とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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主と従者の章

リヴォワールド

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リヴォワールドの料理は、簡素ではあったが、温かさが沁みる、久々の食事だった。

二人で食事の後、懇々と眠り続けるエルドナスを叩き起こしてフールと一緒に湯殿に押し込むと、そこにもう一人分の寝具を追加して、リヴォワールドはふう、と息を吐く。

ここまで、やっと辿り着いた。

リヴォワールドは、南の辺境の、幾分か情勢が穏やかな地域の領主の次男に生まれた。

物心ついた頃に、自分の過去世を夢に見た。

五度、自分は死んだ。
まるで舞台の上で繰り返す演目を観ている様だった。
五度とも、とある時期を境に、急激に体調を崩しての病死だった。
男に生まれた自分でも惚れ惚れとする、見事な体躯を持っていて、暴飲暴食などもしなかったはずなのに、である。

仲間が居た。
なぜこんなに恐ろしいモノが人間に膝を屈するのかと思うほど、美しく妖しき二体の最高位の人外。
武を極めた気風の良い、東国風の壮年の武士。
まるで世捨て人の様な、どこまでも研究熱心な学者の様な盟友と、そいつにまとわりつく道化師の小男。

自分を含めたその全員が、盟友を中心に集まった。

小男は、どこから来たのか誰も知らない。
ただ、自分が合流した時にはすでに盟友の側にいた。

小男は、他の仲間に比べたら──他の仲間の造作が良すぎるのだ──対して造作が良いわけではない。
しかし愛嬌たっぷりで、戯けた素振りで場を和ませるのもあり、自分を含めた皆から何かしらと可愛がられていた。
一度杖を振るえば侵入者を完膚なきまでに叩きのめす、魔のモノとしてのそら恐ろしさもあるが、何より、たった十階層とはいえど、複数にわたる迷宮システムを瞬時に解し、組み合わせる事で最高難易度の地下迷宮に構築するその手腕には、皆が一目を置いていた。

六人と連んでの迷宮の最下層生活は、満更でも無かった。最高の武と知と魔の理がそこにはあった。その一角を担っている事は、男にとっての誇りで誉であった。

自分が死んだ後の事は、どれもうっすらとしか分からない。
味方であるはずの王都から攻め込まれて、都市は滅びた。

そして自分の死後、ある程度の期間を置いて、また自分は五度、『リ・ボー』を生き直した。

そして六度目。

また繰り返すのか──いい加減にしろ。
リヴォワールドがそう思った瞬間、目が覚めた。

それから時折、自分では無い「何か」が、自分の身体を使って何かをしている事に気がついた。
その何かは、きっと未練があるのだと感じ取ったリヴォワールドは、「何か」が残した断片から、トーリボルの城塞都市に辿り着いた。

トーリボルの『狡猾なる領主』リ・ボー。

その名に行き着いたのと同時に、リヴォワールドの脳内に全ての情報が遠慮会釈無しに一気に展開された。

七日、熱を出して寝込んだ。
高熱がもたらす夢現の中で、自分を押し流そうとする情報の濁流を必死に整理する。これを乗り切らなければ自分は『終わる』という、謎の確信と共に。

乗り切らなければ、リ・ボーの未練に支配される。
そんな訳には、いかなかった。
乗り切っている最中に想うのは、乗り切った後の事。

きっとリ・ボーは城塞都市に戻りたいのだ。
どんな姿であれ、かつての仲間に逢いたいのだ。

それはリヴォワールドも同じだった。

自分が知る世界の外に、こんなに心躍る世界があるとは、拡がっているとは、思っていなかった。
そこにすぐにでも飛び出していきたい。

でも、今は必要なモノがまだ足りて無い。全然足りて無い。
それに今を生きているのは自分だ。リヴォワールドだ。
自分の足で往きたい。それは譲れない。

情報との濁流との戦いを、リヴォワールドは乗り切った──それからリ・ボーが起きて来る事は、稀になったし、リ・ボーと入れ替わったとしても、リヴォワールドは彼が何をしているのかを、まるで舞台袖から演目を観る様に把握できた。
リ・ボーがたまに、書き置きを残す事もあり、リヴォワールドが書き置きを進めたりもした。

どう動けば、最短で城塞都市の領主に辿り着けるか。それがリヴォワールドの行動指針となった。

一人での生き方からまず情報を集めて身に付けた。
身だしなみから食事の準備、金銭感覚、そういったものだ。
近隣の大きな街に出向いた時は、街の住人達の立ち居振る舞いを見ては頭に叩き込んだ。
身体を鍛えた。道行の途中で倒れては元も子もない。せめて、せめて、戦士として身を立てられる位には、というのを目標に。
勉学に励んだ。正確には励むフリをした。知識など、リ・ボーの記憶からで充分賄えているのだから、それを今のものに上書きするだけで良かった。それよりも外の情勢を貪欲に求めた。どうやって親元から自由をもぎ取るかの方が難題だったくらいだ。

「なあ、あんた」
やる事いっぱいあるなぁ?
自分の胸に手を当てて、リヴォワールドは苦笑を浮かべる。
その目には、爛々とした光が宿る。

領主としての役目は、まずは街の復興。
国境警備も役目の一つだが、この状態なのを知っていたし、何より東側の国境付近がまたきな臭くなってきている。
手っ取り早い増強手段の一つとして、都市の再城塞化、及び訓練所として城の地下を『解放する』許可は、派遣決定時に王都からもぎ取って来ている。
元々は地下遺跡だ。それを解放する『だけ』なら、ダンジョンマスターも何も要らないのだから、王都からこの件で早々に攻め込まれるという事はないだろう──まさかダンジョンマスターが戻って来ているとは思ってもみなかったが。

『ああ、そうだな、お前よ』

内なる声が返す。

かつて彼が護り通し、愛した街は、無惨な姿を晒していた。
ここをもう一度、造り直す──しかも今度こそ、王都に蹂躙されない様に。

しかしながら、今すぐにやらねばならない事は、そろそろ湯殿から出て来るであろう二人をベッドに押し込む事だった。
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