「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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空を飛んで。

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 帰ると決めたら早かった。
「君がセリーヌだったのなら、もう遠慮しなくても大丈夫だから」
 貴族の血族であったとしてもどこの誰かわからない平民セレナには見せられないけれど、セリーヌにだったら見せても大丈夫だから、と。
 背中に竜のような翼を纏ったギディオン様、あたしを抱き上げてそのまま空を飛んで帰るという。
 馬で帰るよりも圧倒的に早いし、尚且つ人目に触れることもない。
 馬車ならともかく騎乗では、どこに公爵家の目があるとも限らない街中を行くのは避けたい。
 そうおっしゃって。

 ふたりの身体がふわりと浮かぶ。
 これは……。
 あたしの風魔法と違って重力魔法かな。
 翼はもちろん風を切るためだろうけど、浮かぶのは重力に逆らって浮かんでいる感じ。

 もともとベルクマール大公家は、大昔に魔王を封印した勇者と、それを助けた帝国皇女の聖女によって興った家系。
 その後も何代も、定期的に蘇る魔王と闘ってきた歴史のある家だ。

 歴史書にはこう記されている。

 帝国暦2156年、当時のガイウス帝の治世に復活した魔王に立ち向かい、そしてそれを打ち負かし再度封印する事に成功した勇者オクタヴィアヌス。
 そして帝の妹君であった大予言者カッサンドラがその勇者に降嫁し、興ったのがベルクマール大公国とされている。
 その後、大公国は聖王国と名を変え、現代では帝国の一部となりしかしその地は今でも広大な大公領として栄えている。

 と。

 初代以降も何度も帝室との血の交わりを経て、今では皇帝の外戚として帝国内での影響力も強い。
 そんな家柄だ。

 当然、魔力も強く、古くから伝わる聖遺物アーティファクトも多く所有しているのだとか。


 風を切る。そんな言葉が似合うほどの高速で空をゆくギディオン様。
「ごめんね。ちょっと風が強いかもしれないけど」
 そう心配してくれた。でも。
「大丈夫ですわ。わたくしも風の魔法が使えるんですのよ」
 と、自分たちの周囲に円錐状の風の結界をはる。
 途端に鳴り止む風切りの音。
「ああ。これはすごいね。これならもっと速度を上げることができそうだ」
 笑顔でそうおっしゃったギディオン様。
 って、え? これでも加減してらっしゃったの!!?
 ギュン!
 ってスピードが上がるのがわかる。
 あまりの速度に目が回ってフラフラになっているあたしをそれでも優しくホールドしながら、あっというまに隣街の騎士団駐屯地に着地したギディオン様。

「着いたよ? ふふ。ちょっとだけ休もうか?」

「もう、いじわる。でも、ちょっとだけお風呂を貸してくださいませ。髪も染めないと帰れませんし」

「了解。っていうか君、毛染めを持ち歩いてるの?」

「魔法ですよ。原理は内緒ですけど」

「そっか。だから君の髪を触ると心地よかったのかもね」

「もう。ギディオン様ったら!」

 もう、ほんと、一層気安くなったのはまぁ悪い気はしないでもないけど、揶揄われているようでちょっとだけ心外だ。


「隊長、基地でイチャイチャするのはやめてもらえませんかね?」

 イチャイチャって、そんな!
 背後からいつもの部下さんが現れて呆れ顔でそう言った。

「ああ、ジーニアス。悪いね」

 あっさり肯定するギディオンさま?
 っていうかあれ、イチャイチャなの? あたしが揶揄われていただけじゃなくって?

「至急報告したいことがあります。ここではなんですので執務室にお願いします」

「わかった。すぐに行こう。レミリア、君は彼女を浴場に案内してくれるか?」

「はい。ではこちらへ、お嬢様」

 そばに控えていた女性の騎士様、レミリアさん? に、言われるままついていく。
 ちょっと足元もフラフラしてるし、お風呂でゆっくりさせてもらおう。
 ミスターマロンに帰ったら、新しい商品の提案もしなくちゃだ。
 もう、徹底的に抗ってあげなきゃ気が済まないもの。
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