だがそれに戦極は振り返らず言うと、そのまま続ける。
「聖眼のエカテリーナ。テメェは喧嘩を売る相手を間違えた」
「ヒィ……!? な、何者なのアナタ!!」
「俺か? 俺はただの骨董屋になりたいただの一般人だ」
「そ、そんな商人がいていいはずが無いですわ! そ、そうだ下等――い、いえセンゴク様! わたくしが貴方様の配下になりましょう! わたくしがいれば、この国を自由にできますわよ? どうです、貴方様と二人でこの国を手に入れましょう! も・ち・ろ・ん、夜もわたくしを好きになさっ――」
それに戦極は言葉をかぶせ、宣言する。
「――聞くに堪えないとはこういう事をいうのかねぇ。こちとら創業三百年の武道家さね。異世界でオマエのようなバケモノを、屠るために舞い戻ってきた」
そこで戦極は話をやめた瞬間だった。
エカテリーナがチャンスとばかりに、残った左手にもったエアファルチェで襲いかかってきた、が。
「オマエのような小物界隈のバケモノは、〝ホンモノのバケモノ〟には敵わない」
「ウルサイしねええええッ!!」
戦極はそう言うと、右手で指を鳴らす。
「オマエはすでに終わっているんだよエカテリーナ。地獄でオマエに世話になった人々が待っている」
「ハ……何を言ってい――ッ」
そう言い残すと、エカテリーナは五百の断片になり崩れ落ちる。
戦国の背後で〝ドシャリ〟と生々しい音が響き、それを見ることもなく歩き出す。
「やれやれ、やっと終わったか。さて……」
戦極は悲恋を一瞬見るが、そのまま納刀して静かに話しかける。
「魂抜刀モード解除」
瞬間、悲恋より荒ぶる妖気がおさまり、穏やかになった悲恋から声がする。
『うぅ……ん……』
「大丈夫か美琴? お疲れ様、本当に助かったよ」
『あ……戦極様? あ! エッチィビッチはどうなったんだよ? やっつけられたんだよ?』
「おまえのお陰でな。本当にありがとう」
『えへへ♪ 褒められちゃったんだよ。なんか嬉しいかも』
そんな話をしつつ、出口へと向かう。
美琴はハット思い出すと、声を上げた。
『あ! 忘れていたんだよ! わん太郎が入口周辺に転がっているはずなんだよ!!』
「わん太郎? そういえばそんな事言っていたなぁ。まぁアイツの事だ、大丈夫だろう。とりあえずココを出ようぜ? 崩れそうでヤバイからな」
『そうだね。でもどこに行っちゃったのかな? 入り口にもいないし……ちょっと心配だよ』
「問題ないさ。アイツの封印もとけたろうから、ここが崩れても平気だろう」
『そういえばそうだったんだよ。だって、わん太郎だから平気なんだよ』
そう言うと二人は歩き出す。その足取りは軽く、今日までの苦労などなかったかのようだった。
◇◇◇
戦極たちがボス部屋を後にして数分後、エカテリーナの死体に変化があらわれる。
細切れだった体が、徐々に一つになり、やがて人の形になると激しく光を放つ。
そして荒々しい息とともに、一人の美しい女が復活した。
そう――聖眼のエカテリーナこと、サキュバスクィーンである。
「ぶあっはぁ!! ハァハァハァ……。や、やってくれましたわね下等種……必ず! そう必ず、わたくしが味わった以上に粉々にして、オークのエサにしてやりますわ!!」
エカテリーナの武器の一つ。血糸指輪にはもう一つの効果があった。
本来あれは攻撃用のアイテムではなく、指輪が奪われないようにするためもの。
それと言うのも、一度だけ復活できるという激レアアイテムであり、今回戦極に殺された事で自動的に復活を果たす。
貴重なアイテムまで使用したうえ、獲物たる戦極まで取り逃がし怒りがこみ上げる反面、このままでは勝てないと理解。
「忌々しいですが、この事を早急にバーゲン卿へお知らせせねば……」
一刻も早くこの事をバーゲンへと報告に行こうと、入り口へ向け歩き出した瞬間、背後から恐ろしい気配が近づく。
「な、なんですの!?」
びくりとして振り返るエカテリーナ。
だがそれを後悔した。死ぬほど後悔した。
その視線の先にいた、バケモノ中のバケモノを聖眼で見てしまったのだから。
バケモノの体は体長が十メートルはあり、恐ろしい四足獣。
よく見れば体全体が、透明度の高い氷で出来ており、そこに青白い毛皮が部分的に見える。
瞳は特大のルビーがハマっているように見え、まるで真紅の宝玉としか思えない。
一定の部分が、青白い毛皮で覆われた顔も氷で出来ており、恐ろしい足音で近づいてくる。
さらに近くで見れば、絶望的で圧倒的な強さを感じ、魂の芯から恐怖にしばられ震えが止まらない。
「我は氷狐王。親愛なる主を愚弄せし、ドブ川よりも醜い愚かな女に鉄氷を下す者よ」
絶対に敵うはずもない、目の前にいる存在の力が恐ろしかった。
死ぬほど恐ろしい。ただソレだけが魂からの叫びであり、エカテリーナは脇目も振らずに逃げ出す。
「ヒィッ!? ひぃぃぃぃぃぃぃ!! やだやダやだヤダやだヤだやダ! 死ぬのは嫌! 死、シヌ。いや、ダメあああああああ!! やだ、ダメ絶対にああああ!! 死にたくない!? たす、誰か、だれかあああああ!! た、た、たたすけぇぇぇ――え?」
自分の恐怖が臨界にたっした事で、過去最高の傑作だった光景が目に浮かぶ。
どこかの村で、今の自分と同じ事を言いながら、逃げた男を嬲った事を思い出す。
ブザマに四肢を失い、地面を汚虫と同じく這いずりまわる哀れな男を。
あれは最高の夜だった……。
甘美な悲鳴と、絶望に支配された胸焼けするほどの清々しい悲鳴。
それを楽しんで殺したあの時と、今自分がそれと同じ目にあっている絶対的な理不尽で、恐怖が加速する。
一刻も早くここを去りたい、逃げ出したい!!
そんな願いも虚しく、〝バメッギャリ〟と言う聞いたことのない音が足元から聞こえた。
振り返れば右足が後ろに立っており、片足がない反動でエカテリーナは前へと倒れる。
そのまま体全体が凍りつき、床に倒れる頃には粉々になり絶命したのだった。
「……こんなモノに主が嬲られていたとは。〆様が聞いたら、この国はあっという間に滅ぼされるだろうな」
そう言うと氷狐王は氷の体を震わせて恐れる。
〆とはそういう存在であり、元々は〆に召喚されたのが氷狐王だった。
「さて、主のところへとゆくか」
氷で出来た恐ろしい足音を響かせて、氷狐王は去ってゆく。
あとに残ったのは、永遠に溶けない氷で出来たエカテリーナの残骸が残り、聖眼が恐怖を浮かべ転がるだけであった。
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