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そして、新たな冒険へ。

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 一瞬。あたしにはそこが何処だかわからなかった。

 空は黒い雲に覆われて、イカヅチが光る、そんな嵐。

 そして。

 空を割って現れる龍。

 黒龍、ブラド。

 紅龍、レッドクリムゾン。

 青龍、ブルーラグーン。

 黄龍、ジラーフ。

 赤龍、レッドストライク。

 白龍。パイロン。

 そして、神龍、オーバーザレインボウ。


 空を彩る七つの龍が、まるでこの世の終わりのイチシーンの様にも見え。



 眼下には、大樹グランウッドが燃えていた。

 真っ赤に広がる炎の柱。

 そして……。


 グランウッドが巨大な炎の魔人の姿となって、喋った。



「これはこれは。盛大なお出迎えだな。この俺の復活に七色龍が勢揃いとは!」

 《ほざけバルカよ! この世界を貴様の好きにさせるわけにはいかん》

 はう! あれは黒龍の声?

 魔王バルカと戦う為に龍種が集まったっていうの? この聖都に!



 よく見ると、地上、王宮には逃げ惑う人の姿が。

 ああ。ダメ。このままじゃ聖都が壊滅しちゃう!

 あれだけの龍と魔王バルカが戦ったらこんな場所一瞬で荒地になっちゃうよ! 


 《待ちなさい! ブラド》

 アリシア?

 アリシアはあたしのゲートからマナを放出。そしてそれに真龍のマトリクスを描き。そして。

 あたしにまとわりつく真龍のマトリクス。ゆっくりと、しかし確実に。あたしの身体は巨大な龍の姿に変わっていった。

 真龍、エレメンタルクリスタルのその姿に。

 《おお、レヴィア様。我ら七色龍、バルカめと戦う為、ここに馳せ参じましてございます!》

 《ありがとう。でもね? 今あなた達に暴れられたらこの町は壊滅してしまうから。ここはわたしに任せて貰える?》

 《了解しました。レヴィア様。では我らのチカラはあなた様のもとへ!》

 そう、黒龍の声が聞こえたかと思うと、龍達はその姿を龍玉に変え、あたしの元に集まった。

 首元に、ネックレスのように集った七つの龍玉。

 そして。

 ——いい? レティーナ。わたしがあのバルカの動きを止めるから、貴女は『円環の昇華』を使うのよ! 七つの龍玉は残していくから魔力は足りる筈。いいわね!

 え、でも!

 ——でも、は、無し! いいわね!

 ぶわん! っと、あたしの身体を龍の身体が素通りしていくような感覚。

 真龍の体だけが眼下の魔人バルカに向かって突進していった。あたしの身体を残したまま!

 アリシア!

 ああ。アリシアは真龍の体とあたしの身体を分離させて……。

 炎の巨人と化したバルカに噛みつき絡みつく真龍。

 《今よ! レティーナ!》

 ああ、炎が真龍をも焼いていく!

(お願い、レティーナ。わたくしがわたくしでいられるうちに……)

 《早く! レティーナ! サンドラがバルカに完全に飲み込まれたら、何もかもが無駄になるのよ!》

 はう、でも。

 ——断ち切るんだよ。レティ。全ての負の連鎖を。そして全てを救うんだ。バルカも、そして、サンドラ様も。

 救う? 大聖女様にとってもこれが救いになるの? 

 ——そうだよ。だから。

 ああ。頭ではわかってる。でも感情が、心がそれについていって居なかった。

 なによりも、あたし、が、大聖女様とお別れするのが辛いのだ。だから……。

(わたくしはいつでもあなたの中に居ますよ。レティーナ。こうして会話ができなくっても、あなたの心の中に。繋がっているんですもの。あなたとわたくしのレイスは。大好きな、瑠璃……)

 ああ、ああ、大聖女さま……。

「サブリメイション・オブ・サークル!!!」

 あたしは胸に手をあててそう叫んだ。


 光が、周辺全てを包み込み。


 そしてそのままあたしの意識は途絶えた。










 ☆☆☆☆


「やっぱり王宮に留まっては貰えない、か」

「ええ。クラウディウス様。あたしはまた隣町で普通の冒険者に戻ります」

 バルカを浄化し円環に還した後。龍達はみなバラバラに飛び立ち聖都には静寂が戻った。

 グランウッドは焼失してしまったけれど、幸いにして被害はそれだけで済んだようだ。

 アリシアも居なくなっていた。寂しいな、そう思ったけれどしょうがないな。

 あたしの魔力はそのほとんどを円環の昇華の大魔法に使い切っていて、元のレベルにまで戻るまでかなり時間がかかりそうだった。

 ティアの龍のシズクも魔王の気にあてられ砕け散っていたから、ほんともう一般の冒険者に毛の生えた程度の能力になってる感じ。

「それに。ここにはもうあたしは必要無いですし」

 魔王の封印も無くなって、この聖都が魔を引きつける事もなくなった。

 聖都に結界をはる必要すらもう無いのだろう。

 それに。

 ここには大聖女様との思い出が残りすぎていて、辛い。


(今のあなたはレティーナなんだから。レティーナとして生きれば良いって)

(そうよ。レティーナ。アリシアの言う通り。だからね、あなたはあなたとして生きて)

 耳に残っている二人のそんな言葉。




 あたしは王宮に背を向けて、歩き出した。

 隣にはティアとカイヤ。

 うん。この二人と共に、あたしはあたしの人生を歩もう。


 そして。全てはここから始まるのだから。


                           Fin
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