とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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集結の章 挿話─風─

ヘリオドール・アガットの暗躍と受難─4・回想─

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──フェンティセーザが初めて『彼』を見たのは、真夜中だった。

調べ物をしていて、奥書架から、自分の研究室を持たない徒達が寝泊まりする共同部屋に戻る途中だった。

時間は遅くなったが、収穫はあった。

(…ハロドから、足音の消し方を習っていて良かった)

森の民とて、足音の消し方は心得ている。
しかしそれは、屋外──森の中での消し方だ。

『街中、屋内だとまた変わってくるよ』

かつて共に地下迷宮に潜った気のいいハーフフットは、そう言ってコツを教えてくれたのだ。

『筋がいいね、フェンティス。
なんだか魔術師じゃないみたい』

そう、茶化す様に褒めてくれたのを思い出す。

真夜中の『学府』は、地下迷宮の様に『狂っていた』。
少しでも音を立てれば、物陰に、部屋に、引きずり込まれる事だってある。
時折、悲鳴や泣き声、嬌声が漏れてくる。

部屋の中にいるのが、モンスターか、人型の汚らわしい何かかの違いだ。

──それは、この『学府』の地下で蠢く地下迷宮『ドミ・ンクシャドの呪いの穴』の謂れを紐解けば、致し方ないとも言えよう。

────

その昔、ここは無垢なる聖霊と白銀の守護竜、父なる大地の加護の体現者である金剛騎士『ドミ・ンクシャド』に護られた土地だった。

街の近くの霊峰に白銀の守護竜が住まい
『ドミ・ンクシャド』が建てた霊廟に無垢なる聖霊が祀られ
その地下に、彼の大地の加護の証である『金剛騎士の武具』が安置されていた。

しかし、彼の死後──街は享楽と退廃が蔓延る悪徳の坩堝と成り果てた。

それでも、いつか人々が心を正すであろう時を待ち、守護者達は街を見守り続けた。

だが、それは最悪の形で裏切られる事となる。

自らを王と称した街の統治者は、霊廟の地下に眠る五つの武具と、聖霊が宿る金剛の聖杖を求めて、不可侵の霊廟の地下にある迷宮を制覇せよと触れを出したのだ。

『ドミ・ンクシャド』も、聖霊も、守護竜も──そして、五つの武具も、主に呼応する様に意志を目覚めさせ抵抗した。
真に彼の後を継ぐモノが現れるのを待ち──彼らの抵抗に応える様に、かつて彼らと死闘を繰り広げた筈の魔のモノ達までが『ドミ・ンクシャド』に付き、魑魅魍魎が溢れかえる、当時最高難易度の『地下迷宮』となったのだ。

そこに、一人の男が現れる。

遥か遠い所から来たという男は、たちまちのうちに迷宮地下一階を踏破した。

その実力は元より、その在り方、心根に
聖霊は彼を愛し
守護竜は彼に敬意を表し
五つの武具は彼を後継とし
『ドミ・ンクシャド』は彼を──次の金剛騎士と認めた。

真に『ドミ・ンクシャド』の跡を継ぐ者の出現は、護り手達のこの上無い歓びであった。

しかし彼の同行者は、彼の名を「発音がしにくいから」という理由で無理矢理改変し、奴隷として扱い、昼は休みなく迷宮を連れ回し、夜な夜な慰み者とした──

それでも迷宮に潜る男を、守護者達は、その様子を指を咥えて見ているより、他に無かった。

そうして──五つの武具を揃え、男は金剛の聖杖を手にした。

それを仲間に預け、再び祭壇の間に戻ってきた男に、『ドミ・ンクシャド』は望みを問うた。

それに男はただ一言、応えた。
「死にたい」と
確実に叶えられるその望みだけを光として、男は迷宮を踏破したのだと。

『──ならば、お前が要らぬというその命、己が貰おう』

その一言の後
聖霊は自ら穢れに染まり
守護竜は怒り

聖霊の聖杖を手中に収めた街は、誰一人残さず『ドミ・ンクシャド』の呪いに呑まれた。

そうして一つの街と、その周辺一体を飲み込んだ、守護を失った深き虚のみが、未だ怨嗟を撒き散らすという──

────

(…汚らしい)

共同部屋の住人と、研究室を持つ者とには、圧倒的な地位の差がある。それ故に、呼び出されれば応えなければならない馬鹿げた不文律──それを、迷宮を探検する際に使っていた一時休憩用の安全地帯キャンプを使って、事なきを得ていた。

地下迷宮探索用の魔法陣には、認識阻害が施されている。
高位の悪魔やドラゴン達、異界の神々がいつ現れてもおかしくない──そんな環境でも充分通用する術式だ。たかだか人の身である『学府』の研究者風情が、その中に居る者が誰かなぞ、見抜けるはずも無い。

そこまでするのは──存在した形跡すらも無くなった故郷を、仲間を探し当てようと、そして──共に迷宮に潜った仲間ともが絡め取られていた楔からの解放の手立てを求めて『学府』の門を叩いた自分に付いてきてくれた、婚約者と離れ離れになったままの妹の操を、護ってやりたかったからだ。

部屋さえ取れれば、妹を安心して『学府』に置ける。その為のネタなら、ある。

しかし、そのネタを『学府』に突きつけるレポートの作成の終盤で、煮詰まってしまった。
迷宮に関するレポートはそれなりにあるにも関わらず、迷宮を構成する構造物について、書かれている書物は何もなかった。

そこを突けば確実に、研究室あんぜんちたいは取れる。
その確信が、フェンティス──フェンティセーザにはあった。

しかし、糸口が見えなかった。

そんな中、夕方、たまたま出逢った二人連れの老爺が彼を奥書架に連れて行ったのだ。
そこは『学府』の徒が普通に入られる書架には無い情報の宝庫だった。その中に、迷宮の構造物について記されているレポートがいくつもあった。

著者は二人。
『ミズ・ゴールドベリ』と『ヘリオドール・アガット』。

「ゴールドベリは今はらぬが」
「ヘリオドールは探せばるよ」

ほとんど区別の付かない声で、老爺は告げた

「彼は研究室へやを持っておらぬ」
「一冊持って、探すとと良い」

そう言って、無造作に、『ヘリオドール・アガット』の名が入った紙束をフェンティセーザに押し付けると、二人の姿は解ける様に消えていった。

──まるで、夢を見たかの様なひと時で、気づいたら真夜中だった。

ほとんどのエルフが普通のエルフの中、古代種である自分達の容姿は目立つ。それ故に、目をつけられているのは重々承知なため、共同部屋を渡り歩く日々だ。
もう少しで、今夜の部屋に辿り着こうとした時、うっすらと開いた講義室の扉から、鼻をつく香りが漂ってきた。

その時、ふ、と花の香りに誘われて、フェンティセーザは部屋の中を覗いてしまった──

────

一人の男の周りを、男が数人がかりで囲んでいた。
全員、全裸だ。
囲んでいる男達は、享楽に耽っているのか、囲まれている男を汚すのに必死だ。
その中で、囲まれている男は、仰向けの男の上に馬乗りになって、腰を落とそうとしていた。

囲まれている男と、視線が合った。

思考が、真っ白になる。

慌てて、その場から離れて、フェンティセーザは走り出した。

────

どうやって、妹の所に辿り着いたかまでは憶えていない。ただ、気がつい時は妹の腕の中で、陽はとっくに昇っていた。

「兄さん、大丈夫?」

余程様子がおかしかったのか、流石に妹が心配して声を掛けてきた。

双子として、そして同じ『鑑識眼』を持つ者同士として、互いに何かがあった時は、その目で『視て』情報を共有する事にしている。

「……レン、私は」
「大丈夫よ、何にもされてない。ただ…」

妹に、優しく髪を撫でられる。

「兄さんにとっては、とっても『刺さる』出逢いだったみたいね」

そうだ。
男達に汚されながら、自らソレを受け入れていた男の、氷の様に冷たい表情を思い出し、鼓動が早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。

「兄さん?聞こえてる?」

(ああ、自分も同じ、だったか)

妹の声をどこから遠くに聞きながら、フェンティセーザは、早鐘を打つ胸に手を当てる。

かつての仲間ともが受けていたであろう事を彷彿とさせるその行為に、激しい嫌悪感と同時に

(あの目で、あの表情で、見下されたい)

渇望するほどの強い衝動に駆られたのだから。

そんな兄の、大きな身体を、そっと妹は優しく抱きしめた。

────

「落ち着いた?」
「……ああ」
「兄さんでも、冷静さを失うことってあるのねぇ」
苦笑いする妹に、フェンティセーザは溜息を吐く。

「兄さん、逃げて、良かったのよ。
逃げるのは、生きている生物としての、命を、尊厳を守る為の本能よ。
生きてさえいれば、心が折れさえしていなければ、何度でも打って出れる。でしょ?」
「そう、だといいが…」
「ええ、そうよ。きっとそう」

必ずとは言えないあたりが、辛いね?と、妹が続ける。

「……レン、今日は?」
「私は今日も調合棟に籠るわ。もう少しで私も出来そうなのよ?」

妹は妹で、門外不出の『エルフの焼き菓子エルヴン・クッキー』を、こちら側で手に入る材料で作り出そうとしている。
調合棟は、フェンティセーザが所属する探索棟や呪文や術の研究等に比べて、女性も多く、団結力が固いし、他人の研究を盗もうとする者もいないので、安心して居られるのだそうだ。

兄さんは?と訊かれて

「私は、一人、人を探しに行ってくる。
その人が見つかれば、私の研究も進むと思う」
尋ね人の名前を訊かれて、「ヘリオドール・アガット」と答えると、「じゃあ、私も調合棟むこうで聞いてみるわね」と返ってくる。

そうして、キャンプを畳むと、二人は必要な道具を手に、揃って食堂へと向かった。

食堂は、いつ行っても開いている。
皆が食事を摂りたがる時間にはさすがに人が立っているが、少し時間を外せば、食券を入れれば設置型の固有魔具が自動で配膳して出してくれるのだ。

「アレンティーナさぁん!」
後ろから、女性達の声がする。
「あ、みなさん、おはようございます!」
妹の様子を見るに、どうやら調合棟の面々の様だ。
一応、愛想笑いと言う名の優しい笑みを浮かべて、フェンティセーザも会釈すると、小さく黄色い悲鳴が上がった。
「兄です。兄さん、こちらはお世話になってる調合棟の方々で」
「兄のフェンティセーザです。妹がお世話になってます」
名前を聞く前に、先にフェンティセーザが名乗る。
「…天使の巻き毛エンジェルヘアーの方がクリステさん、亜麻色の髪の方がカルセードさん。それともう一人…?」

三人のうちの二人は、きちんと身なりを整えて居たが、もう一人は髪はぼさぼさ、服のボタンは掛け違えている。分厚い眼鏡を適当に掛けていて、これで出歩けられるのもある意味『学府』の住人…というものか。

「こちらは朝から空腹が過ぎて調合棟こっちに来ちゃった探索さん」
宥めすかせて連れてきたのよ~と、クリステが続けるのに返す様に
「だってここ遠かったんだもん…」
ぼそ、と告げた声は、男のものにしては若干高めてきゅんとなる声色だ。

告げて、男は眼鏡を外した。
その顔を見て、フェンティセーザの顔が強張る。

「私はヘリオドール・アガット。
探索棟所属、専門は遺跡の構造物についてだ……」

自己紹介に割って入る様に、フェンティセーザがヘリオドールの袖を掴む。

その顔は、真夜中に見たあの顔だった。

「?!」
いきなりの乱暴さ加減に──そして、目の前の男の顔を思い出しでもしたのか──ヘリオドールの顔が驚きに歪む。

「貴方が、ヘリオドール・アガット殿か」

ぼとぼとと、他の手荷物が落ちていくのも気に留めず──たった一冊のレポートだけを手に、フェンティセーザは目の前の相手に詰め寄った。

「どうか、私のレポートに助力を頂きたい」

────

後ろで妹が、二人のエルフに何か耳打ちしている様だが、どうでも良かった。

昨夜のアレを目撃しているから尚のこと、相手の知識と知恵を頼っているのだと、下心など何も無いと、分かって貰えないといけない──

じっと、フェンティセーザが視線を合わせる。

「……お前、名前は?」
「フェンティセーザ・スリスファーゼ。
探索棟所属、今は遥か南東の砂漠の中にある『アーマラットの呪いの迷宮』についてのレポートを作成している。それにどうしても、構造物についての情報を入れたい」
「サンプルは?」
「ある。現世と異界部、両方とも。
攻略は済ませているから跳ぼうと思えば<転移>で跳べる。
足りなければ採ってくる」
「工房は?」
「工房?」
「お前…工房も無しでレポート?どうやって書いてるんだ?」

きょとん、とするフェンティセーザに「まずはそこからか…」とガリガリと頭を掻きながら

「『双子王』の紹介ツテなら受けない訳があるか。食事の後で話を聞く。荷物拾って一緒に来い」

自分に助力を請うてくる者は、大抵下心を奥に隠してやってくる。故にヘリオドール・アガットは、部屋を持たず、ほとんどを探索と称して『学府』の外で過ごす。
そういった者達が、研究レポートを作成する際に、一時的な研究室として立ち上げるのが、通称『工房』だ。『工房』を立ち上げている間は、『研究室を持つ』者としての扱いになり、夜な夜な乱痴気騒ぎに巻き込まれる事もない。

──目の前の古代種エルフが持っているその紙束は、ヘリオドールの自署だけが記された白紙だ。
それだけを手に──他の荷物を捨て置いてまで──自分の助力を請うてきたのだ。
その勢いもさることながら、昨夜の今だ、多分中身には目も通してない。

それでいて、本当に、真剣に、探索者としての自分の助力を請うてきている。

──そんなばかなど、今の『学府』には久しく居ない。

(面白そうだから付き合ってやるか)

昨日帰ってきたものの、工房の立ち上げが間に合わず、朝食を摂ったらさっさとまた次の遺跡に向かうつもりだった男は、たまには居てみるかと予定変更したのだった。

────

無音の世界の中、じたじたと、ヘリオドールが服を脱ぎ落とそうともがく。が、身の内から暴れ出しそうな衝動を抑えながらでは、それもうまくいかない。

(……だめだ、このまま進めてはだめだ)

ヘリオドールの無意識に溶け込む様に入っていったアレは、まさしくまぐわい、睦み合うこと、そのものだった。

執着している相手が、ソレを『受け入れた』のだ。フェンティセーザに火がつかないはずが無い。

(落ち着け、落ち着いてくれ、ヘリオドール)

腹の上でもがくせいか、ダイレクトに刺激が来る。

(……泣きながら、やるものではないだろう…!)

顔を朱に染め、眦から涙をぽろぽろと落としながら、引き破る勢いで服に爪を立てている。

とにかく、落ち着かせねばと、フェンティセーザは身体を起こして、ヘリオドールの両手を掴んで一つにまとめた。
それを片手で本人の膝の上に固定すると、残った手をそっと相手の頬に添える。

そうして、そっと、眦に、額に、頬に、唇にと口付けの雨を降らせていく──

落ち着いた頃を見計らって、そっと両手を解放した。行きどころがないであろうヘリオドールの手に、フェンティセーザは自分の服を掴ませた。
肌の上を弾ませる様にキスの雨を降らせながら、片手で手探りで、ヘリオドールの服のボタンやフックを外していく。

(…多いな)

『学府』から支給されるヘリオドールの服は、他のものと比べて、同じ型なのにボタンやフックが多い。それも素材は銀製か、時には魔力を宿す希少金属の時もある。
あまりにも面倒臭がって常に着崩している位だから、本人が望んだものではないのだろう。
『学府』支給の服は、どれも造りが良く、市井に出回っているローブが紙に思えるほど防御力が高い。何故そうなのか──考えるだけでも頭が痛くなりそうだ。

やっと前をくつろげて、留め具を外していた手を腰に添えると、うっとりと口付けの雨を受け続けていた男は、目の前の男の首に腕を回して距離を詰め、唇を重ねて深く、舌を絡めた。

────

「……落ち着いたか?」
「まだ足りない」

ちょうど昼時、時間ギリギリまで使って衝動を書物に吸わせて落ち着かせた二人は、ゆあみを済ませて着替えていた。

ヘリオドールは術者仕様、フェンティセーザはそれよりも少しは動きやすさが考慮されたデザインで、どちらも『学府』支給の正装服だ。
白地に白と銀の糸で、ぱっと見ただけでは目立たない様に『学府』の紋章が刺繍されている。
首元の詰襟の色は、濃紺──所属棟で色分けされているソレは、二人が探索棟に所属している事を示している。

「動けなくなるから我慢してくれ、足りない分は

足りないのは、ヘリオドールだけではなかった。
熱の籠ったフェンティセーザの声に、ひくり、とヘリオドールの身体が跳ねる。

「ティス、お前の衝動ソレこっち寄越せ」

ヘリオドールが、送られて来た書物をフェンティセーザに手渡す。受け取ると同時に、次から次に湧く衝動と熱が本に呑み込まれて行くのがはっきりと分かった。

「……コレは、いつになったら『満たされる』んだ?」
「さあ?今現在進行形で私の衝動を吸いまくってるけど、どこまでも吸い込めるんじゃあないのか?」
「……」

送られて来た書物の中には、使い方なぞ書いてなかった。念の為木箱も改めたが、どこにも何も無い。
気が利かないにも程がある。

「…まあ、これ持っていくのは必須だよな…発動体だった時が困るし」
「そうだな」

ヘリオドールは魔術師を名乗っているが、呪文は扱えない。誰も扱った所を見た事がない。
なので、何か術を使う時は、その術専用のアイテム──『発動体』と言われるものが必要になる。

「ティス、『弓』忘れないでくれ」
「ああ、いつでも行ける」

控えめに言っても片付いていない自室のどこにあるのか、うまく埋もれている、もとい隠してある弓袋は、既に彼の傍にあった。

作戦は、簡単だ。
ヘリオドールが貧相な男の結界を破り、そのタイミングで『木霊の弓』から放たれる虹色の矢を撃ち込む。
『木霊の弓』などのに秘められた力の発動は、モンスターの吐息ブレス攻撃と同じで、特殊な扱いになる事が分かっている──呪文が効かないであろう相手に少しでも確実に相手に影響を与えるためだ。

簡単だが、これ以上は詰める余裕も時間もない。流れ以外は行き当たりばったりだし、ヘリオドールの術が発動する事が絶対条件だ。
しかしそれだけ分かっていれば動けるのが『冒険者』や『探索者』というものだ。

支部の建物には、フェンティセーザの仲間達が気を利かせたのか誰も居なかった。
戸締りを確認し、外出中の札を下げて、施錠する。

少し強い風に一撫ぜされると、今までのどこか甘やかさの残る雰囲気は影も形も無くなった。

「……巻き込んで済まない。行こうか」
「構わん、その為の『冒険者わたしたち』だ」

二人の徒は、目抜通りを挟んで真正面に聳える冒険者ギルドを見上げた。



───『風は異世界からも吹く』─3─へ続く
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