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第三話
しおりを挟む目を開けるとクリスタはソファで横になっていた。身体にはブラッドの上着が掛けられている。
「お目覚めかな」
「ごめんなさい、私また寝てしまいました……」
「君は何時も、イくと寝ちゃうからね」
さらりと凄い事を言われ恥ずかしくなる。
少し怠い身体を起こし、誤魔化すように上着を彼に手渡し礼を述べた。
「あの私、どれくらい眠っていましたか?」
「小一時間といった所かな」
いつの間にか窓の外は暗闇に包まれ、部屋にはランプに明かりが灯されていた。
「ブラッド様、私少しは魅力は上がっているんでしょうか……」
「少しずつだけど、以前よりも色香を感じるよ。だからこれからもレッスンは続けないとね」
「はい、頑張ります」
「さて帰ろうか、屋敷前まで送って行くよ」
立ち上がろうとクリスタがソファの肘置きを掴んだ時、ドロリとした白い液体が手に付着した。
「どうしたの?」
「ブラッド様、これは何でしょうか?」
瞬間彼は黙り込むが、直ぐににっこりと笑みを浮かべ「ミルクだよ」と答えた。
「君が寝ている間に喉が渇いてしまってね」
クリスタは目を丸くする。
確かに朝食時に飲んだりはするが、わざわざ喉が渇いてミルクを飲む事は余りない。好みは人それぞれなので何時飲もうが口を挟むつもりはない。ただブラッドがミルク好きな訳ではないと思う。これまで彼が飲んでいる所をあまり見たことがないし、そもそもーー
「でもこれ、何だかベタベタします」
「普通のじゃなくて特製だからかな」
「特製……?」
その言葉にクリスタは好奇心が湧き、行儀は悪いが指に付着した液体を舐めた。
「んっ、苦い……。ブラッド様、このミルク……」
白濁した液体は苦くてトロみがあり口当たりが悪かった。でもこれが所謂大人の味なのだろうか。
ブラッドを見ると彼はこちらを凝視していた。穴が空きそうな程見られて戸惑っていると、不意に頬に触れられる。
「僕の、美味しかった?」
(僕の?)
「苦いですけど、美味しいです」
正直美味しくはないが、ブラッドに子供扱いされたくない一心で見栄を張る。
「そう、良い子だね」
彼は親指の腹でクリスタの唇を撫でながら微笑んだ。
「姉上、どちらに行っていたんですか?」
ブラッドに送って貰い屋敷へと帰ると、廊下で弟のリュークに声を掛けられた。
二歳年下の弟は昔からクリスタに良く懐いており、この歳になっても慕ってくれている。
身長は疾うに抜かされてしまったが、癖っ毛の赤毛とヘーゼル色の丸い目は変わらず可愛らしい。
「えっと、ちょっと私用で街の方まで……」
彼と会っていたなどと口が裂けても言えない。父に報告でもされたら絶対に怒られる事間違いなしだ。
それに言葉を濁したが、嘘は吐いていない。
「それにしても随分と遅くないですか?」
「えっと、少し気晴らしがしたくて……」
「気持ちは分かりますが、余り遅くなると俺も父上も心配してしまいます」
「ごめんなさい、次からは気をつけるわ」
「姉上、あんな浮気野郎なんてどの道姉上には相応しくなかったですよ」
(浮気野郎って……)
唐突に悪態を吐く弟に苦笑するが、それだけ心配してくれているのだろう。
「だから婚約破棄になって正解だと思います。父上が次こそは絶対に誠実な男を探してくると意気込んでいましたから、姉上は何にも心配しないで下さい」
「……ありがとう」
純粋な弟の優しさに、何となく後ろめたさを感じてしまう。
今の自分は果たして誠実のなのだろうか……。
(でもアレはレッスンで、悪い事してる訳じゃないもの……)
現にクリスタに婚約者がいる時はレッスンは行われない。それが彼との約束だからーー
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