運命の人から命を狙われています⁉︎

月密

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十三話

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 泣くつもりなんてなかった。彼を困らせたく無いのに、涙が溢れて止まらないーー。

「フィオナは、私を嫌いになりたいのかい」

 困惑した様子でローデヴェイクに問われたフィオナは、ゆっくりと頷いた。

「ローデヴェイク様を好きになり過ぎて、辛くて苦しいんです。ローデヴェイク様には他に大切な方がいらっしゃるって分かっているのに……」
「大切な方?」
「例えお飾りでも、私のような田舎娘を妻に迎え入れて下さるのですから、感謝こそしても嫉妬するなど見苦しいと分かってはいるんです、でも……」
「フィ、フィオナ? 少し冷静になって欲しい」

 フィオナは自暴自棄になり、この際だから思いの丈を彼に伝えて、何なら軽蔑されるくらいの方が気持ちが楽になるかも知れないとさえ思った。だがそれもローデヴェイクによって止められてしまう。

「お飾りの妻やら大切な方とか、私には何を言っているのか分からないんだが」
「私……街へ買い物に出掛けた時に見てしまったんです」
「見たとは……」

 幾ら何でも流石に往生際が悪過ぎると、フィオナはローデヴェイクを涙を流しながら睨んだ。
 可愛さ余って憎さ百倍とでも表現しようか。初恋で、運命の人だと思った彼に騙されていたと思うと悲しいやら虚しいやら怒りも込み上げてくる。

「初めから正直に言って下されば、私だってこんな思いになりませんでしたっ……。あの女性と結婚出来ないからって、酷いですっ! ローデヴェイク様の莫迦! 莫迦! 莫迦~‼︎」

 フィオナはローデヴェイクにしがみ付き泣きじゃくる。そして涙だけじゃく到頭鼻水まで垂れてきた。もう顔がぐちゃぐちゃだ。だが醜態を晒し過ぎて感覚は麻痺し、もはや羞恥心なんて何処かに吹っ飛んでしまった。
 
「ふっ、ははっ」

 真剣に話しているのにも関わらず、何故か彼は急に声を上げて笑い出した。

「ローデヴェイク様⁉︎」
「ははっ、あーすまない、ついね。ただ人生で莫迦などと言われた経験がなかったから面白くてねーーそれで、フィオナ。申し訳ないけど、始めから順を追って説明してくれるかい」




 簡潔に言えばフィオナの勘違いだった。
 フィオナは、ローデヴェイクにあの日の事を打ち明ける。すると意外な返答が返ってきた。

「あの女性は所謂情報屋でね」

 彼女は娼館で娼婦として働き、そこで客から情報を得ている情報屋だった。

「仕事の事だから詳しくは教えてあげられないけど、彼女とはそういった仲ではないよ。ただ男と女だからね。感情はなくとも行為をした事があるかと問われれば否定はしないよ。ただそれも昔の話だけど」

 恋人や想い人ではなかった事に安堵するも、複雑な思いになる。あの美人で色気満載の女性とローデヴェイクは床を共にした事があるという。
 確かにローデヴェイクに抱かれた時の事を思い返してみれば、彼は手慣れていたし多分彼女のみならず他にも経験はあるのだろうと思う。未婚ではあるが成人男性で、年齢から考えても別段おかしな話ではない。だが頭で理解は出来ても気持ちは別だーー思った以上にショックを受ける。

「すまない、フィオナ。そんな顔をしないで。ただ嘘を吐いて、後から事実を知ったら余計に傷付くと思ったから正直に話したんだ。私は、君に嫌われるのが怖い」

 またこの顔だ。
 必殺、捨てられた仔犬ーー。
 本当にこの方、狡過ぎる。
 
「でもこれだけは信じて欲しい。君と出会ってからは、他の女性とそういった行為はしていないよ。そしてこれから先も、もう君以外を抱くつもりはない。それに子種を注いだのは君が初めてなんだよ」

 恥ずかしげもなくそんな事を堂々と言う彼に、フィオナの方が恥ずかしくなってしまう。
 いつの間にか涙はおさまり、只管に身体中が熱くて疼くのを感じた。

「フィオナ、仲直りしてくれるかい」
「ローデヴェイク様は、狡いです」
「狡くていい。君から愛して貰えるなら、どんな卑怯者にもなるよ」

 どちらかともなく唇を寄せた。触れているだけのキスは直ぐに啄むようになり、更に激しくなり舌を絡ませ貪りながら寝衣を脱がされる。
 彼に素肌を見せるのはこれで三回目だが、やはり慣れないと羞恥に身体を震わせた。

「ねぇ、フィオナ。私のも脱がせて」

 甘えるように囁かれ、戸惑いながらも従う。
 彼のガウンに手を伸ばしゆっくりと脱がせた。互いに脱がせ合うだけの行為がこんなに恥ずかしいなど知らなかった。

「もしかして、照れているのかい? 本当に可愛いね……あぁっ、フィオナ、すまない。もう我慢の限界だ……今直ぐ君を堪能したい」
「ローデヴェイク様ーー」

 その夜二人は朝方まで愛し合い、次の日は言うまでもなく寝不足になった。

 
「そう言えば、何が欲しかったんだい? 言ってくれたら用意させたのに」

 あれからフィオナは毎晩ローデヴェイクのベッドで眠るようになった。流石に毎日まぐわう事はしないが、彼の隣で眠れるだけで幸せだ。因みに彼の希望は毎日であるが、フィオナの体力が持たないので丁重に断っているがーー例の必殺技である捨てられた仔犬を見せられると否と言えない。
 
「それじゃダメなんです」
「どうして?」
「私、少しでもローデヴェイク様のお役に立ちたくてーー」

 彼の為にフィオナお手製ケーキを作るつもりだった。これでもフィオナは食べるだけでなくお菓子作りも得意だったりする。生家では両親や弟、使用人達にも振る舞い結構好評で「元気が貰える」と喜ばれていた。それ故に、ローデヴェイクにも食べて貰いたいと思ったのだが……。

「材料を揃えるところから自分でやりたかったんです。でも結局作れず仕舞いでしたけど……」

 彼と女性の事が気掛かりで、それどころではなくなってしまった。

「なら今度は一緒に買い出しに行こうか」
「ローデヴェイク様……」
「君のお手製ケーキを食べてみたいんだ」
「はい、喜んで」

 後日、約束通りフィオナとローデヴェイクは二人で街へと出掛けた。但し買い出しはオマケとなり、二人はデートを満喫した。
 

 


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