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集結の章 挿話─風─
ヘリオドール・アガットの暗躍と受難─2─
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二人同時に目を開けて
がば、と身体を離して距離を取る。
「…なんだったんだ、あれ…」
「私の看破を『攻撃』と看做された」
ふう、と大きく息を吐いたフェンティセーザが、はっきりと告げた。
「あの貧相な男、物理攻撃も魔法攻撃も無効化するぞ」
「は?」
それは、ヘリオドールの予想以上に深刻な事態だった。
通常、攻撃の無効化と言えば、地下迷宮においては相見えるのも稀である──所謂、地下迷宮の深部にいるとされている高位の悪魔や、自分の得意とする属性からの攻撃を屁とも思わない『怪物』くらいだ。
そしてそのほとんどが、強度の耐性と自前の回復能力を盾に、それらの影響を「無効」レベルまで軽減させているにすぎない。
しかも、無効化が可能なのは物理か魔法のどちらか、というのが、『学府』に蓄積された膨大なデータが物語っている。
その両方を備えるなどといったら、システムの突然変異か、はたまた人智を超える何かのいたずらか、迷宮の最新部で待ち構える最後の障害的なナニカである。そんなものがひょこひょこ街中に出てきて貰っては困る。
「そこまで看破した時点で、それ以上観るのを強制的に拒絶された。
普通の人間に出来ることじゃ無い。あれは一体何者なんだ?」
そう。普通の感覚ならそうなる。
しかし、システムとしての知識が、ヘリオドールにあった。
──そういった、所謂『ラスボス』と称される存在をどうにかする為の『手順』も対で生成されるはずなのだ。
例えば──フェンティセーザ達のパーティがかつて相対した『アーマラットの呪いの迷宮』最深部の元凶に対しての、同じ迷宮に封印されていた『五行の武器』がそうである。
それらにまつわる逸話はまた別の話として、だが。
そうしてそれらの情報が集約されているのは──遥か遠く『学府』の中枢だ。
「……一つだけ、心当たりならある。
あるけど、もしそうならこのトーリボル、大変な事になるぞ…?」
────
「皆目見当が付かないが、説明はしてくれるんだろうな?」
自分の服を身に付け、ヘリオドールにも着付けながら問うてきたフェンティセーザに
「ああ。でも防護壁の起動を優先する。
あれ起動が終わるまで少し時間が掛かるし、あの貧相なのの対策も同時進行である程度は進むはずだから……」
あんまりあれ、使いたくないんだけどなぁ、と続けながら、ヘリオドールはベッドから降りようとして、しかし立つこと叶わずそのままずり落ちた。
普段とは違う様子に、慌ててフェンティセーザがヘリオドールを抱き起こす。
「ヘリオ?どうした?」
「……なんか頭、白い光がチカチカするし、身体から力抜けてくし、移動したくても足腰立たない」
「どうしたらいい?」
「担いで転移室まで連れて行ってくれ」
「分かった」
「担いでいいから」
「……二度も言わなくていい」
「頼むから姫抱きしないでくれ、不安定すぎて怖いし酔う」
「……」
意外としっかりした声色に、仕方ない、と、わざと聞こえる様にため息を吐いて、フェンティセーザはヘリオドールを肩に担いで転移室に向かった。
部屋に入るが、万が一の事を考えて、鍵は掛けない。
「左向いて壁に向かって」
「ん……?」
転移室は三方、壁だ。
壁にめり込めと言うのか。
「私が居ると通れる。固まってない塗壁みたいなもんだと思ってずぶずぶ入ってってよ」
「なんだソレは…」
確か、自分がこの施設に入った時は、この部屋の壁はしっかりしていたはずだ──だから、転移室にこの部屋を選んだのだから。
しかし、こん、と壁を叩こうとした拳が、ぬちゃ、と、めり込んだ。
「……」
「…さ、早く。時間押してる」
絶妙な迄に微妙な感触に、ものすごく嫌な顔をしたフェンティセーザを見やる事なく、担がれたままのヘリオドールが先を促す。
「万が一の時に誰もが嫌がる感触に設定してるからね、ほら」
「万が一?」
「私の死た」
「分かった行こう」
あまりにも不吉な言葉をこれ以上聞いてなるものか、と、フェンティセーザは壁に全体重を掛けた。
────
ぬとり、と糸を引く様な、分厚い感覚を抜けた先は、まるでダンジョンの様に、床も天井も四方の壁も、ヒカリゴケの様なモノに覆われた小部屋だった。
小部屋といっても、地下迷宮の探索をこなして来たフェンティセーザの目測では、装備を整えた前衛三人が連携を取りながら武器を振るえる位の広さは充分にある、と見てとれた。
その中央に、大の大人三人が腕を大きく広げて円を作った位の大きさの、不思議な形の置物があった。
ヒカリゴケの様なモノの光を反射して、てらてらと光っている。
転移したのか──少なくともフェンティセーザは、自分が知る『学府』支部の建物に、こんな空間は存在しなかった。
「降ろしていいよ、ありがとう」
ヘリオドールに声を掛けられて、フェンティセーザは無言で肩の男を床に降ろした。
「…動けるか?」
「ああ、さっきより少しマシ。ああ…死にたくなければ気合い入れとけよ、フェンティス」
「?」
わざわざ、人前での言い方で自分を呼んだ事に、フェンティセーザが軽く首を傾げる。
「今から魔力がひどく濃くなる。当てられるなよ。
ついでで相対するのは深淵そのものと思ってくれ。私はシステムだからどうとでもなるんだが…」
自分達が入って来た壁の向かいに、丸い輪っかが掛かっていた。それをヘリオドールは無造作に壁から外すと、何かを引き延ばす様に中央の置物に輪っかをくっ付ける。
壁と中央の置物の間が、半透明の蛇腹の様なモノで繋がっているのを、フェンティセーザの目はしっかりと捉えた。
「癖とアクの強さは、ここの比じゃない。目の制御を忘れるな、呑まれるぞ」
「何をする気だ?」
「『呪いの穴』の魔力をこっちに流し込む」
突拍子もない事を伝えて、置物の外装を無造作に撫ぜると、ぱか、と蓋が開いて、中にボタンの様なモノがいくつも並んでいた。
「なんでそれが可能かってのは、それこそ『蛇の道はなんとやら』、さ。
流れ込んで来るのは最深部の源流だ。そこの流れが狂えば……」
ボタンのうちの一つを、ヘリオドールの指が押し込んだ。途端に、ガクン、と重い音を立てて、壁から半透明の蛇腹の筒を通って、重苦しい何かが流れ込んで来る。
触れてはならない。
近寄ってもならない。
呑まれては、ならない──
正気を失ったらその時点で何もかもが変質すると、今までの、冒険者としての経験が全力で警鐘を鳴らす。
遥か昔に踏破した『アーマラットの呪いの迷宮』の最深部と似て異なる空気に、フェンティセーザの全身が総毛立つ。
手には氏族の宝の弓も、かつての探索時に身を護ってくれていた防具も、何も無い。
あまりにも、無防備だ。
それなのに──自分よりも源流の近くに居て、平然としているヘリオドールの姿に、フェンティセーザは、自分とは全く異質の存在なのだと思い知らされる。
「……流石に、向こうの『システム』が確認に来るだろうよ」
「……ヘリオ、ドール…っ」
「しのごの言ってる余裕はない、『学府』に飛んで悠長に調べてる暇は無いなら、知ってそうなのを呼び出して直接聞くのが一番なんだ。
私にはそれができる──この街で、今、ソレができるのが、私だけなんだ」
「そこまでして、助けたい、相手なの、か」
「勘違いするな。
今、より重視すべきは、そこまでして、排除しなくてはならない相手だ」
『──やあやあ、こんな密室で痴話喧嘩なんてしないでくれよ『ヘリオドール・アガット』?』
二人の間に割って入る様に、第三者の声が部屋に響いた。
(──来たか)
輪っかが掛かっている壁に、額縁の様に、真四角の光の枠が浮かび上がる。
その中に、砂漠の民の様に頭に布を巻きつけ覆った、褐色の肌の精悍な男の姿が映し出された。
『久しぶりだな。愉快な事になっていて重畳、重畳。
それとそこのエルフ、会うのは初めてだな?
己は『ドミ・ンクシャド』。
存分に親しみを込めて『ドミニク』と呼んでくれたまえよ』
映し出された男が名乗ったその名は、地下迷宮の名として広く知られた『呪いの穴』そのものだった。
────
『……しかし本当に、場を外して笑い転げたくなるほど愉快な事になってるな?『ヘリオドール・アガット』』
「私の状態なぞどうでもいいだろ
聞きたいことがある」
『わざわざその為にコレか?』
目の前で繰り広げられるシステム同士の会話の中に膨大な質量を感じて、フェンティセーザは身動き一つ取れなかった。
「いや、コレはコレで保険と予行」
『保険と予行と…いや、お陰でこっちも『助かった』。気分が良い。何でも答えよう。
聞きたい事とは?』
言葉にしているのはほんの一部のはずなのに、映像の向こうの状況が、フェンティセーザに強制的に流れ込んで来る。
──『呪いの穴』の最深部は、常に極限状態に近い。蠢く何かと噴き出す魔力を、暴走しない様に抑え込んでいるのだ──見た事も聞いた事もないはずなのに、その様子が手に取るように『理解できる』。
「助かった」というのは、噴き出し掛けた向こうの魔力を、ちょうどいいタイミングでこちらに流し入れた事なのだろう。
「物理無効と魔法無効、両方備えた異質な人間の対処法を」
『人間?システムではなく?』
「システムなら私が分かるさ」
『だろうな…』
『シャド、ただいま』
そこに、もう一つの男の声が割り込んできた。
『お帰り、シ=ゲル』
その声に、打って変わって愛おしげな声で『ドミニク』が答える。男の隣に、鎧姿が並んだ。
『あれ、久しぶりだね、『ヘリオドール・アガット』
それと…初めまして』
『ドミニク』よりも、幾分か高く、幾分か柔らかい声が、フェンティセーザが感じる重圧をほんの少し和らげた。
鎧姿の男が、美しい彫刻と、額の部分に無色透明の大きな宝石が埋め込まれた兜を脱ぐ。その下には、あちこちに傷が残るものの、少し幼さを残した優しい顔があった。
短く揃えられた黒髪は、映像越しでもよく手入れされている。
『オレは『呪いの穴』のマス、ん…システム?かな。
多分、この世界で最初の『堕ちたる者』で、二つ名は『金剛騎士』。
シゲルって言うんだ』
────to Next……
がば、と身体を離して距離を取る。
「…なんだったんだ、あれ…」
「私の看破を『攻撃』と看做された」
ふう、と大きく息を吐いたフェンティセーザが、はっきりと告げた。
「あの貧相な男、物理攻撃も魔法攻撃も無効化するぞ」
「は?」
それは、ヘリオドールの予想以上に深刻な事態だった。
通常、攻撃の無効化と言えば、地下迷宮においては相見えるのも稀である──所謂、地下迷宮の深部にいるとされている高位の悪魔や、自分の得意とする属性からの攻撃を屁とも思わない『怪物』くらいだ。
そしてそのほとんどが、強度の耐性と自前の回復能力を盾に、それらの影響を「無効」レベルまで軽減させているにすぎない。
しかも、無効化が可能なのは物理か魔法のどちらか、というのが、『学府』に蓄積された膨大なデータが物語っている。
その両方を備えるなどといったら、システムの突然変異か、はたまた人智を超える何かのいたずらか、迷宮の最新部で待ち構える最後の障害的なナニカである。そんなものがひょこひょこ街中に出てきて貰っては困る。
「そこまで看破した時点で、それ以上観るのを強制的に拒絶された。
普通の人間に出来ることじゃ無い。あれは一体何者なんだ?」
そう。普通の感覚ならそうなる。
しかし、システムとしての知識が、ヘリオドールにあった。
──そういった、所謂『ラスボス』と称される存在をどうにかする為の『手順』も対で生成されるはずなのだ。
例えば──フェンティセーザ達のパーティがかつて相対した『アーマラットの呪いの迷宮』最深部の元凶に対しての、同じ迷宮に封印されていた『五行の武器』がそうである。
それらにまつわる逸話はまた別の話として、だが。
そうしてそれらの情報が集約されているのは──遥か遠く『学府』の中枢だ。
「……一つだけ、心当たりならある。
あるけど、もしそうならこのトーリボル、大変な事になるぞ…?」
────
「皆目見当が付かないが、説明はしてくれるんだろうな?」
自分の服を身に付け、ヘリオドールにも着付けながら問うてきたフェンティセーザに
「ああ。でも防護壁の起動を優先する。
あれ起動が終わるまで少し時間が掛かるし、あの貧相なのの対策も同時進行である程度は進むはずだから……」
あんまりあれ、使いたくないんだけどなぁ、と続けながら、ヘリオドールはベッドから降りようとして、しかし立つこと叶わずそのままずり落ちた。
普段とは違う様子に、慌ててフェンティセーザがヘリオドールを抱き起こす。
「ヘリオ?どうした?」
「……なんか頭、白い光がチカチカするし、身体から力抜けてくし、移動したくても足腰立たない」
「どうしたらいい?」
「担いで転移室まで連れて行ってくれ」
「分かった」
「担いでいいから」
「……二度も言わなくていい」
「頼むから姫抱きしないでくれ、不安定すぎて怖いし酔う」
「……」
意外としっかりした声色に、仕方ない、と、わざと聞こえる様にため息を吐いて、フェンティセーザはヘリオドールを肩に担いで転移室に向かった。
部屋に入るが、万が一の事を考えて、鍵は掛けない。
「左向いて壁に向かって」
「ん……?」
転移室は三方、壁だ。
壁にめり込めと言うのか。
「私が居ると通れる。固まってない塗壁みたいなもんだと思ってずぶずぶ入ってってよ」
「なんだソレは…」
確か、自分がこの施設に入った時は、この部屋の壁はしっかりしていたはずだ──だから、転移室にこの部屋を選んだのだから。
しかし、こん、と壁を叩こうとした拳が、ぬちゃ、と、めり込んだ。
「……」
「…さ、早く。時間押してる」
絶妙な迄に微妙な感触に、ものすごく嫌な顔をしたフェンティセーザを見やる事なく、担がれたままのヘリオドールが先を促す。
「万が一の時に誰もが嫌がる感触に設定してるからね、ほら」
「万が一?」
「私の死た」
「分かった行こう」
あまりにも不吉な言葉をこれ以上聞いてなるものか、と、フェンティセーザは壁に全体重を掛けた。
────
ぬとり、と糸を引く様な、分厚い感覚を抜けた先は、まるでダンジョンの様に、床も天井も四方の壁も、ヒカリゴケの様なモノに覆われた小部屋だった。
小部屋といっても、地下迷宮の探索をこなして来たフェンティセーザの目測では、装備を整えた前衛三人が連携を取りながら武器を振るえる位の広さは充分にある、と見てとれた。
その中央に、大の大人三人が腕を大きく広げて円を作った位の大きさの、不思議な形の置物があった。
ヒカリゴケの様なモノの光を反射して、てらてらと光っている。
転移したのか──少なくともフェンティセーザは、自分が知る『学府』支部の建物に、こんな空間は存在しなかった。
「降ろしていいよ、ありがとう」
ヘリオドールに声を掛けられて、フェンティセーザは無言で肩の男を床に降ろした。
「…動けるか?」
「ああ、さっきより少しマシ。ああ…死にたくなければ気合い入れとけよ、フェンティス」
「?」
わざわざ、人前での言い方で自分を呼んだ事に、フェンティセーザが軽く首を傾げる。
「今から魔力がひどく濃くなる。当てられるなよ。
ついでで相対するのは深淵そのものと思ってくれ。私はシステムだからどうとでもなるんだが…」
自分達が入って来た壁の向かいに、丸い輪っかが掛かっていた。それをヘリオドールは無造作に壁から外すと、何かを引き延ばす様に中央の置物に輪っかをくっ付ける。
壁と中央の置物の間が、半透明の蛇腹の様なモノで繋がっているのを、フェンティセーザの目はしっかりと捉えた。
「癖とアクの強さは、ここの比じゃない。目の制御を忘れるな、呑まれるぞ」
「何をする気だ?」
「『呪いの穴』の魔力をこっちに流し込む」
突拍子もない事を伝えて、置物の外装を無造作に撫ぜると、ぱか、と蓋が開いて、中にボタンの様なモノがいくつも並んでいた。
「なんでそれが可能かってのは、それこそ『蛇の道はなんとやら』、さ。
流れ込んで来るのは最深部の源流だ。そこの流れが狂えば……」
ボタンのうちの一つを、ヘリオドールの指が押し込んだ。途端に、ガクン、と重い音を立てて、壁から半透明の蛇腹の筒を通って、重苦しい何かが流れ込んで来る。
触れてはならない。
近寄ってもならない。
呑まれては、ならない──
正気を失ったらその時点で何もかもが変質すると、今までの、冒険者としての経験が全力で警鐘を鳴らす。
遥か昔に踏破した『アーマラットの呪いの迷宮』の最深部と似て異なる空気に、フェンティセーザの全身が総毛立つ。
手には氏族の宝の弓も、かつての探索時に身を護ってくれていた防具も、何も無い。
あまりにも、無防備だ。
それなのに──自分よりも源流の近くに居て、平然としているヘリオドールの姿に、フェンティセーザは、自分とは全く異質の存在なのだと思い知らされる。
「……流石に、向こうの『システム』が確認に来るだろうよ」
「……ヘリオ、ドール…っ」
「しのごの言ってる余裕はない、『学府』に飛んで悠長に調べてる暇は無いなら、知ってそうなのを呼び出して直接聞くのが一番なんだ。
私にはそれができる──この街で、今、ソレができるのが、私だけなんだ」
「そこまでして、助けたい、相手なの、か」
「勘違いするな。
今、より重視すべきは、そこまでして、排除しなくてはならない相手だ」
『──やあやあ、こんな密室で痴話喧嘩なんてしないでくれよ『ヘリオドール・アガット』?』
二人の間に割って入る様に、第三者の声が部屋に響いた。
(──来たか)
輪っかが掛かっている壁に、額縁の様に、真四角の光の枠が浮かび上がる。
その中に、砂漠の民の様に頭に布を巻きつけ覆った、褐色の肌の精悍な男の姿が映し出された。
『久しぶりだな。愉快な事になっていて重畳、重畳。
それとそこのエルフ、会うのは初めてだな?
己は『ドミ・ンクシャド』。
存分に親しみを込めて『ドミニク』と呼んでくれたまえよ』
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────
『……しかし本当に、場を外して笑い転げたくなるほど愉快な事になってるな?『ヘリオドール・アガット』』
「私の状態なぞどうでもいいだろ
聞きたいことがある」
『わざわざその為にコレか?』
目の前で繰り広げられるシステム同士の会話の中に膨大な質量を感じて、フェンティセーザは身動き一つ取れなかった。
「いや、コレはコレで保険と予行」
『保険と予行と…いや、お陰でこっちも『助かった』。気分が良い。何でも答えよう。
聞きたい事とは?』
言葉にしているのはほんの一部のはずなのに、映像の向こうの状況が、フェンティセーザに強制的に流れ込んで来る。
──『呪いの穴』の最深部は、常に極限状態に近い。蠢く何かと噴き出す魔力を、暴走しない様に抑え込んでいるのだ──見た事も聞いた事もないはずなのに、その様子が手に取るように『理解できる』。
「助かった」というのは、噴き出し掛けた向こうの魔力を、ちょうどいいタイミングでこちらに流し入れた事なのだろう。
「物理無効と魔法無効、両方備えた異質な人間の対処法を」
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「システムなら私が分かるさ」
『だろうな…』
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そこに、もう一つの男の声が割り込んできた。
『お帰り、シ=ゲル』
その声に、打って変わって愛おしげな声で『ドミニク』が答える。男の隣に、鎧姿が並んだ。
『あれ、久しぶりだね、『ヘリオドール・アガット』
それと…初めまして』
『ドミニク』よりも、幾分か高く、幾分か柔らかい声が、フェンティセーザが感じる重圧をほんの少し和らげた。
鎧姿の男が、美しい彫刻と、額の部分に無色透明の大きな宝石が埋め込まれた兜を脱ぐ。その下には、あちこちに傷が残るものの、少し幼さを残した優しい顔があった。
短く揃えられた黒髪は、映像越しでもよく手入れされている。
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