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第三章 青い睡蓮 (榴伽羅ver)
ニ
しおりを挟む僕とハバラ兄さんは食後のデザートまでしっかり頂いて、しばらく雑談に耽ってた。
地獄にも同じように朝陽が昇って、夜空にはめいっぱいの星が輝く。
僕たちがいる地獄は順界っていって、兄さんたちや他の、あの小鬼くんたちみたいな生物とか、普通の植物も生息してるんだって。
で、ハバラ兄さんたちは逆界の番人がお仕事。
ハバラ兄さんいわく、逆界はとにかく恐ろしいとこだから「絶対!近寄っちゃダメ!」って注意勧告された。まぁ、そうそう簡単には近づけないところだと思うけどね。
「ミツキ、明日にでも順界の案内してあげる♡」
「うん、ありがと。楽しみだ」
明日の地獄巡り観光?の予定を組んで、夕食、ごちそうさまでした。
椅子から下りて手前にあった皿から片付けようと手に取った。
「‥‥?んぁ?」
何やってる?みたいにハバラ兄さんが不思議そうに僕を見た。
「自分で食べたものは片付けなきゃね」
「!!いいって!いいって!そんなこと誰もしねえよ」
「なに言ってるの!自分で食べたものくらい自分で片付けなきゃ作ってくれる人に失礼でしょ!」
「‥‥‥‥‥」
ハバラ兄さんは言葉が出なかったみたい。
ここではこれが普通なのか?ここはホテルやレストランなんかじゃないよね。ここは地獄という家。
そして、鬼子母神って母様の家族が住んでるところ。僕もなんだか一員になっちゃってるけど。
「これは、家族の当たり前のこと!」
僕はスンとして両手に食べ終わった皿を持って片付けに行った。
あら…?
華歯さん――――なんか、また……
月の光がきれいだった。
「部屋に案内してあげる♡」って言われてたから、僕はハバラ兄さんについてった。
黒塗りの廊下を、月の明かりが「こんなにきれいだったなんて」って思いながら歩いてたら、
「チッ!」
あからさまに大きな舌打ちをしたハバラ兄さんの目線の先に誰かいる。
廊下と対になって施された手摺りに誰かが座ってた。
「お先に!オレとミツキはもう飯、済ませたからなっ」
フン!って鼻を鳴らしてハバラ兄さんが言う。
その誰かさんはトン!と手摺りから飛ぶようにして下りたかと思ったら、すぐ目の前にいた。
「会いたかった。ミツキ」
僕と同じ目線になるように腰を曲げた。
ほんの数センチのところ。
銀色に似た白鼠色の目がキレイだった。
それに、ウルフカットの髪色は月の光が当たって白銀に光ってる。
コクっ‥‥
美人って言ったら怒られるかな。端麗な顔がこんな間近にあって、僕は静かに唾を呑み込んだ。
それから―――、
「はい、これ。ミツキにプレゼント♡」
目の前に鮮やかな青い花を差し出してニコって微笑んだ。
「うわ‥‥きれい」
ほんとに、溜息が出そうなくらいきれいな青い花なんだ。
「なっ!榴伽羅、そんなもんくれんなっ!罪人の化身なんか!」
「なぁに言ってんの~。罪を背負って浄化したキレイな睡蓮なんだよぉ♡」
榴伽羅、って呼んだ。
その鬼はまた白鼠色の目を細めながら微笑んで、
「初めまして。と、これからよろしく」
って言って、
(ん―――――――‥‥??)
僕にキス。
目の色とは真逆な赤紅の唇がすぅ―――っと笑った。
「!!!うわゎゎゎっ!!!なにしてくれてんだよっっ!!」
ハバラ兄さんの慌てた顔。次の瞬間にはもう胸ぐらをつかんでた。
「おまえぇ!オレだってまだミツキにチュ――なんかしてねぇんだぞぉっ!」
「けへっ。お先に、ごちそうさま」
そうやってまた茶化すもんだから、ハバラ兄さんはさらに逆上。
「やめて。二人とも」
大きな壁に挟まれるみたいに僕は堰き止めた。
「ミツキ~また後でね~」
シルバーアッシュの髪を揺らして食堂の方へ向かって行った。
僕の、僕の初めてのファーストキスは奪われてしまった。ひょんなことで。
ファーストキスの味なんて、うっとりした甘い感覚をなんて思い描く余裕もなく。
しかも、人外の鬼様=兄様という種族に。
でも‥‥
まだドキドキしてる。
あの吸い込まれそうな目、際立った赤紅の唇。
(イヤ…じゃなかった…かな)
一時、僕はぼんやりとしてしまった。
これが、榴伽羅(以降、ルカラ)兄さんとの衝撃的な出会いだったんだ。
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