召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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126.ギブギブギブギブ…

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「そうだアキラ様、エリック様から伝言だよ」

 必死でタップアウトしているというのに、ライムはのほほんと報告を上げてくる。揺れる視界の向こうに笑いをこらえたルカが見える。私の命を何より優先するんじゃなかったのかそこの側近!!

「ぶはぁ!」

 何とか掻き分けて顔だけを出すことに成功した私は思う存分新鮮な酸素を取り込んだ。

「どしたの?」
「身近な死はこんな間近にあるんだと思ってさぁぁ!! 苦しいわ!」

 右手で引きはがしたスライムをベチン!と、床にたたきつける。それを意に介した様子もなく、人型形態に戻ったライムは話を続けた。

「エリック様の伝言だけどね、九月最後の視察は月中に来るからまた連絡するって」
「はぁ、はぁ……え、そうなの?」

 そういえば勇者様とは昨日飛び出していったっきりだった。騒動になった後、私があんな状態になっちゃったからライムが案内を引き継いでくれたらしい。いつも通り街中を一回りして、城も変わりがないかどうかを確認して帰っていったとの事。帽子をぎゅっと被りなおしたメッセンジャーボーイはいい笑顔で彼の言葉を伝えた。

「『腕の怪我はお大事に、舞台楽しみにしてる』ってさ」

 きっと爽やかな笑顔で言ってくれたであろう台詞を直接聞けなかったことにがっくりする。なんだかいつも落ち着いて話せないなぁ。もっと個人的に遊びに来てくれたら良いのに。って言っても立場上簡単には来られないんだろう。部下のルシアン君はしょっちゅう遊びに来てるみたいだけど。

 魔王殿、実は――

 そういえば、あの時何を言いかけたんだろう? すごく思いつめた表情だったけど。普通に考えたら試験の審判について? でもあんな誰でも立ち聞きできるカフェテラスでそんな重大な事を打ち明けはしないだろうし、もっと個人的なことだろうか。例えば人間関係とか……

 はっ、まさか、お見合い話!? あり得る! だってエリック様いい年頃だしそろそろ身を固めろとか周囲から言われてるのかも。そんでもって周囲の大臣たちからウチの娘はどうか~とか迫られているんじゃ!? 悩んだ彼は密かに想いを寄せていた隣国の魔王(つまり私!)に、それとなくほのめかそうとしたのでは!!! はぁぁぁん、勇者様~~~!

「またアキラ様が百面相してるー」
「ロクでもない事を考えている時の顔ですよ、あれは」

 視界の端で呆れた顔をしているライムとルカが見えたけど、私はしばらくめくるめく妄想から抜け出すことができなかった。勇者と魔王の恋物語。超ドラマチック!

 って、何よあなたまでその視線は。いいでしょ、ちょっとぐらい夢見させてくれたってさぁ!


 ***


 整然と手入れをされた庭には色とりどりの花が咲き乱れ、名も知れぬ薬草たちがところ狭しとひしめき合っては輝く夏の風に揺れている。照り付ける太陽が強烈なコントラストを作りだす景色とは裏腹に、その部屋の中は色彩を失ったように薄暗かった。冷気魔導でも効いているのかひんやりとした空気がただよう中、サイード・フォルセ・メルスは薄い緑の双眸を細め、窓から庭園を見下ろす。

「思ったより、あの魔王がやるようだ。どこの馬の骨とも知れんただの小娘かと思っていたが……」

 椅子に腰かけた彼は、肘掛けに体重を預けながら新聞の切り抜きに視線を落とす。そこには血まみれになりながらも民衆に向かって啖呵を切る魔王の姿が映し出されていた。本文にも目を通したがこれを書いたライターはなかなか小賢しいようだ。波風を立てられないような書き方をしつつも、日刊メルスのことを痛烈に批判し、尚且つ魔族の間に広がっていた暗雲を一気に打ち晴らすほどの文才を披露している。これを読んだ群衆がどちら側に付くかは明白だろう。

(惜しい逸材を逃したものだ。十年前、【魔焦鏡】をこの新聞記者に嗅ぎ付かれた際、黙殺するのではなく抱き込むべきだったのに)

 当時、自分はまだ幼く政治に口出しできるほどの権力は無かった。だが聞けば聞くほど悪手だったと言わざるを得ない。すぐれた文才がどれだけ政治に影響を及ぼすのかを、老いぼれた王を始めとした元老院どもはまったく理解していないのだ。やはり自分が頂点に立たなければ。歯噛みをしたその時、部屋の暗がりから落ち着いた低い声がようやく反応を返してきた。

「自分もその場にいましたが、自ら身を切らせ一喝する姿は人の上に立つにふさわしい姿でした。あの魔王はそういった言葉選びやタイミング、空気を読む力に長けているのでしょう」
「王の器とやらか? フン、くだらない」

 くしゃりと手の中の魔王を握りつぶした青年卿は、再び窓の外に視線を移し知略を巡らせる。

「まぁいい、国内を混乱させ発展を遅らせる事には成功した。今回の件であの地を去った者も少なくないはずだ」

 それにこちらにはまだ残している『とっておき』がある。セニアスハーブは言わば目くらましだ。サイードは脇のテーブルから手のひらに包み込めるサイズのガラス瓶を手に取った。口を持って振ると、中に入っている透明な液体がとろりと濃い粘度を有していることが分かる。

「例の試作品だ、ここから煮詰めて濃度を高めていく。審判の日には間に合うだろう」
「ハーブの売買から足がつく可能性は?」

 冷静な問いかけを青年卿は鼻で笑い飛ばした。それこそ杞憂だ。

「無い。私がそんなヘマをするように見えるか? あの草の栽培は全て立ち入り禁止の私有地で行った。カモフラージュとして表向きに出荷している村も作らせているしな。それに万一たどり着けたところで――クク、まぁそれはいい」

 絶対の自信があるのか、小瓶をテーブルに戻したサイードは余裕の表情を浮かべ足を組んだ。組んだ両手を膝にかけ宙を見上げる。

「どの道、あのお粗末な国の詮索力では私までたどり着くことすらできないだろうよ」


 ***


「ところで主様、サイードを覚えていますか。サイード・フォルセ・メルス」

 ルカといっしょに執務室へと向かう途中、階段の先を歩いていた彼が振り向いて問いかけてくる。サイードって、あの?

「リヒター王の甥っ子の? 向こうの城でも一度会ったし、視察でも一度ついてきたわね。彼がどうしたの?」
「それがですね、十中八九、黒幕はあの男かと」

 確信を持った響きでルカは言い放った。唐突すぎるネタばらしに私は思わず階段を踏み外しそうになり慌てて手すりを掴む。

「えっ、なっ、それ大丈夫? もし間違いだったら名誉棄損どころの話じゃ済まないわよ?」

 ここは私たち幹部しか入れない三階以上だからいいけれど、誰かに聞かれていたら国交悪化どころの話じゃない。よりによって王族の方を疑うなんて。そんな意味も込めて尋ねると、聡明な吸血鬼は困ったように眉を寄せて話を続けた。

「私も何かの間違いであってくれればと思ったのですが、残念ながら調査をしていくうちにその線が浮上してしまいました」

 自分の会社を使って調査を続けていたルカは、行商人から商人、仲卸業者をたどっていく内にその事実に気が付いてしまった。

「表向きにハーブを栽培・出荷している村は判明したのですが、どう考えてもあの村だけでは我が国に行きわたるほどの生産量は見込めそうにありません。もっと大規模な農園でなければ到底無理でしょう。そこでドクターから聞いたセニアスハーブの生育に適した環境地域で、なおかつ立ち入り禁止のエリアで絞り込んだ結果が――」
「サイード様の領地だったってこと?」
「条件に見合うのはその地だけでしょうね」

 試しに目星をつけた地域にルカの偵察コウモリを放ったところ――ドンピシャ! 山間部に整然と広がるセニアスハーブ畑が広がっていたそうだ。

「じゃあそこから追及していけば!」
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