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集結の章
風は異世界からも吹く─1─
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──辿り着いた城塞都市トーリボルは異様な熱気に包まれていた。
それもそのはず。
先だって街の復旧と共に再起動された、かの有名な地下迷宮『試練場』の攻略開始が、七日後に控えているのだ。
しかも、地下迷宮の探索・調査の大本山『学府』をはじめ、どの国や組織もその存在を追い求めていた『ワーダナットの地下宝物庫』まで、『試練場』に付随する施設として起動したと言われている。
ヒノクニ国の北側、ヒノオク領からヒノモト領を経て三十日ほどの旅路の中でも、二人が耳にした話はそれで持ちきりだった。
マヌエラ・コラン=ダムとエィンヤ・プクラージャの二人は、人目を忍ぶ旅をしていた。
二人とも元々は、ヒノオク領と国境を接する北の国出身だ。
北の国から南に降りて来て、そこで、ヒノオク領で『とある事業』に成功してしまったのである。
そこから紆余曲折を経て、その事を知った遙か南のとある領主から「是非に」と請われ、招聘され今に至るのだが──
「姉ちゃん達、準備はいいかの?」
ヒノモト領から自分達をここまで連れて来てくれた、壮年の、気のいい馬車の主人が声を掛けてくる。
二人は、追われていた。
二人が成功に至ったその『事業』を進めていたメンバーの一人が、事もあろうに、二人を陥れようとしたのである。
それも、慎重に水面下で根回しをしてまで、だ。
味方はもう、いなかった。
丁度、招聘の話を受けた直後だった為、渡りに船と事業を手放すついでに、ボロ雑巾の様に捨てられる前に、二人は動いた。
エィンヤは、自分が経営していた事業関連の店を信頼できる者に譲って、自分の道具といくばくかの資材をトーリボルに送る手配を取った。
小規模とはいえ店を「売り渡す」のではなく「まるごと譲る」のだ。
「突然でごめんなさい」
そう、頭を下げたエィンヤに、しかし新しい店の主と店子達は
「店長達の『事業』にあの男が来てから、良くない話が色々入ってきてましたから」
と、彼女に充分すぎる路銀を渡した上に、追手から庇う様に無事に逃した。
そしてマヌエラは事業資金として保管していた資金を、退職金代わりに『頂いた』のである──正式な書類を作成し、自分達が追放されて数日後に、資金が底を尽きる様に、時間差で。
ほぼ慈善事業に近い形の、薄利の『事業』だったせいか、額は驚くほどのとは言い難いものではあったし、運営のノウハウを全て置いていくにはあまりにも安すぎではあったが。
しかし、事業側の異議申し立ても棄却される正当性を持ち、書類そのものも正式なものとして認められた以上、事業側になす術は無かった。
それで、二人を陥れようとした主犯格が追手を差し向けたのだ。
二人とも、追手を雇う資金はともかく、相手がそこまでするだろう事は読めていたが、まあ、しつこかった。
ヒノモト領に入ってすぐ、手練れの侍に助けられて匿われたお陰でなんとか撒けた。そして事情を知ったその侍が上に掛け合ってくれたお陰で、馬車に用心棒までつけてくれたのである。
「……たく、あのおっさん、こっちに来てまで私たちをさぁ」
黒髪の、これといった特徴の無い女──マヌエラの辟易とした呟きに
「先輩、顔、顔」
ふわっふわの長い金髪を後ろで一つにまとめた女、エィンヤがくいくい、と袖口を引く。
──二人は、彼女達の言葉を借りて言うなら『異世界転生者』だ。
こっちに来たのも良くあるパターンで、仕事で疲れ果てている所に運悪くトラックに轢かれて──というものである。
それが人為的なものだった、というのを除けば。
二人とも、その方面に名は知れているものの所謂「ブラック」と称される企業に勤めていた。
長時間労働に、パワハラモラハラは日常茶飯事。
そんな中、二人は助け合いながら頑張って来ていた。あと一日、もう一日だけ、頑張ってみよう、頑張れなくなったら、退職代行にお願いして逃げちゃおう──と。
それなのに──誰かに悪意をもって突き飛ばされた後輩を、助ける様に飛び込んで二人一緒に、というものだ。
後輩を突き飛ばした相手を、轢かれる直前、二人ははっきりと見た。
その相手が、何の因果か、こっちの世界にまで来やがってたのである。そうして、二人が立ち上げた事業の乗っ取りを企てたのだ。
「とりあえず、私達がトーリボルの冒険者ギルドに入ったらそれでこっちの勝ち。エンヤ、何としてでも辿り着くわよ」
マヌエラの囁きに、エンヤ──エィンヤが、こく、と頷く。
三人が乗った馬車が、トーリボルの城門を潜った。
────
城門の前で検問があり、そこを抜けると商人達の馬車の置き場がある。
そこで商人達は、守衛達との立ち会いの中、予め作成してある目録と積荷を合わせて間違いが無いか確認し、積荷毎馬車を一度預けて、人は降りて自分の足で、まずは冒険者ギルドに滞在者登録を済ませるのだ。
そこから、商人ギルドなどの職業別のギルドに登録を済ませて、登録証と引換に、再度目録と積荷の確認後、馬車ごと荷を受け取るという流れだ。
「ふむ、こちらに迎えが来る手筈になってるんですがのう……あぁ、いらしたな」
馬車の主人が街中を見やると、向こうから手を挙げながら、一人の青年が近づいてくるのが見えた。
「ささ、行きましょうぞ」
馬車の主人が、二人を先に行かせる様にして、二人の後ろについた。
やってきたのは、ふわっふわの赤毛の、どこかあどけなさを残した青年だった。
腰には反り身の細い刀剣──帯刀している。サムライ職なのは間違いない。
そんな青年の姿を一目見たマヌエラが、目をしばたかせる。どう見てもこの青年が、頑張ってつま先立ってる少年に、一瞬『視えた』のだ。
「『トビ』様、お久しぶりです。
ご婦人方、初めまして。『ミフネ』と申します」
お見知り置きを、と険の無い笑顔で会釈をする青年の、何と愛らしいことか──
「『ミフネ』様、こちら黒髪の方が「胡蘭」嬢、金の髪の方が「縁弥」嬢にて」
「なるほど。「こらん」殿に「えんや」殿、ですね」
ヒノモト領の人間には、どうやら、二人が名乗る『国外の人名』の発音は難しい様だ。母国語の文字を当て嵌めて呼ぶ、という形になるので、どうしても平坦気味なアクセントになってしまうが、それもまた新鮮だった。
しかし──「ミフネ」の名を聴いて、マヌエラとエィンヤに緊張が走る。
サムライ職であれば尚のこと、偽名であってもヒノクニ国内では、おいそれと名乗れない名前がいくつもある。
「ミフネ」とは、その最たるものの一つだ。
「少々、お待ちを」
そう言い置いて、青年が城門の前に向かう。
「ご安心を。彼は本物ですからの」
「いやいやいやいや!本物って…!」
馬車の主人、『トビ』の小声に、マヌエラが小声で返す。
ヒノクニ国の文化を知る二人にしてみれば、「ミフネ」とは、ヒノモトの侍のヴェールの奥に在る様な存在だ。
「今代のヒノモトの『ミフネ』は豊作でしてなぁ。なんと三人も居るのですぞ」
うち二人は兼任ですがの、と『トビ』が笑い飛ばす。
そこに「お待たせしました」と青年が戻ってきた。
「さて、参りましょう。『トビ』様もどうぞご一緒に。街を案内させてください」
「確か『シマヅ』も此処に居るんじゃろ?」
「ええ」
一緒に、と続いた言葉に、マヌエラが一瞬、ん?という表情を浮かべた。
「……せ、あ、コラン?」
「ん、なんでもないよ、エンヤ」
一緒に。
たったその一言に、まるで宝物の様な──きらめきと幸せがこれでもかと目一杯詰め込まれてる様な、そんな気がしたのは気のせいかもしれないから、と、心の中で濁して。
────
城塞都市の中では、冒険者達の私闘は御法度である。
どんな理由があれ、捕縛され、正式に傷害事件として扱われ、城塞都市の法の元で裁かれる。
その間は、冒険者としての数々の権利や優遇も剥奪されるため、荒くれ者揃いの冒険者と言えど、敢えて法度を破る様な馬鹿はやらない。
裏を返せば、城塞都市に着いてから冒険者ギルドに登録するまでは、訪れた者達にとって無法地帯でもあるのだ。
が──
(…なんか、連行されてる気分っすね、先輩)
『ミフネ』と『トビ』に挟まれて、物見遊山的に街中を移動する中、エィンヤがマヌエラに囁く。
(実質、そうなんじゃない?)
街は活気に溢れている。
時折、居並ぶ店やすれ違う冒険者達から『ミフネ』に挨拶が飛んでくるあたり、自分達を先導するこの青年は、この街に受け入れて貰えているのだろう。
しかし、その活気の中にも、どこか張り詰めたモノをエィンヤはしっかりと感じ取っていた。
──この世界に最初から存在している者達と一線を画する「優遇」能力や「祝福」を持つ、というのは『異世界転生者あるある』である。
エィンヤには、戦闘に関する様々な「優遇」があるのだが、マヌエラにはそういったものが全くもって一才無かった。
エィンヤが居なければ、マヌエラは旅人として旅をするのにも苦労する──が、マヌエラには「祝福」があった。
それも、世界を変えてしまえる程の。
その「祝福」を以て、ヒノオク領での『事業』を成功させ、ここトーリボルに招聘される事になった訳だが……
「心配いらないよ、エンヤ」
エィンヤの緊張を感じたのか、マヌエラがにっこり笑い掛ける。
「二人も、居てくれてる」
「……そっすね」
ちょっと拗ねた感じの返事に、マヌエラがエィンヤの手をぎゅっと握った。
「……?」
それに何かを感じ取って、エィンヤがマヌエラを見る
「…コラン?」
エィンヤは思い至る。
いざ戦闘となったら、今のマヌエラには扱い慣れた武器も無く護られるだけ。神の奇跡を扱えはするが、それはあくまでも北の国の理の中のもの。こちらでも通用するかなど全くの未知数なのだ。
不安でないはずがない。
「…大丈夫っすから」
ぎゅっと、手を握り返して、エィンヤが告げる。
「私が、貴女を、護りますから」
「……ありがと」
頼ってばっかりだねぇ、と続く軽い口調に、前は私がそうっしたから、と軽く返す。
「……引く?行く?」
マヌエラの何気ない声掛けに、
「行きましょう」
エィンヤが即答する。それを受けて
「トビさん」
今度はマヌエラが、馬車の主人に声を掛けた。
「? 何か」
その様子に、先導していた『ミフネ』が踵を返す。
城へと続く目を目抜き通りと、冒険者ギルドに繋がるカラタチ通りとの交差点の、すぐ近くだ。
四人が集まったのを確認して、マヌエラが小声で伝えた。
「…把握されているかと思いますが、今左右どちらに行っても、襲撃が来ます」
「ええ、お分かりなのですね」
理屈を後で教えてください、とにこっと笑う『ミフネ』に、機会があれば、とマヌエラが返す。
「…少し、お店に入りません?喉乾きました。
丁度左手に美味しそうなジュースを出してるお店が。飲み干した頃に動きがあるはずです」
「……」
まるで、数分先を予め見てきたかの様な口調で、すたすたと店に入って行く女二人を、『ミフネ』と『トビ』が慌てて追った。
それもそのはず。
先だって街の復旧と共に再起動された、かの有名な地下迷宮『試練場』の攻略開始が、七日後に控えているのだ。
しかも、地下迷宮の探索・調査の大本山『学府』をはじめ、どの国や組織もその存在を追い求めていた『ワーダナットの地下宝物庫』まで、『試練場』に付随する施設として起動したと言われている。
ヒノクニ国の北側、ヒノオク領からヒノモト領を経て三十日ほどの旅路の中でも、二人が耳にした話はそれで持ちきりだった。
マヌエラ・コラン=ダムとエィンヤ・プクラージャの二人は、人目を忍ぶ旅をしていた。
二人とも元々は、ヒノオク領と国境を接する北の国出身だ。
北の国から南に降りて来て、そこで、ヒノオク領で『とある事業』に成功してしまったのである。
そこから紆余曲折を経て、その事を知った遙か南のとある領主から「是非に」と請われ、招聘され今に至るのだが──
「姉ちゃん達、準備はいいかの?」
ヒノモト領から自分達をここまで連れて来てくれた、壮年の、気のいい馬車の主人が声を掛けてくる。
二人は、追われていた。
二人が成功に至ったその『事業』を進めていたメンバーの一人が、事もあろうに、二人を陥れようとしたのである。
それも、慎重に水面下で根回しをしてまで、だ。
味方はもう、いなかった。
丁度、招聘の話を受けた直後だった為、渡りに船と事業を手放すついでに、ボロ雑巾の様に捨てられる前に、二人は動いた。
エィンヤは、自分が経営していた事業関連の店を信頼できる者に譲って、自分の道具といくばくかの資材をトーリボルに送る手配を取った。
小規模とはいえ店を「売り渡す」のではなく「まるごと譲る」のだ。
「突然でごめんなさい」
そう、頭を下げたエィンヤに、しかし新しい店の主と店子達は
「店長達の『事業』にあの男が来てから、良くない話が色々入ってきてましたから」
と、彼女に充分すぎる路銀を渡した上に、追手から庇う様に無事に逃した。
そしてマヌエラは事業資金として保管していた資金を、退職金代わりに『頂いた』のである──正式な書類を作成し、自分達が追放されて数日後に、資金が底を尽きる様に、時間差で。
ほぼ慈善事業に近い形の、薄利の『事業』だったせいか、額は驚くほどのとは言い難いものではあったし、運営のノウハウを全て置いていくにはあまりにも安すぎではあったが。
しかし、事業側の異議申し立ても棄却される正当性を持ち、書類そのものも正式なものとして認められた以上、事業側になす術は無かった。
それで、二人を陥れようとした主犯格が追手を差し向けたのだ。
二人とも、追手を雇う資金はともかく、相手がそこまでするだろう事は読めていたが、まあ、しつこかった。
ヒノモト領に入ってすぐ、手練れの侍に助けられて匿われたお陰でなんとか撒けた。そして事情を知ったその侍が上に掛け合ってくれたお陰で、馬車に用心棒までつけてくれたのである。
「……たく、あのおっさん、こっちに来てまで私たちをさぁ」
黒髪の、これといった特徴の無い女──マヌエラの辟易とした呟きに
「先輩、顔、顔」
ふわっふわの長い金髪を後ろで一つにまとめた女、エィンヤがくいくい、と袖口を引く。
──二人は、彼女達の言葉を借りて言うなら『異世界転生者』だ。
こっちに来たのも良くあるパターンで、仕事で疲れ果てている所に運悪くトラックに轢かれて──というものである。
それが人為的なものだった、というのを除けば。
二人とも、その方面に名は知れているものの所謂「ブラック」と称される企業に勤めていた。
長時間労働に、パワハラモラハラは日常茶飯事。
そんな中、二人は助け合いながら頑張って来ていた。あと一日、もう一日だけ、頑張ってみよう、頑張れなくなったら、退職代行にお願いして逃げちゃおう──と。
それなのに──誰かに悪意をもって突き飛ばされた後輩を、助ける様に飛び込んで二人一緒に、というものだ。
後輩を突き飛ばした相手を、轢かれる直前、二人ははっきりと見た。
その相手が、何の因果か、こっちの世界にまで来やがってたのである。そうして、二人が立ち上げた事業の乗っ取りを企てたのだ。
「とりあえず、私達がトーリボルの冒険者ギルドに入ったらそれでこっちの勝ち。エンヤ、何としてでも辿り着くわよ」
マヌエラの囁きに、エンヤ──エィンヤが、こく、と頷く。
三人が乗った馬車が、トーリボルの城門を潜った。
────
城門の前で検問があり、そこを抜けると商人達の馬車の置き場がある。
そこで商人達は、守衛達との立ち会いの中、予め作成してある目録と積荷を合わせて間違いが無いか確認し、積荷毎馬車を一度預けて、人は降りて自分の足で、まずは冒険者ギルドに滞在者登録を済ませるのだ。
そこから、商人ギルドなどの職業別のギルドに登録を済ませて、登録証と引換に、再度目録と積荷の確認後、馬車ごと荷を受け取るという流れだ。
「ふむ、こちらに迎えが来る手筈になってるんですがのう……あぁ、いらしたな」
馬車の主人が街中を見やると、向こうから手を挙げながら、一人の青年が近づいてくるのが見えた。
「ささ、行きましょうぞ」
馬車の主人が、二人を先に行かせる様にして、二人の後ろについた。
やってきたのは、ふわっふわの赤毛の、どこかあどけなさを残した青年だった。
腰には反り身の細い刀剣──帯刀している。サムライ職なのは間違いない。
そんな青年の姿を一目見たマヌエラが、目をしばたかせる。どう見てもこの青年が、頑張ってつま先立ってる少年に、一瞬『視えた』のだ。
「『トビ』様、お久しぶりです。
ご婦人方、初めまして。『ミフネ』と申します」
お見知り置きを、と険の無い笑顔で会釈をする青年の、何と愛らしいことか──
「『ミフネ』様、こちら黒髪の方が「胡蘭」嬢、金の髪の方が「縁弥」嬢にて」
「なるほど。「こらん」殿に「えんや」殿、ですね」
ヒノモト領の人間には、どうやら、二人が名乗る『国外の人名』の発音は難しい様だ。母国語の文字を当て嵌めて呼ぶ、という形になるので、どうしても平坦気味なアクセントになってしまうが、それもまた新鮮だった。
しかし──「ミフネ」の名を聴いて、マヌエラとエィンヤに緊張が走る。
サムライ職であれば尚のこと、偽名であってもヒノクニ国内では、おいそれと名乗れない名前がいくつもある。
「ミフネ」とは、その最たるものの一つだ。
「少々、お待ちを」
そう言い置いて、青年が城門の前に向かう。
「ご安心を。彼は本物ですからの」
「いやいやいやいや!本物って…!」
馬車の主人、『トビ』の小声に、マヌエラが小声で返す。
ヒノクニ国の文化を知る二人にしてみれば、「ミフネ」とは、ヒノモトの侍のヴェールの奥に在る様な存在だ。
「今代のヒノモトの『ミフネ』は豊作でしてなぁ。なんと三人も居るのですぞ」
うち二人は兼任ですがの、と『トビ』が笑い飛ばす。
そこに「お待たせしました」と青年が戻ってきた。
「さて、参りましょう。『トビ』様もどうぞご一緒に。街を案内させてください」
「確か『シマヅ』も此処に居るんじゃろ?」
「ええ」
一緒に、と続いた言葉に、マヌエラが一瞬、ん?という表情を浮かべた。
「……せ、あ、コラン?」
「ん、なんでもないよ、エンヤ」
一緒に。
たったその一言に、まるで宝物の様な──きらめきと幸せがこれでもかと目一杯詰め込まれてる様な、そんな気がしたのは気のせいかもしれないから、と、心の中で濁して。
────
城塞都市の中では、冒険者達の私闘は御法度である。
どんな理由があれ、捕縛され、正式に傷害事件として扱われ、城塞都市の法の元で裁かれる。
その間は、冒険者としての数々の権利や優遇も剥奪されるため、荒くれ者揃いの冒険者と言えど、敢えて法度を破る様な馬鹿はやらない。
裏を返せば、城塞都市に着いてから冒険者ギルドに登録するまでは、訪れた者達にとって無法地帯でもあるのだ。
が──
(…なんか、連行されてる気分っすね、先輩)
『ミフネ』と『トビ』に挟まれて、物見遊山的に街中を移動する中、エィンヤがマヌエラに囁く。
(実質、そうなんじゃない?)
街は活気に溢れている。
時折、居並ぶ店やすれ違う冒険者達から『ミフネ』に挨拶が飛んでくるあたり、自分達を先導するこの青年は、この街に受け入れて貰えているのだろう。
しかし、その活気の中にも、どこか張り詰めたモノをエィンヤはしっかりと感じ取っていた。
──この世界に最初から存在している者達と一線を画する「優遇」能力や「祝福」を持つ、というのは『異世界転生者あるある』である。
エィンヤには、戦闘に関する様々な「優遇」があるのだが、マヌエラにはそういったものが全くもって一才無かった。
エィンヤが居なければ、マヌエラは旅人として旅をするのにも苦労する──が、マヌエラには「祝福」があった。
それも、世界を変えてしまえる程の。
その「祝福」を以て、ヒノオク領での『事業』を成功させ、ここトーリボルに招聘される事になった訳だが……
「心配いらないよ、エンヤ」
エィンヤの緊張を感じたのか、マヌエラがにっこり笑い掛ける。
「二人も、居てくれてる」
「……そっすね」
ちょっと拗ねた感じの返事に、マヌエラがエィンヤの手をぎゅっと握った。
「……?」
それに何かを感じ取って、エィンヤがマヌエラを見る
「…コラン?」
エィンヤは思い至る。
いざ戦闘となったら、今のマヌエラには扱い慣れた武器も無く護られるだけ。神の奇跡を扱えはするが、それはあくまでも北の国の理の中のもの。こちらでも通用するかなど全くの未知数なのだ。
不安でないはずがない。
「…大丈夫っすから」
ぎゅっと、手を握り返して、エィンヤが告げる。
「私が、貴女を、護りますから」
「……ありがと」
頼ってばっかりだねぇ、と続く軽い口調に、前は私がそうっしたから、と軽く返す。
「……引く?行く?」
マヌエラの何気ない声掛けに、
「行きましょう」
エィンヤが即答する。それを受けて
「トビさん」
今度はマヌエラが、馬車の主人に声を掛けた。
「? 何か」
その様子に、先導していた『ミフネ』が踵を返す。
城へと続く目を目抜き通りと、冒険者ギルドに繋がるカラタチ通りとの交差点の、すぐ近くだ。
四人が集まったのを確認して、マヌエラが小声で伝えた。
「…把握されているかと思いますが、今左右どちらに行っても、襲撃が来ます」
「ええ、お分かりなのですね」
理屈を後で教えてください、とにこっと笑う『ミフネ』に、機会があれば、とマヌエラが返す。
「…少し、お店に入りません?喉乾きました。
丁度左手に美味しそうなジュースを出してるお店が。飲み干した頃に動きがあるはずです」
「……」
まるで、数分先を予め見てきたかの様な口調で、すたすたと店に入って行く女二人を、『ミフネ』と『トビ』が慌てて追った。
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しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
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