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第4話 奴隷市場

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 俺はすくすく育って、10歳になった。
 10歳になると、シュマーケン家の掟で、いよいよ自分の奴隷を持つことを許される。
 俺は、初めて奴隷の買い付けに同行した。

 奴隷市場はものすごい盛況だった。
 市場といっても、ここは奴隷商人たちが奴隷を買い付けにくる場所だ。
 世界中のあらゆる場所から、あらゆる人種の亜人たちが売られてくる。

 市場の中は巨大なドームになっていて、まるで高級ホテルのラウンジのように豪華だった。
 なんだかこんなところに子供の俺がいると、場違いな感じすらしてしまう。

 シュマーケン家では独自のルートでも奴隷の仕入れをやっていた――まあようは、人さらいのようなものだ――だが、基本的にはこうやって奴隷市場から仕入れることも多い。
 奴隷市場から奴隷商人に渡り、それから貴族などの顧客に渡るという感じだな。

 あくまで奴隷市場では、無造作に大量の奴隷が売られる。
 俺たち奴隷商人はその中から、めぼしい奴隷を買いつけて、それをきちんとしつけをして、貴族の手に渡っても大丈夫なようにするのが仕事だ。

 買ってきたばかりの奴隷は、どれもしつけがなっていないからな。
 奴隷紋があるとはいっても、やはり逆らわれるとめんどくさい。
 貴族に高値で売るには、奴隷の所作や礼儀も大事だった。

「さて、どれでも好きな奴隷を買うといい。まあ、お小遣いの範囲だがな」

 父はそういって、俺を市場の中で好きに動き回らせてくれた。
 父の奴隷であるハンスが、迷子にならないように俺のおもりをしている。
 ハンスは、父の専属奴隷で、この前殴られてるところを俺が助けたやつだ。

 今回俺が買いに来たのは、売るための奴隷じゃない。
 俺の身の周りの世話をしてもらう、専属奴隷だ。
 シュマーケン家では、売りものにする奴隷の他にも、家のことをしたり、いろいろな目的で奴隷を飼っている。

 今までも身の回りを世話する奴隷はいたが、それはあくまで父の所有物。
 今回10歳になったことで、ようやく俺も一人前と認められ、自分の奴隷を持つことがゆるされたのだ。

「坊ちゃま、先ほどから、何をお探しなのですか? あ、もしかして、かわいらしい年ごろの娘とかですか?」

 ハンスが俺にそんな軽口をたたく。父がハンスを殴るたびに治療してやっていたら、けっこう仲良くなっていた。いざというときには、きっとハンスは俺のことを助けてくれるだろう。

「いや……そうじゃない。まあ、見た目はいいに越したことはないが……。俺が探してるのは、欠損奴隷だ」
「欠損奴隷……って、そうそういないんじゃないです? ていうか、また坊ちゃんもお若いのにすごい趣味してますねぇ」
「なんかすごい勘違いしてないか? お前」

 目につきやすい大通りには、やはり見た目のいい奴隷ばかりが並んでいる。いわゆる売れ線の商品というやつだ。
 欠損奴隷なんかの不良品があるのは、もっと地下のほうかな。
 俺は奴隷市場のメイン通りから外れて、地下の売り場に行ってみることにした。

 そこは、人が来るような場所じゃなかった。
 衛生環境も上とは比べ物にならないくらい悪く、鼻がもげるようなにおいがした。
 売人も、小汚く、これではどっちが奴隷かわからないくらいだった。

 だが、ここにこそ俺の求めていたものがあった。
 欠損奴隷を専門に扱っている、偏屈そうな爺さんに話しかける。

「なあ、奴隷が欲しいんだが。女の奴隷がいい。若いやつな」
「へっへっへ、坊さんもまだお若いのに物好きでんな。若いのはいますが、どれもこれもすぐに死にそうなやつですぜ? 顔もただれているようなのばっかでさ」
「かまわん。見せろ」

 俺は爺さんに案内され、カーテンの奥へ。
 そこには鎖につながれた奴隷がずらっと並んでいた。

「一応、こっちにつないであるのは全部処女ですわい。見た目も悪いんで、誰も手をつけなかったんさな」
「それはどうでもいいが……。まあ、参考にしよう」
「性奴隷にはおすすめできやせんぜ? 体力もないですし……」
「うるさい。ちょっと黙っててくれ」

 俺はめぼしい奴隷を探した。やはり、専属の奴隷となってくれる相棒だから、慎重に選びたい。
 ひどくやせ細ったエルフの少女と、目が合った。

「この子は、エルフなのか」
「ええ、珍しいでしょう? 頭はいいと思いますぜ、顔はこの通りですが」

 そのエルフは四肢が欠損しており、顔もひどく焼けただれていた。
 だが、俺はなぜかそいつに強烈に惹かれたのだ。
 別に、同情をしたわけではない。
 ただ、俺になら、この子を治せると思ったからだ。
 自分の力を試したかった――それだけだ。

「こいつにしよう。この子をくれ」
「へい、まいど。50Gになりますんで」
「そんなんでいいのか……!? いくらなんでも安すぎないか?」
「ま、うちはそういうジャンク品ばっかでやらせてもらってますんで。ご覧の通り、使い物にならない、廃棄寸前の奴隷ですんで、ま、こんなもんでさ」
「そうか。まあ安いのはいいな。よし、奴隷紋の契約を結ぶぞ」

 奴隷とは、奴隷紋で契約して初めて使役できるようになる。
 売り物の奴隷は、売り物の段階ではその店の店主と奴隷契約を交わしている状態になっている。
 金をはらって、改めて買い主と奴隷契約を結び直すのだ。

 ちなみに、奴隷契約といっても、絶対順守の拘束力があるわけではなかった。
 奴隷紋によって飼い主ができることは、奴隷に罰を与えること。
 それから、奴隷が飼い主に危害を加えることができなくなる。

 あくまで奴隷は飼い主に危害を加えることができないだけで、その他のことは自由にできるのだ。
 だから、奴隷との信頼関係は結構大事だったりする。
 うちの父のように、きつい罰で縛り付けたりするのなら別だが……。

 奴隷の飼い主は、いつでも奴隷紋に痛みの信号を送ることができた。
 加減を加えれば、痛みで狂わせることも、あるいは魔力次第では、殺すことだって可能だった。
 父の場合は常に微量な痛みで縛り付け、作業をしている間だけはその痛みを消すというやり方をとっていた。

 俺はそんなことして、破滅したときにどう仕返しされるか考えたら恐ろしくて……。
 だから俺は決めていた。
 奴隷を買ったら、とことん媚びを売ろうってな。
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