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第二章 第一節:王さまに会いに行ってみる
第6話 食べられちゃう?!(3)
しおりを挟むわたしは走り出していた。
きっとお母さまなら、助けに行く。そう思っていたかどうかは、覚えていない。
でもこれは絶対にいけないことだ。そんな確信はあって。
わたしの小さな体じゃあ、大きなこの人は止められない。だからとりあえず、必死で手頃な位置にぶら下がっていたあの筆のような尻尾に手を伸ばす。
「ダメーッ!!」
「ギャフッ!」
手に持ったものを引っ張れば、あの怒号が嘘だったかのように情けない声がした。
辺りの人たちは今度こそ、みんなピタリと足を止めた。
幾つもの視線に晒されているのを感じる。痛いほどの沈黙が流れる。
騎士の人が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
怒りに満ちた、獰猛な肉食獣の目と目が合った。いや、睨みつけられた。
猫に似たような目だったけど、同じ猫の目の宰相さまとはまるで比べ物にならない。
体が固まってしまって、動かない。ネズミの子が震えて動けなくなっていた理由が、今更ながらにやっと分かった。
しなる尻尾に手を振り払われて、ガクガクと震え始めた足は簡単に踏ん張りを失った。
思わず尻餅をついてしまう。そんな私を見下ろして、人より大きく見える口が「……あぁ?」と不機嫌そうに言葉を発した。
「ちっこい人間?」
見下ろしてくる彼は、わたしが人間であることを疑っていないように見えた。
何故わたしを見て迷いなく人間だと思ったのかは、分からない。でも、今はそんなことなんてどうでもいい。
『魔族にとって、人間はエサ。見つかったら最後、食べられちゃうのよ。ふふふっ、貴女の未来に幸せがあればいいわね』
そう言ったのは、たしか出発前の正妃さまだったっけ。
「何だぁ? いいおやつが転がってるじゃねぇか」
ニンマリと笑った彼の口から、ギザギザの鋭い歯が見えている。
――食べられちゃう。
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