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第二章 第一節:王さまに会いに行ってみる

第7話 怖い顔のやさしい王さま

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 どうしよう。
 思わず一歩後ずさりながら、頑張って考えてみようとする。
 でもダメだ。どうしても「どうしよう」以外、考えられない。

 助けて、お母さま。
 伸びてくる鋭い爪の大きな手に、心の中でそう叫ぶ。でも、笑顔で振り返るお母さまの顔が頭に浮かぶだけ。

 もうダメだ。ギュッと目をつぶった。
 その時だ。

「廊下の真ん中で、何を騒いでいる」

 聞いたことのある声が、凛と廊下に響き渡った。


 ゆっくりと目を開けてみると、ギリギリまで迫っていた騎士の人の手に、横から別の手が伸びてきていた。
 がっしりと彼の腕を掴んでいた手は、陶器のような白色だ。黒髪の頭からは角が生えているその人は、眉間にしわを寄せていて。

「へ、陛下」
「王さま……」

 あ、怒ってる。 
 わたしがそう思ったのは、彼の周りを囲むようにして赤い色の靄が漂っていたからだ。


 赤い色は、怒ってるっていうこと。青い色は、怖がってるっていうこと。
 お母さまが『オーラ』と呼んでいたこの『気持ちの色』は、たまにだけこうして、わたしの目に映ることがある。

 どんなに表情で嘘をついても、絶対に誤魔化すことなんて絶対にできない色。だから、今赤いオーラを発している王さまがとても怒っているのは間違いない。

 でも朱色に近いその色の温かみも、わたしにはちゃんと見えている。

『誰にだっていいところはあって、それは相手をちゃんと分かるのよ』

 ふと、そんなお母さまの声が聞こえた気がした。
 
 彼の怒りは、自分勝手で理不尽なものでは決してない。
 そんな確信に、わたしの体の震えもピタリと止まる。
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