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第10話 お礼の手紙は嗜みですよ?(2)
しおりを挟むそんな風に言葉を紡ぐと、周りがザワリと少し揺れた。
通りかかった人たちが友人なんかを呼んだのだろうか。
今や「ただ通りかかっただけ」という言い訳なんて通じないくらいに人が集まっている。
その中から、チラホラとこんな声が聞こえてきた。
「確かに取り巻き達のエリザベート様への態度、結構酷いものがありましたよね」
「えぇ、殿下もその辺はご存知でしたでしょうに」
「止めるどころかむしろ鼻で笑ってたよな。それで取り巻き達が、調子に乗って更に勢い付いたんだ」
なるほど。
私の味方はかなり少ないと思っていたが、口にしないまでもどうやら『殿下否定派』はそれなりの数居るようだ。
そんな風に思った時だ。
殿下の耳にも似たような声が届いたのか、少し焦った様に言う。
「しかしお前は、私が適当に手配させた贈り物に毎回直筆の手紙を寄越していただろ! それこそ私を愛していた証拠! こんな風に周りの同情を買って正妃に返り咲こうなんて、考えが浅はか過ぎる!」
お前の考えが浅はかだ。
というか、やっぱりちょっと自惚れが過ぎるなコイツ。
「贈り物のお礼に手紙を書く事なんて、婚約者としての義務でしょう。そんなもの、何の情も無い政略結婚相手に対して行うただのアクションでしかありません」
相手に直筆の手紙を書く事など、ただの社交辞令でしかない。
本当は直筆なんて面倒だったが、そうしなかったのは単に王宮に配慮した為である。
殿下に届く手紙には、毎回人の目が入る。
その人伝にもし「殿下とその婚約者は直筆の手紙を贈らないほど冷え切っている」という噂が広がれば、それはすなわち王宮の小さな醜聞になる。
もしこれがそれを避ける為に必要な措置ではなかったら、すぐにでも放り出していたところだった。
「私は、ただの一度も面と向かって殿下にお礼を伝えた事がありません。だって別に嬉しくも何ともありませんでしたから」
「それは一度も手渡しで渡した事が無かったから――」
「そういう機会が無かったとはいえ、後日私から会いに行って目を見てお礼を言う機会は幾らでも作れました」
それをしなかったのは、そうまでする価値が無いと思っていたからだ。
それほどまでに、彼から届く贈り物からは建前を消化する意図しか感じられなかった。
私達のやりとりに、周りはまたコソコソとこんな話をしている様だ。
「確かに普通は、お礼の手紙と共に何か品物がついて来たりするよな」
「えぇ、だって直筆のお礼状はマナーですもの。好いている相手ならば尚更、それ以上の好意を示す為にも、個人の気持ちとしても、何かこちらも贈り物をしたくなるものですよ」
「そうだよな。俺もたまに、他に用事が無いのに婚約者が直接お礼を言いに屋敷まで来てくれたりする」
良かった。
どうやら私の中の常識は、ちゃんと世間一般の常識だった様である。
などと密かに安堵した時だ。
「つまりお前は、俺を騙して影で嘲笑っていたという事かっ!」
激昂して、殿下が声を大きく荒げた。
しかしそれにしても、被害妄想が甚だしい。
私が一体いつ彼を嘲笑ったのか。
今この時でさえ、私は事実をただ淡々と述べているのに。
「嘲笑ってはいませんでしたが……月に一回決まって花が届くので、正直言って『芸がないな』とは思っていました」
しかも毎回季節の花が。
そう付け足すと、どこからか「何だよソレ、ただの『花の定期配達』じゃん」とどこかの誰かが吹き出した。
『花の定期配達』とは、屋敷を彩る花々を定期的に花屋が屋敷に届けてくれるサービスだ。
そして確かに、言い得て妙。
その表現は、過去の贈り物にしっくりくるものである。
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