召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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168.白くやわらかい夢

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 なまじ多方面に知識と実力があるだけに、ルカの下準備は恐ろしいスピードで進行した。複製鏡ゼーレをどこからか入手し、受け皿となる魔導人形も用意完了。あとは魂を吹き込むだけとなった。

 ところが、そこで初めて計画に支障が発生した。すなわち、アキュイラのドッペルはどこの異世界のどこにいるのかと言うこと。どうすれば星の数ほどある世界からたった一つの魂を見つけ出せるというのか。

 だが、幸いにも彼の側には魂の形を見ることができる死神が居た。それに思い当ったルカは掴みかかる勢いで今すぐ教えろと迫ったらしい。

「狂っていくルカを見てられなくて、俺、適当な事言ってしまったんだ。出まかせの特徴を伝えれば、そのうち諦めるだろうって。名前はアキュイラをもじってあきら。黒髪黒目で身長は……体重は……誕生日と血液型は……」

 ところがグリの苦肉の作は裏目に出てしまうことになる。相当細かいところまで指定したその条件が、テラの日本に居た山野井あきらと奇跡的に合致してしまったのだ。幾億、幾千の世界の中で……それこそ広い砂漠の中から一粒の砂金を見つけるような困難を、ルカは執念で見つけ出すことに成功した。

『じゃあ、私がアキュイラ様の生まれ変わりっていうのも?』
「まったくの無関係。ルカもあきらの属性が判明した時点でそれには気づいていたんだと思う。でも、あそこまで事を進めてしまったから計画に支障はないと続行したみたいだけど」

 あぁ、だから属性判定の時にルカはあんな微妙な顔つきをしていたのか。でも一つだけふしぎなのは、どうしてルカは……。

 わずかな違和感に考え込んでいると、すっかり気落ちした様子のグリが俯きながら言った。

「ごめんね、あきら。あの時、面倒くさがらずに俺がちゃんとルカを説得するべきだったんだ、アキュイラは死んだんだって」

 私は廊下から見える空を見上げる。秋の高くなりはじめた空は澄んで青く、記憶にはあるのにこの目で見るのは初めてだなんて、おかしな話だなとぼんやり思った。

「俺が適当なことさえ言わなければ、あそこで恋人の横を歩いている子から君が分裂することも、こうして苦しむことも無かったのに」

 悔いるような声が届く。グリが頑なに私をこちらの世界に戻したがらなかった理由がようやく分かった。もちろん、自分の犯した過ちを知られたく無いっていうのもあったんだろうけど、この残酷な真実を知らずに済むようにと気をつかってくれていたんだ。アキュイラ様の「あなたは優しいから」と、言った記憶がよみがえる。本当に、その通りだったんだね……。

 すっくと立ちあがった私は、この光景を目に焼き付けながら静かに言った。

『もういいよ、帰ろう』

 ここに私の居場所はない。吹き抜ける秋風は、私の髪を揺らすことなく魂の中を通り過ぎていく。どうしようもなく泣きたくなることもなく、ただただ私の心はからっぽになっていた。

 ***

 再び戻ってきた死神界は、だいぶ時間が経っているはずなのに少しも変化していなかった。相変わらずのモノクロ世界、太陽もないはずなのにくっきりと影を落とす建物たち。誰もいないふしぎな町の中を二人で歩いていく。

 途中、噴水らしきオブジェの前で少し休むことになった。背もたれのついたベンチに腰掛けた私は、ふぅっと息をついた。グリがいつもののっそりとした動きで左に腰かける。音のない世界では衣擦れの音がやけに大きく感じた。

「実をいうとさ、ルカに伝えた魂の条件、あれ俺の理想を言っただけなんだ」

 さらっと言われてやや反応が遅れる。彼の方を見ると、少しも表情を変える事なく淡々とこう続けた。

「こんな子が居たらいいのにって、ずっと思い描いていたんだ。だから君と初めて会った時は本当に驚いた。こんなに俺の好みのど真ん中の子が実在するのかって」

 ベンチに置いた手に大きな手を重ねられてドキリとする。真剣な顔をしたグリは、覗き込むようにこちらをじっと見下ろした。銀灰色の美しい瞳の中に私が映りこんでいる。

「一目ぼれって、やつだったんだけど」

 どう返したらいいか分からなくて黙り込む。数時間前までの私ならその好意を驚きながらも喜んだかもしれない。だけど、真実を知ってしまった今となっては、どうしても頭の片隅から叫び続ける声があった。

 私の声をしたそいつはずっと言い続けるのだ。グリが好きだと言ってくれたのは、結局は『山野井あきらの要素』じゃないか、って。お前はコピー、バックアップ、控え、ニセモノ。そんな単語ばかりが頭の中に渦巻いてる。……最低だ、グリに失礼すぎる。だけど、素直に受け入れるには、まだ頭が混乱していて割り切る事ができなかった。うつむいて足元の影を見つめる。

 そんな複雑な胸中を察してくれたのか、グリは特に返答を求めることもせず一人語り続けた。

「一緒に過ごすうちに見た目だけじゃなく中身も好きになっていった。時おりさ、あきらの魂を刈り取ってこちらの世界に攫ってしまおうかと考えたこともあったんだ。独り占めできたらどんなに幸せかなって。だけどそれは俺一人のエゴでしかないから」

 そんなことを考えていたなんて、少しも気づかなかった。この人はいつも穏やかで、物事に対してあまり執着しないタイプだと思っていたから。

 重ねられた手をぎゅっと握られる。グリはどこまでも穏やかに問いかけてきた。

「あきら、本当につらいなら俺といっしょにここに残る?」

 思いがけない提案に目を見開く。もう一度そちらを見れば、死神様はゆるやかに微笑んでいた。

「もう君は十分すぎるほど頑張った。何の責任もないのにあそこまでやってさ。ここなら誰も来られない。ここでゆっくり休んで眠れば、苦しみも哀しみもいつか忘れられるよ」

 疲弊しきっていた私の耳に、その提案はどこまでも甘く優しかった。……そうだよね、私はもう頑張りすぎるほど頑張ったよね。

 このまま戻らなければ、私のぬけがらだけが城に残る。その死体を差し出せば、何とか許して貰えるかも。

 少しだけ、疲れちゃった。

 とろとろしたまどろみが、少しずつ寄り添ってくる。グリに頭を預けて目を閉じると、白くて柔らかいものにくるまれているような、そんな安心感に包まれた。お母さんのおなかの中にいた時みたい……。

「傷が癒えるまで、俺が傍に居てあげる」

 いいなぁ、それすごくいいなぁ。


 けど、
 だけどね、

 その優しさに身をゆだねてしまおうと思うほど、心の片隅にひっかかっているトゲがぐいぐいと現実に引き戻そうとするの。

 目を開けて歩き出すのはきっと辛くて苦しい。それでも、ここでグリに甘えてしまうのは、何かが違う気がした。

 やっとの思いで目を開けた私はその気持ちを何とか言葉にしようと口を開く。想いを息に乗せようとしたところで、大きな手で口をパッとふさがれてしまった。びっくりして視線を上げると少しだけ悲しそうな顔があった。

「いいよ、わかってる」

 額を寄せた死神様とコツンとおでこを突き合わせる。彼はいつかと同じように祈りを捧げるかのごとく目を閉じていた。

「一度ハーツイーズに戻ろう。でもね、そういう選択肢もあるってことだけ覚えておいて。それだけで少しはラクになれるでしょ?」

 ***

 どうも世界の狭間から抜け出す際、私は気を失ってしまうらしい。ふっと気づいた時、私がまっさきに感じたのは胸の上に圧し掛かるずっしりとした重さだった。次にひんやりとした冷気が伝わって来る。

『キュゥゥ』
「ステラ?」

 まだぼんやりする頭のまま、左手を上げていつのものように撫でてやる。魂が離れている間に夜が明けたのか、部屋の中がうっすらと見える。

(誰か居る?)
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