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第十二話
しおりを挟むが、やはり私は伊達にこの家にいない。
これについても想像がつく。
「殿下。おそらくシリアは屋敷で着飾り、殿下をお待ちなのではないかと」
「は?」
「殿下と初めて個人的な親交を結ぶ機会ですから、少しでも可愛い自分を演出するのに忙しいんだと思いますよ?」
「そんなバカな……」
そう言って眉間を押さえた彼を見て、私は思わず笑ってしまう。
すると不機嫌そうなジト目を殿下が向けてきたので、私の方もシレっとすまし顔になる。
「どちらにしろ、行ってみれば分かる事です」
心の中で「多分予想通りだと思いますけどね」と思いつつそう言えば、彼はしぶしぶといった感じで数人の近衛を連れてそちらへと向かっていった。
一方近衛に連行されていく父は、すれ違いざまにこんな言葉を零していく。
「貴様があの時素直に死んでさえいれば……」
言葉こそ負け惜しみだが、その目はまだギラついていて諦めていないのが良く分かる。
だから平然と言ってやった。
「私はあの時気付けて良かったと思うわ。私自身の為にも、そして――この国の為にもね」
そもそも私は家族との折り合いが悪かった。
冷めきっていたその関係にこうして決定的な亀裂を入れた事も、後悔もしていなければ今更惜しだりもしてない。
因みに母からは情に訴えかけるような泣き顔で「ビクティー、どうか殿下を『私たちを刑に処すような事はしないで』と説得してちょうだい」と言われたが、こちらに関してはそんな事をする気も無ければ義理も無い。
今まで私にしてきた仕打ちを、牢獄の中で散々後悔すればいい。
そんな両親が連れていかれてしまったところで、辺りは本格的に「どうしたものか」という空気になった。
それはそうだろう。
告発イベントが終わってしまい、この式の主催者側の人たちはみんな退場していったのだ。
参列者達はもちろん、神父様でさえ困った顔になっている。
あちらの方でまだ状況が理解できずに「えっ? えっ??」と辺りをキョロキョロしてる人は、たしか前に父が「操りやすい」と目を付けた貴族だった筈。
おバカ過ぎてちょっと可哀想。
向こうで顔を真っ青にしている軍団は、もしかして父と何かあくどい事をやっていた人達だろうか。
そうだとしたら自業自得なんだから、調べが終わってお迎えが来るのを大人しく待っていてほしい。
アーメン。
と、そんな事を考えていた時である。
「ビクティー様、本当に生きていらっしゃるので……?」
震えに震えたその声で、私は後ろを振り返った。
するとそこにはまるで迷子の子犬のような顔をした令嬢たちが立っている。
彼女たちは、先程から合いの手で私を援護してくれていた令嬢たちだ。
変わり者の私とも、そうと知っててずっと仲良くしてくれている。
そんな子達のまだ晴れない不安顔に、私は敢えて元気の良さを強調して言う。
「何をおかしなことを言ってるの。私はこの通りピンピンしているわ! ……あぁだからほら、泣かないで?」
「だって……ビクティー様ぁ~!」
私の言葉の途中からボロボロと泣き始めてしまったその子に思わず困ったように笑えば、みんな堰が切れたように立て続けに号泣し始める。
やっと不正まみれの父を断罪する事が出来、親子の縁をキッパリ切れて私は今大満足だ。
しかしそれでも、もしただ一つ私が失敗した事があるんだとしたら。
「私にとって今回最大の誤算は、多分コレなんでしょうね……」
そんな子達の肩を叩き頭を撫でつつ、空を見上げてそんな事を呟いたのだった。
~~Fin.
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