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2<完結>

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 店の奥には、綺麗な洋式の個室トイレが一つあった。居酒屋のトイレらしく、照明が落としてあり、店内より少し薄暗い。ドアを開け、入ろうとした瞬間、後ろからドンッと押された。驚きのあまり慌てて振り向くと、樹が後ろ手でトイレの鍵を閉めていた。

「康治、酔っちゃった?」

ビールをほんのちょっとしか飲んでないのに酔うはずがない。でも、樹がにこりと笑って聞いてくると、酔ったように熱が上がる。

 樹が笑うところは付き合っていたときから見ていたが、今日のの笑顔はどこか凄みがあって、色っぽい。

「…おまえ、ここトイレだぞ」
「知ってるよー」
「連れションでもしたいのか」

 樹は妙なテンションで俺に話しかける。けれど、俺の返事を聞いて、一瞬キョトンとした一樹は、すぐさま笑顔になり、こう言った。

「いいね。じゃあ、康治の手伝ってあげよっか」

 そう言うなり、俺の身体を洋式トイレがある方にくるりと回転させ、後ろから抱きついてきた。と思いきや、スーツのチャックを開けようとしている。

「はっ!? なに、やめろ…っ! 」
「んー。あれ? さっき、少し反応してたのに、戻っちゃってる」

  慌てて、俺の股間を擦り上げる手を掴んで止める。が、その手を後ろに取られてしまった。

「ね。康治、今日なんで合コンなんてきたの?」

 背中に樹が密着している。耳元でそっと囁かれて、身体の芯に熱がともる。素直に恋人が欲しかったからと言いそうになったが、何故か背筋がゾッとしたので、やめておく。

「ぁっ…。 …なんか飲みたい気分だったから…手、やめろって」
「ふーん。飲みたいだけ? じゃあ、今日は俺のマンションで飲み直せばいいよね? 」
「…? …この後か? 」
「ううん。いまから」
「それはダメだろ。瀬川が困るぞ」

 何を言っているのか分からないが、合コンを抜けるつもりなのだろうと思ったが、それだと幹事の瀬川が困る。そう伝えたところ、樹はひょうひょうとのたまった。

「瀬川さんには、もう言ってあるよ。むしろ、三十分したら、俺の会社の後輩が二人くることになってるし」
「は? じゃあ男が六人になるじゃねーか」
「もー!康治は鈍い!そこが可愛いんだけど」

 可愛いと言われ、少し頬を染めてしまったのは、惚れた弱みで許して欲しい。

「とにかく、いまから俺の家に行こ!」

 そう言われて、半分くらいまで下ろされていた俺のズボンのチャックをさっとあげられた。何がなんだか分からないままに丸め込まれて、タクシーに乗りこみ、二カ月前まで通っていた樹のマンションへ向かうことになった。(席においてあった俺のかばんは樹が持ってきてくれていた。なぜだ)

 タクシーではトイレの中での出来事が嘘のようで、この前開発した商品の売れ行きや商品を購入した客からの声を話した。こうやって開発している時が楽しかったなあとしみじみ思った。別れても友人として付き合っていけたらいいのかもしれない。

 友人として付き合って行けば、奥さんのことや、これから生まれるであろう子どものことを聞いても、胸が痛まなくなる日が来るかもしれない。…何年かかるかは分からないが。

 途中、樹がコンビニに寄りたいといって、降りて行った。袋を見るとビールを買ってきていて、どうやら宅飲みをするようだ。

 その瞬間、重大なことに気が付いてしまった。

 …もしも、樹のマンションに、婚約者の女性がいたらどうしよう。むしろ、結婚報告されたらどうしよう。いつかは穏やかに友人として付き合えたらいいが、今日の今日は心の準備が追いつかない。

「…なあ。やっぱりおまえの家じゃないとダメか」
「俺の家に来るのはいや? 」

 なぜかひやりとする声で聞かれ、言葉に詰まる。

「…そういうわけじゃない」
「ならいいでしょ。…もしかして、誰かに操でも立ててるの」

 樹の声が少し硬くなる。樹の機嫌が悪くなるときの合図だ。そうこうしているうちに、樹のマンションに着いた。

 樹のマンションは都心にある三LDKで、初めて来た時は文房具メーカーって結構稼いでるんだと思ったが、跡取り息子なら納得だ。

 これまでと違うことは、エレベーターの中が気まずい沈黙で満たされていることだ。これまでは、付き合っていたころはエレベーターに入った途端、手を繋いでいたから。

 変わってしまった二人の関係にほんの少し心を痛めつつも、着いてしまったものはしょうがないと、腹をくくって、樹の後に続いて、玄関に入った瞬間だった。

「…おじゃましま、ッ!!」

 肩をつかまれて、急に壁に押し付けられたと思ったら、樹の唇が降ってきた。喰らいつくように、口内の粘膜を舐められる。クチュというこもった音が耳に響く。最初こそびっくりしたものの、樹と触れ合えて、ドキドキしてしまう。
 
 訳が分からないのに、この唇を俺から引き剥がすことはできなかった。俺からも必死に舌を合わせると、樹は一層興奮したように舌を潜らせてきた。

 長いキスが終わり、ふとリビングに続くドアをみるが、明かりはついていない。今日は誰もいないようだ。それにほっとし、樹を見ると、熱っぽい視線で見つめられる。

 このままじゃ流されると本能的に感じた。こっちはまだ未練たらたらなんだ。でも、婚約者と二股かけられるのも嫌だ。そう思った俺は、この状況を打開するために、口を開いた。

「…とりあえず、リビング行くぞ」

 樹の胸を軽く押して、俺はリビングの扉を開ける。久しぶりにやって来た樹の部屋は、何も変わっていなかった。むしろ、俺が気に入っていたクッションやスリッパもそのままだった。樹の匂いがして、ドキドキする。

 付き合っていた頃と変わらないリビングの様子を見て、入り口で立ち止まっていると、樹が後ろから抱きしめてきた。

「…ねぇ。康治って、ほんと焦らし上手だね」
「なにが。それよりも、何で俺をここに連れて来たんだ。ちゃんと話し合おう。飲みながらでもいいから」

 付き合っていたころの定位置のソファに腰かけて、樹が買ってきたビールをテーブルに置く。ふかふかで寝れそうなくらい広いソファは、おそらくオーダーメイドだ。身体に馴染む固さが心地いい。

 しぶしぶといった様子で、隣に腰かけた樹は、俺の腰をさらっとなでて、ビールを手に取った。そして、重い溜息をついて、俺と自分の分のビールのプルタブを開けてくれた。

「あのままベッドにゴーしなかった俺を称えて、あらためてカンパーイ」
「? ...それより、瀬川は本当にだいじょうぶなのか」
「だいじょーぶ。むしろ、今日の合コンは俺が言い出したから」
「は?どういうことだ」
「康治は俺が誘ってもきてくれなかっただろうし。さっき、ちゃんと話そうって言ってたよね?…やっぱり別れようって話しがしたいってこと?」
「まあ、そうだな…。別れてるわけだしキスはダメだと思う」

 ここまでのこのこと着いて来てしまった俺が言えることではないが、婚約者がいるやつとは付き合えないだろう。誰も幸せになれない。

 そう答えると、チッという舌打ちが聞こえた。その瞬間、腕をつかまれ、ソファの上で樹に押し倒された。

 おい、おまえ家についてからそればっかじゃないか、狙ってた女性をお持ち帰りした男でももう少し丁寧に進めるぞ、という心の声は発せられることなく、俺の喉の奥に消えていく。

 こういう強引な樹は初めてで、それにもまたキュンとした俺に突っ込みを入れるしかない。そんな俺とは対照的に、一生から悲し気な目で見つめられて、戸惑う。

「なんで、別れたいの?」
「…別れた日に言っただろ。それがすべてだ」
「ふーん。まだそういうこと言うんだ?」

 樹の手が俺の身体を這い、ベルトを取られて、シャツのボタンが外されていく。

「なんだっけ? 告白されたとき雰囲気に流された、一年付き合って分かったけど性格が合わない気がする、セックスも気持ちよくなかった、だっけ?」

 冷たい声に反して、熱い指が俺の皮膚をなぞる。シャツがはだけて、下に来ていたインナーがたくし上げられる。

 淡く色づいた乳首は、初めての時も十分快楽をひろった。樹に触れられるところは全部気持ちよかった。きゅっとつままれると、じわっとした何かがひろがる。

「…っん」

 俺がその隙をついて、樹が下に手を伸ばしてくる。スーツの上から揉むように撫でられ、布を隔てたもどかしさに肌があわだつ。そうしていると、また唇を重ねられて、深く舌を挿れられる。

「…今野さんに何か言われたんじゃないの」

 やっと離れた口から出た言葉をを聞いて、ビクッと体が跳ねる。今野さんは、樹の婚約者のことを教えてくれたパートのおばちゃんだ。

「ちがう…!俺は何も知らないっ」
 
 聞きたくない。やめてくれ。そんな思いで、樹から逃れようともがく。

「…ふーん。まだそんなこというんだ」

 樹は、そんな俺の抵抗を軽くいなして、俺の下肢をピンポイントでこすり上げる。最近、気分が乗らず、自分で処理できていなかったせいか、すぐに身体の熱が上がってしまう。

「いつき、やめろッ…!」
「もう固いね。スーツ着たままだとやばいんじゃない? 精液ついたやつ、クリーニングだすの? 」
「やめッ…や、ァ」
「なんで別れたか素直に教えたくれたら、やめる」

 なにがしたいんだ、こいつは。そんなにも婚約者がいることを確かめさせたいのか。無理やり引き出される快楽と切ない心が反応して、うっすら瞳に水分が溜まる。

 このままイクのはいやだ。けれど、樹の手は止まらず、俺は白旗をあげた。

「くそっ…! 俺は、おまえとずっと一緒にいたかった…!でも、お前がちゃんとした人とこんやくしてるってきいて、おれじゃダメだと思ったんだ」

 最後のほうはぐずぐずで、少し鼻声になってしまった。樹はそんな俺を見て、俺の目をまっすぐ見て言った。

「じゃあ、別れたくない。俺、婚約者なんていないもん」
「は?」
「今野さんには、結婚を考えるくらい大事な恋人がいますって言っただけ」
「あ?」

 樹の言葉を聞いて、婚約者でも結婚を考えるくらい大事な恋人でも同じことだろうがと思って、キレ気味になってしまった。

 樹は苦笑して、俺の頬に軽くキスを落としてから、話しはじめた。

「そう答えたのは、康治と付き合ってるとき。…ここまで言って分かんない? 俺は、康治のことを言ったんだけど。そうしたら、なぜか尾ひれがついて、河野書店の娘さんと婚約したことになってたけど。今野さんの想像力の豊かさ、なめてたよ」
「そんな…」
「それに、俺、康治とヤるまで1年も我慢したんだよ。えらくない?それだけ、康治が大事だったし、ずっと一緒にいれると思ったから待てた。どれだけ我慢したと思ってるの」

 目の前の樹は俺が望んだ言葉ばかり吐く。もしかして、自分では知らない内に合コンで酔っ払って、これは夢なのだろうか。

「…うそだ」
「ほんとだよ」

 瞳に水分を浮かべたまま、しかめっつらした俺を、樹は愛しいものを見る目で見てく
る。

 樹は重要なことほど、ちゃんとストレートに伝えてくれるやつだ。だからこそ、働いていて楽しかったし、恋人として信頼してた。そして、今野さんは、確かに話を盛る。

「ごめんね。康治が辛い思いしてたこと、気づいてあげられなくて」
「…っ!」

 その言葉で、俺の涙腺は決壊した。本当は樹の隣にいるのは俺がよかった。その気持ちだけで、樹を傷つけた。それなのに、目の前の優しい男は俺を許してくれている。俺だってごめん、その気持ちが溢れて、俺は目の前にある身体に抱きつくしかできない。

「俺も悪かった…。それが、ほんとなら、続き、したい」

 樹の頭をかき抱いて、匂いを嗅いで、発情した犬のように身体を擦り付ける。樹がグッと息をのみ、たまらなくなったかのように、性急に手を伸ばしてくる。

「…セックスが気持ちよくなかったって、ぜったい撤回させるから」

 そこ、根に持ってたんだな。

ー--------------------

くちゃと濡れた音がする俺のそこには、樹の指が三本はいって、ばらばらに気持ちよさを引き出そうと動く。

「...康治、ここ?」
「あ、やだ、やっ」

 樹の指が気持ちいい塊を指で何度もこねる。そこを押されると、触られてもいない前が弾けそうになる。中で気持ちよくなって、腰が跳ねる。

「きもちい?」

 何度も何度も気持ちいいか確かめられて、茹だる頭でちょっと悪いことをしたなと反省する。だって、初めて抱かれたときも、初めてとは思えないくらい気持ちよかったから、よくなかったというのは嘘っぱちなのだ。

「きもちいっ!ァ、いいから、」
「じゃあ、もっと言って。…もっとみだれて」

 樹はそう言いながら、指を抜いて、俺の足を持ち上げて、間に割り込んできた。

 とろけた穴に剛直をあてられて、期待に身体が疼く。

「も、ほしい…!いつき」
「うん、」

 樹がぐっと腰に力を入れて、中に熱いものが深々と入ってきた。樹は、上半身を曲げてくれて、俺は広い背中に抱きついて、全身でくっつく。繋がっているところが、ドロドロに熱い。挿れただけで、気持ちいいところにあたり、中がキュンキュンしているのがわかる。

「ァ、ヤダ、気持ちいい、いつきの」
「…ッ!」
「…ッ!あ!、そこ、だめっ!あぁッ」

 樹はしばらく中が馴染むのを待ってくれたが、待ちきれないようにストロークがはじまった。奥の奥まで犯される快感に頭がうまく回らなくなる。俺はすでに射精したくて、でも樹は二人の体の間に手を差し入れ、俺のものを強く握りしめて離さない。

「や、あ、っ!やめろ、いつきっ!!、も、イキた、い、から」
「じゃあ、また俺とつきあうッ?」

 中の感覚から樹も相当切羽詰まっていることが分かるのに、必死に問われて、可愛すぎて穴がきゅっと反応してしまったのが分かる。樹も締め付けられて、びくりと身体を揺らした。
 
 答えなんて決まってる。けど、今ここでは言いたくない。ちゃんと頭が働いているときに伝えたい。

「あっ…!も、だめ、いつき、イかせてッ!イかせてくれたら、ァ、ちゃんと答えるから」
「…! くそ、なんでかわいいんだよっ!」
「や、ああ、ダメ!!イクっ!」

 樹が一層深く入りこみ、一番奥深くを穿たれながら達した瞬間、奥がぎゅっとひきつれるようにしまるのを感じた。それと同時に、樹が呻き、熱いものが入ってくる。その熱さに酔いながら、樹に顔を寄せて、唇を触れ合わせながら、囁くように伝える。

「ん。いつき、すき。おれ、おまえのこいびとになりたい」

 樹の出したものを自分になじませるように、樹が入った箇所をゆるくしめつけると、樹のものがまた芯を持ち始めた。

ー--------------------

 朝、目が覚めたら、樹の顔が目の前にあった。お互いすっぱだかのままだったが、さっぱりしており、同じくさっぱりした樹に抱きしめられている。

 寝顔が穏やかで、また付き合うことができた幸せをかみしめる。

 合コン開始20分で持ち帰られたけど、恋人になら問題なしだ。



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本堂 康治(ほんどう こうじ) 31歳 無自覚な枕上手


灰谷 樹(はいたに いつき)27歳 受けにメロメロ

初夜編もあげる予定です。

Xやってます!小ネタも呟いていますので、よかったらごフォローいただけると嬉しいです!

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@ichijo_twr
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