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動き出した第二王子
第5話 彼が望むモノ(1)
しおりを挟むしかし自分の能力をひた隠しにする生活は、酷く退屈なものでもあった。
自分の能力をぶつける場所が無い。
それは「達成感を抱く事ができない」事と同義だ。
だって全力を出せないという事は、つまり本気になる事がないという事なのだから。
そんなハリの無い生活の中で楽しみを見つけるのは、ひどく難しい事だろう。
だから彼は、時折その能力を『遊び』の為に使う。
例えばテストの点数。
目立たないという前提がある以上、高得点は取ってはならない。
だから代わりに思い通りの点数を取る事で、人知れず満足感を得る。
例えば周りの人間。
第二王子というネームバリューがある以上、自分で表立って何かを成せば注目を浴びる可能性がある。
だから手駒を動かす。
相手にそうと気付かせないままに自分の思い通りに人を動かし、予定していた成果を得させる事で、人知れず達成感を得る。
どちらも、アリティーにとってはそう難しいことではない。
前者は普通に勉学に勤しんでいればできる芸当だし、後者だって帝王学を学ぶ王家の一員ならば出来て当然の事だと、少なくともアリティーは思っている。
そう、彼は10才にして王に必要とされる能力の原石を既に持っていた。
そしてそれを『遊び』と称して人知れず磨いている子供でもあった。
しかしそれらは、彼の持つ処世術のお陰で綺麗さっぱり隠されている。
その為、彼の評価は『第一王子に次ぐ才覚の持ち主』という物だ。
周りから見れば、アリティーという人間は『何をしても第一王子に劣る負け組』だ。
しかしその実、全ての物事や人間を、そして遂には周りの認識さえも思い通りに操ってきた『失敗知らずの成功者』なのである。
彼の側近である、ランバルトとジェームス。
この二人もまた、アリティーの『成果』である。
片や、アリティーの行動に深く口出ししたりせずただ与えられた仕事を忠実に熟す護衛。
片や、主の意志を正確に汲み取り且つその意志を叶える為に動く事が出来る補佐。
そんな2人に共通するのは『少々苦言を呈する事はあるにしても、決して主の考え自体に意義を唱える事はしない』という事であり、それこそアリティーが手元に欲しい腹心だった。
だからアリティーは手に入れたのだ、偶然のような必然を作り上げて。
そんな、計算高くまるでゲームにでも興じるかのように人を采配する事を好む、人間的には難ありだろうアリティーの本性を知っているのは、現在のところジェームスただ一人。
ランバルトは、おそらく気付いていないだろう。
しかし多分それで良い。
そんなアリティーが、今強く望んでいるモノ。
それは先日、何の前触れもなく彼の目前に現れたあの子である。
目を閉じれば、社交界デビューの日に見つけたあの『妖精』の姿が今でもありありと脳裏に蘇る。
ビロードの様に艶やかな髪。
白い肌に良くなじむ山吹色のドレスと、シャンデリアの光を反射してキラキラと煌めく装飾品に身を包んだ彼女が、自分達を前にして王族に対する最敬礼を執る。
その所作の美しいこと。
その美しさは、少なくとも同年代の他の子供達とは雲泥の差な出来栄えだった。
伏し目がちなその瞳を、何が何でも振り向かせたい。
瞬発的にそう思ったアリティーは、気付けば声を掛けていた。
当たり前だが、あの場には第一王子も同席していた。
目立つようなことはしてはならない、そう自身に言い聞かせて来たこれまでを台なしにする可能性がある、実に危険な行動だった。
後にしてみればそうと分かるが、あの時はその願望に抗う事が出来なかったのである。
自身の感情を制御する事は、王族にとって重要なスキルの一つだ。
そしてそのスキルは十二分に自分には備わっていると思っていたのに、あの時はそんなもの全く当てにならなかった。
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