とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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幕間

幕間9「冒険者ギルドにて」─5─

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冒険者ギルドが再稼働して一月ほど経った頃だろうか。

ダンジョンマスター『アルター』及び従者『フールトゥ』の退院と、地下迷宮『試練場』再開の大宴会の噂で街は持ちきりだった。
しかも『試練場』を含む地下施設及びこの街一帯が『学府』傘下となったため、安定的かつ長期的な運営が可能という事で、もうノリが「街おこしを大々的にアピールするぜ!」そのものである。

『学府』からの依頼の地下迷宮の地図の確認も、全地下十階中地下九階までほとんど終わっている。
依頼主のフェンティセーザの予想通り、地下迷宮には凶暴な動物系のモンスターが散見されたし、各階に1~2箇所ほど、以前は無かった隠された扉が発見された。
新しい扉に関しては、そのどれもから、奥から狂気じみた気配を感じる為か、誰もが位置の確認だけで済んでいる模様だ。

小昼ごろ、やっと人の波がほとんど捌けたころ、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。

「お久しぶりです、フォスタンド殿」
「久しぶり。フェンティセーザ殿…と」
「仲間だ」
フェンティセーザの後ろから、七人の団体様がぞろぞろと付いてくる。
内、三人は見覚えがある。トゥーリーンにハロド、アレンティーナだ。
昔聴いた詩からすれば、もう二人──ドワーフの老戦士と、気品を漂わせるノームの女僧侶が、フェンティセーザの仲間だろう。

そして、あと二人。
艶やかな黒髪を後ろで結い上げた侍風の出立の男と、その息子と思しき黒髪の少年にフォスタンドは総毛立つ。

「ああ、気を楽にしてくれ」

フォスタンドの緊張が伝わったのか、侍が声を掛けるが、それどころではない。

「『冒険者ぎると』というのがどういった所か、見てみたかったものでな」

この人……いや、──!

「なんてお方を連れてきたんだ」とフェンティセーザを睨む様に見やれば
「二人の護衛としてご一緒だったと聞いた」
と返ってくる。

この方々を、よりにもよってにか──!

当の本人達は、互いがどんな存在かなど気にも留めていない。知った所でそのままだろう。
が、当の本人達の素性が想像に難くないフォスタンドにはとてもじゃなかった。

フェンティセーザが中を見やれば、フォスタンドの他にも数人、顔を強張らせた、そこそこに歳を重ねたギルド員が見える。

「…済まないフォスタンド殿。奥に…」
「案内しないでか」

流石に今回はギルドのサブマスターでかつての仲間だった魔術師のルチレイトに茶の準備を言い渡して、フォスタンドはギルドマスター室に客人を招いたのだった。

────

「ところで、今回はどういったご用件で…」
「うむ。今回はこう、しがらみ抜きで来ているのでそう固くならなくともよい」

カクノシン、と名乗った隣国のダンジョンマスターは、タケチヨと名乗る少年を伴って、先にこちらに来ている二人の侍の居場所を探していた。

隣でわいのきゃいのと書類を作っていくフェンティセーザの仲間達との温度差が酷い。

「ついでなので、数日逗留して、こちらの祭の雰囲気でも楽しんで帰るつもりだ」

その侍達なら、と、通称『サムライ長屋』と呼ばれる、サムライ達の寄合所と仮住まいの区域となっている、ヒノモト風の一画へ向かう地図を渡す。

「このお二方でしたら、寄合所を居とされているはずです」
「む?この二人は探索には入らないのか?」
「ええ、実は…」
「この二人には、迷宮の試練側として、ダンジョンマスターから直々に要請が入りました」

フェンティセーザが話に入って来た。
隣国のダンジョンマスターの尋ね人である『ミフネ』と『シマヅ』は、『試練場』のダンジョンマスターが先に『試練要員』としてスカウトしたのだ。
今回は地下迷宮の運営側に回る為に、冒険者登録と拠点登録だけ済ませて、探索ではなく寄合所運営側うらかたに入っている。
聞けば、以前も同じ様に、魔のモノを召喚するだけでなく、重要な地点を守る為に腕の立つ冒険者を雇ったり、わざわざ噂を流して低層にならず者達を巣食わせたり、野生動物達の巣の近くに魔法陣を仕掛けて餌で寄せて地下迷宮に引き込んで、魔力を取り込ませて凶暴化させて…などとやっていたらしい。

「…意外と、堅実というかなんというか…」
「迷宮運営は場所にもよるが、地味で地道なところもあるのだ」

フォスタンドの言葉に、カクノシンが答える。
その迷宮運営も、運が悪ければ、アーマラットの様に『触れてはいけない封印遺跡』と繋がってしまって大変な事になるのだが、『試練場』の場合はすでにセットなので運がどうこうではない話ではある。

「あとは、『あるたーダンジョンマスター』殿の顔でも見て…そうそう、もう一つ大事な用がお前さんにあったよ」

呑気な口調でカクノシンはフェンティセーザに向き合った。

の件だ」

────

預かり物の件については「ずっと以前の事だ」とフェンティセーザが軽く触れただけに留めたので、フォスタンドもそれ以上は触れなかった。
地図を手に、カクノシン達が去った後──

「フェンティス、拠点は『学府』支部でいいんか?」
「構わんよ。一人一部屋使っても充分余るが、気になるなら荷物は私の部屋でも置いてくれ」

ギムリの声にフェンティセーザが返す。

「兄さん、置ける場所あるの?」
「持って来て貰った荷はそのまま魔術師ギルドに納品するから、個人の分だけなら何とかなるだろう?」

言外に片付けを促す言葉に帰ってきた返事に、アレンティーナはまず最初にベッドが処分されかねないわね…と苦笑する。

「ああ、あの子。ヘリオドールでしたっけ?彼もいるのかしら」
「居ますよ。彼には私の仕事を手伝って貰ってます」
「まあまあ、『一緒にやってる』訳じゃ無くて?」

マネラの一言に、書類の確認をしながら(具体的には押し付けられたんだが…)とフォスタンドは心の中で補足する。

「アガット殿をご存知で?」
「ええ。あの子、アーマラットに派遣されて来たからって空を翔んでいらしたのよ。門番のみなさんからよろしく伝えてくれって」
「…何をやったんだヘリオは…」

ぼそり、とフェンティセーザが漏らした言葉に「あらまあ」とマネラが笑みを深める。

──貴方がそんな呼び方するなんて、余程のひとなのね?

密やかに囁かれて、フェンティセーザが一瞬「しまった」という顔をする。

(…ふむ)
フォスタンドは察した。
(流石の彼も、勝てぬ相手がいると見える)
見た目と雰囲気の品の良さの奥には、彼が勝てない、裏打ちされた何かがあるのだろう。

「ところでフェンティセーザ殿」

フォスタンドが切り出した。

「貴殿のメンバーはこれで全員揃ったのか?」
「ああ」

かつて『アーマラットの呪われた迷宮』を完全攻略したメンバーが一堂に会した。ならば──

「パーティ名とリーダーはどうする?」

そう。
それを決めないと『冒険者』としてギルドに登録できない。

「リーダーは、前と同じでトゥーリーンで良くない?」
「また私かい?いいけど」

ハロドの言葉に皆が頷き、二つ返事でトゥーリーンが引き受ける。そしてその口で

「パーティ名だけど、もう『五行』で良くないか?」
「いいんじゃない?」

メンバーをそう足らしめる五振の武器から取ったであろう提案に、即答したのはアレンティーナだ。
その手はいつのまに背後に立ったのか、後ろから兄の口を塞いでいる。

「分かりやすくて良いな」
「ええ」

ギムリが豪快に笑い、側でマネラが穏やかに笑う。
安直な名付けにフェンティセーザは不服の様だが。

「じゃあ確定~!」

ハロドの一声で、無事、アーマラット制覇組の『冒険者』登録が完了した。

────

「タグは書き換えが終わり次第、拠点に届ける」
「ああ」

フォスタンドの言葉にフェンティセーザが応える。
冒険者ギルド取りに行くのではなく、ギルドから拠点に届けるのは、登録された拠点にきちんと拠点を置いているか、その拠点が拠点として機能しているのかの確認があるからだ。
登録した拠点が、見に行ってみたら仮設テントなど、撤去が安易なものであった場合、治安の悪化を防ぐ意味も込めて、拠点登路が取り消される恐れがあるため、往々にして冒険者達の拠点は宿屋が多い。

ちなみにまだ地下迷宮が開放されていないため、冒険者達の宿代は、領主を介して地下迷宮で生産された貨幣で支払われている。
大怪我を負ったダンジョンマスターが復帰し、いよいよ地下迷宮が開放されれば、彼らは一斉に地下へと潜る事になる──それまでの間、冒険者達が宿代を払えないが為に、冒険者登録を喪う訳にはいかない。あくまでも『試練場』は『ワーダナットの地下宝物個』への──これも地下迷宮の『運営維持』の一環なのだそうだ。

最後に到着した二人の荷を降ろしに、魔術師ギルドに向かうという「五行」の一向を見送ると

「さあて!」
パンパン、と大きく2回手を鳴らすと、
「今の全員見ていたな?」
ギルドマスターの部屋から意気揚々と出て来た所から出ていくまで、歴戦の風格を醸し出すパーティから視線を外せなかったギルド員にギルドマスターが声を掛ける。

こくこくと往々に頷くギルド員達に、もう一度、パン、と一回手を鳴らして自分に注視させると
「かつてアーマラットを制覇したパーティが我がギルドに攻略側として登録を置いた。この話が広まれば我こそはという奴らが名乗りを上げてこよう。
忙しくなるぞ、気合い入れていけ!」
「了解しました!」
フロア一帯から、声を揃えて返事が返ってくる。

有名なパーティが拠点登録をするだけで、ギルドがある街に、彼らが攻略する地下迷宮に箔が付く。
彼ら自身の存在かがやきが他の冒険者を呼び寄せるのだ。
規模が大きくなればなるほど、ギルドの仕事は増えていく。いずれは、街の治安維持に、冒険者達自身の力を借りねばならないかもしれない。

彼らの在り方、性根もあろうが「自分たちの拠点に迷惑を掛けない」「治安を悪化させない」などの、共存していく為の基礎的な教育も冒険者ギルドの職務である。雑務の一部をそれぞれの職業ギルドに渡したものの、これから更に多忙になるだろうが、ギルド員達がやっと職務の為に一つにまとまって来たのを感じて、フォスタンドは一人笑みを浮かべたのだった。
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