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第十四話
しおりを挟む執務室を飛び出したクリスタは正門へと急いだが、既にブラッドの姿はなかったーー
「姉上‼︎ 大丈夫でしたか⁉︎」
「リューク……」
翌朝、リュークが部屋を訪ねて来た。
どうやら父から昨夜の事を聞かされたみたいだ。
心配しながらも青筋を立て怒りを露わにしている。
「ライムント・ソシュールっ、あの男が姉上を侮辱したそうですね⁉︎ 僕も父上と共にソシュール家に乗り込んで抗議して参ります‼︎」
「リューク、落ち着いてちょうだい。貴方が一緒にいけば大事になっちゃうわ」
「姉上こそ何を仰ってるんですか⁉︎ 既に大事なんですよ⁉︎」
興奮するリュークに戸惑いながらも、こんなにも自分の為に怒ってくれる優しい弟に不謹慎だが嬉しいと思ってしまう。
「ありがとう、リューク。私の為にそこまで怒ってくれて」
「当然です! 僕の姉上を傷付けたんですよ⁉︎」
鬼の形相で拳を握り締める姿に、今ライムントが目の前にいたら冗談抜きで殺されてしまうのではないかと思った。
「でも今回の事はお父様に任せるのが適切だと思うの。向こうは公爵家だし、それに私にも落ち度があるから……」
それから十日間の間、クリスタは湯浴みなどの一部を除き部屋からは出られなかった。
ソシュール家との話し合いは難航し数日に渡り行われたと聞いたが、どうにか互いに納得する結果に収まった。
最終的にライムントが全面的に非を認めソシュール家側が謝罪し、今回の件を公にしない代わりに相場の三倍の違約金に加えて、金輪際ライムントをクリスタに接触させない事を約束させた。彼は騎士団を辞める事となり、その後はソシュール家の領地へ送られ生涯そこで生活するそうだ。
彼はクリスタが婚約破棄をしたいと申し出た事は話さなかった。ただひたすら自分が悪いと言って、焦ってしまったと言っていたらしい。
ライムントが性的不能な事には驚いたが、クリスタだけは違ったと言っていたのでその言葉の意味が重く感じた。
もしあんな提案をしなければ、ライムントが強行な行動を取る事はなかったかも知れない。自分が大人しく彼との結婚を受け入れていれば……罪悪感を感じる。
これからどうすればいいのだろう。
きっとまた直ぐに父が婚約者を探してくる筈だが、もう誰とも婚約なんてしたくない。
「っーー」
こんな時に脳裏に浮かぶのはやはりブラッドで、本当に馬鹿だと思う。
(彼に会いたい……)
まだ謹慎中だが、いっそ家出でもして彼に会いに行こうか。
だが彼には既に婚約者がいるし、それにーー
『ロワリエ侯爵に告げ口されたくなくて言い訳したの?』
『でも自分の意思で彼とデートしていたよね』
あの時の彼は見た事もないくらい怖かった。
それにきっと軽蔑された。
自らデートに行った癖に、いざそういう事になって怖気付いたと思われたに違いない。
『まあいい、今回だけは目を瞑ろう。だが金輪際あの男の息子と会う事は禁じる』
「……」
父は本気だ。このままならもう二度と彼には会えない。
会いに行くなら今しかない。
父が次の婚約者を決めてしまったら、ブラッドが結婚してしまったら……。
クリスタは拳を握り締めた。
そして部屋の外に控えている侍女のマイラを呼んだ。
「街で一番人気のある製菓店に行って来て欲しいの」
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