とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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主と従者の章

行き詰まり

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夢を、見ていた。

これは夢だろうとしか思えなかった。

真っ暗な中、大の字になって寝転ぶリヴォワールドの横に、見事な体躯を持つ男が居た。
夢の中でよく見た男、リ・ボーだ。

緩やかにウェーブがかった金の髪、なかなか見かけないエメラルドグリーンの瞳。
惚れ惚れする様な、造りの良い精悍な顔付きは、城の倉庫の片隅に厳重に包まれて隠してあった絵姿そのものだった。
ざっくりと着ている普段着は、リヴォワールドの故郷のデザインのものだ。きっと、そのあたりはリヴォワールドの記憶が補正を掛けているのだろう。

『疲れ果てておるなぁ』
ぽんぽん、と大きな手で頭を叩かれる。
自分はこの男から見て、及第点なのだろうか。
『そんなもの、終わってみらんと分からんわ』
夢の中だからだろう。どうやら思っている事は筒抜けの様だ。なら

「あー…ダンジョン起動したい…」

ぽろっと漏らしてみる。

『──ふむ』

起動させるだけなら簡単なんだがな、と、思っても見ない言葉が続き、思わずリヴォワールドは変な声を上げた。

『なぁに、ダンジョンの起動スイッチは城中にあるぞ?』
なにせ、自分がこの地に来た時に露出していたからなぁと、呵呵と笑う。
「なにそれ、ザル…」
『だろ?』
なにせあの坊主、発掘系だからか無頓着な所が多過ぎる、と苦笑いと共に返ってくる。だから、スイッチを隠す様にこの城を建てたのだと。

「発掘系?」
『うむ。本来は、西国にある『学府アレクサンドリア』とかいう組織の遺跡発掘に携わる術師だったと聞いている』
だから自分と最初に会った時はちょっと怒気を当てただけで目を開けたまま気絶してたな、と笑う。
探究に携わる者ではあっても、発掘や学術の様に、戦闘経験が伴わない魔術師など、いざ命のやりとりとなったらそんなものである。

『ただ、今全階層を起動したところで、何の役にも立たんだろうな』
「どうして?」

地下迷宮の事をより深く知る男は、ぽつりぽつりと、話す内容を選びながら話し始めた。

まず、城の地下にある『試練場』は、その外側にある「奥」を探索する資格があるかどうかを測る為の『試練場』であること。
その奥は、『堕ちたるレイバーロード』リ・ボーですら、単騎侵入は一歩たりとも無理だと判断するほどの、魑魅魍魎の巣窟であること。
試練を与える側の、システムの要であるフールがろくに機能していない為、今の状況では大した試練にならない事。

『あやつとて、ダンジョン起動はさせたいのだろうが、フールの具合や色々で手をこまねいておるのだろうなぁ』
「王都の見張りとか?」
『そんなのは些事だ些事』
王都の見張りを些事と軽く蹴るあたり、リ・ボーはやはり自分とは違う。
事実、エルドナスとフールは、ザルとはいえ監視の目を掻い潜って、今も街を自由に飛び回る事が出来ているからだ。
『あやつはなぁ…』
溜息がリ・ボーから漏れた
『たぁだヘタレとるだけだ』
「……は?」
『無頓着で、無自覚で、自分の事を顧みない。
本当に難儀な小僧だそ?あいつは。
他者の為にはどれだけでも動くが、自分の事になると尻を叩かんと動きやしない』
どう宥めすかしても言葉では動きやしないから何か言うより尻を叩く方が動く、と続く言葉に、リヴォワールドは同意しかなかった。

あのひとは、『アルター』である時は特に、自分以外の為にしか動かない。自分の事は何もかも後回しにするから、食事は自分と同じタイミングで引きずって行ってでも摂らせるし、湯殿に押し込むし、ベットに押し込むのだ。
それでも、フールが側に居ない夜は、客間に居ない。
どこに居るかは想像に難くないし、触れない様にはしているけれど

それはまるで、贖罪の様──

『──贖罪、か』
かもしれんなぁ、と、リ・ボーは天を仰ぐ。

『だとしたら、もう赦されていいと思うんだがなぁ』
あやつは一生、フールへの贖罪に生きるつもりか、とリ・ボーが唸る。
その贖罪が、どんな感情の上に成り立っているのかを自覚しないままに。

『それは──つまらん一生よなぁ』

苛烈に生き抜いた男には、何かに殉ずるだけの生き方は、とてもではないが色も味も無いものにしか見えなかったし、そんな生き方では時は止まったままだとしか思えなかった。

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