とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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主と従者の章

violation/Go berserk

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「はいぷりえすてす!」
壁に縫い付けられた様な体制で、フールが悲鳴の様な声を上げる
「どうなって、るの!?」

ここはフールにとって、システムルームの次に自由が効くはずの空間だった。
しかしそれがそうではない。

本来この空間には──『唯一』のダンジョンマスターとの契約の場である、一切の罠は設置されていなかったのだ。
それなのに今こうして、把握していない謎の力で壁に縫い付けられているのは、異常事態でしかない。

システム02からの返事は届かない。
自分を縫い付けて離そうとしない壁から身体の自由を取り戻そうともがいている間に、自分とマスターを隔てるように、落石混じりの土壁が見える。

身動きが取れない。
主と離れた──主が、いない。
それらが──フールが保存を選んだすてきれなかった『不要な記録』と、かちり、と組み合わさった。

「あ……ア……」

自分の意思とは無関係に、記録が記憶として無尽に五感に再現を始める。

主を喪う恐怖と
自分の外殻が激しく劣化変質していく中、主に向けて杖を振り下ろし、手に残る感覚。
己の身の自由を封じられた後の、終わりなき身の毛もよだつ行為の数々──

動きが、表情が、凍りつく。

引き裂かれる様な痛み
終わらない快楽
肉と関節の軋み
尽きぬ涙
下卑た嘲笑
纏わりつく吐気
粟立つ肌
溺れるほど飲まされ
反応する身体
溶かされる意思
言わされる隷属の言葉
根幹にどれだけ厚く壁を張って護ろうとしても

際限なく削られゆく尊厳

どこまでも深く、堕ちる──何処にも止まる所がない、底の無い縦孔、誰も止めない、壊れても止めない、縋る指を外して更に突き落とす、降ってくる愉悦の笑い声、重み、熱さ──

「………、………」

ガタガタと、身体の震えが止まらない。
壁に磷付られ、己が身を抱きしめ、縮こまる事すらできない。
布が肌に当たる感覚すら、全てを逆撫でする。

身体を支える力すら足の裏から抜け落ちる様な感覚に、もう、耐えきれなかった。

走り続ける悪寒と吐き気に、知らず、腹の中のモノを吐瀉していた。

──こんなめに、あわせられない

それでも想うのは主の事
それでも思うのは主の無事。
何もできなかった自分に、ずっと寄り添ってくれた、ただ一人の事しか頭に浮かばない。

吐いて、吐いて、吐いて
腹の中が空になっても搾り出すように吐き続けた。

声も出ない、僅かな音すらも、何も。
何もかも吐き出して、そこから漏れ出したものは──衝動だった。

──なにもかも、こわせば

涙と涎を垂れ流している事すら気にも止めず、それでも痩躯の男は、無理矢理にでも壁から離れようとする。

──こんなこと、おきない

身につけていた服が、嫌な音を立てた。
肌がずるりと剥ける、痛みも感覚も、男を止める事はできなかった。

──ますたーを、ころしてでも、たすけなければ

混乱と狂気の先に辿り着いたのは、五度繰り返された地獄の始まり。

──ますたーを うしなったら

「……ア………アァ……」

──……

「……ァア……ぅ……」

── なんだか、しらないけど

「ア、アァア、ァ……」

──……ふざけるな

姿は変わり果てようとも、のを、男は思い出した。

「──────!」

声にならない雄叫びを挙げ、だん、と一歩を踏み締める。この場に満ちる魔力を無理やり片手に集め、具現するは一本の杖──木の棒の上に金に鈍く輝く丸玉が付いただけの

かつてこの地下迷宮に挑んだ者全てに恐怖を刻んだ、死の象徴。

───ここは、───の。すきかって、するな!!!!!!!

その場に満ちていたありったけの魔力を獲物を手にするのに吸い取ったのか、男の動きを邪魔するものが無くなっている。

五度目の終わりから手に取れなかった獲物を振りかぶり、ただ自分と向こう側を隔てる壁に向かって打ち下ろす。みしり、と肉が軋む感覚と同時に、土壁が砕ける音がした。
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