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新章 私は今、平民の筈でしたよね?~元悪役夫人、ミッションを言い渡される~
縮まる距離②
頬を撫でる手と、目の前に迫る整った顔は心から私を気遣う気持ちが見て取れた
けど……私はギリギリ平静を保つ中で、脳内は汗まみれだ。
―――ち、近い! 距離が近過ぎる!!
だってクリスティアって既婚者だけど、その実旦那とは何にもなかった。結婚前に出会った妹の事しかなかったのが今では分かる。
そして……前世、ポンコツ社会人であった私にも(出会いの場があるにはあったけど)、男性経験は皆無だった、最終学歴が男女共学の高校だったにも関わらず。
―――つまり、何が言いたいかと言うと……。
私もクリスティアも、ほぼ男性に対して免疫が……ない。
そんな私(+クリスティア)にとって、いきなり男性に触れられるのは勿論、ドアップで見つめられた経験は全く皆無! って事。
こ……これ、どう返せば良いの!?
って固まっていた私を助けるように
「すんませーん! ディーさん、お客様です!」
以前、ディーさんといた警備兵の片方の声がドアの向こうからした。
「な、何故あんたがここにいるんだ? ……叔父上」
「………え」
“叔父上”。そう呼ばれた目の前に人は、今の私にものすごく近い場所にいる人に……………………似ていた。
アパートの隣の住人。引っ越しの挨拶からずっと仲良くしてくれているおネエさん。
けど今の彼は、私が知らない憮然とした、上に立つ者の顔で目の前にいる。
両腕を組んで、ディーさんを真っ向から見据える様は―――私の知らない彼、だ。
――モーリさん。
でも今の彼は、私の知る彼じゃない。いつも優しい笑みを浮かべた体は男・でも心は女な人じゃない。
そこには全く知らない、けれど知っている――と思っていた――別人が、いた。
それは……誰かの上に立つ者、だ。
その事実に固まる私をよそに、彼は言う。
「それはこっちのセリフだ甥っ子。
ここ最近、ずっと彼女を何かと呼び出しているじゃないか。やっと平穏な日を手に入れたクリスを自己都合で利用するとは、未だ未熟だと示しているぞ」
「い、イヤ……俺はただ、こいつが前の旦那達の事を思い出して苦しむかと思ったから!!」
「え?」
イヤな事とは?
でも疑問を口にする前に、ディーさんの方が理由を言ってくれる。
「いやお前も、その子爵夫人と似てるとーー“信頼している夫と、夫が善意で引き取った子供に裏切られる”って状況に、その……」
きょとん、としているだろう私に、申し訳なさそうに目を逸らしつつ頭を掻くディーさん。
こうゆう困った顔をしている彼は、本当に年相応の少年だ。さっきまでの横柄な態度と一転した事で、妙な親近感が湧く。でも彼の言った事は完全に、今のクリスティアにとっては杞憂だ。
まぁ? 確かにクリスティアは長年婚約者だった夫と実妹に裏切られた。だから“気を許し、信頼している相手からの裏切り”という意味では共通するところがある。
でも前世の記憶を思い出した今、私はクリスティアではあるけど違う。それはあの日に、示せている。
あのノーム侯爵邸で、夫と妹に裏切りを告げられ、離婚を求められたクリスティア。本来なら彼女はそこで、ショック死していた。その呆気ない死により、ヒロインとヒーローのハッピーエンドは確定した。
けど――私はそれを、様々な人達の助けを借りて、別の形に変えた。
“夫と妹に裏切られる侯爵夫人”ではなく、
“裏切った夫と妹を捨てる侯爵夫人”になってやったのだ。
だから、この目の前にいる“普通”から外れた身の上の人が気遣う必要がない。もっと言えば気にする事もないのが普通だろう。だから目の前のディーさんの反応に、どう返せばいいかは分からない。
でも……分からないなりに何かは返さなくちゃいけない。と、
「全てをディーさんに話す事は出来ませんが、これだけは確かです。
今わたくしは、この状況に大変満足しています。
確かに色々はありましたが、やっと息が出来る場所に落ちつけた事、そしてそれを自ら成しえた事を心から喜んでいます」
「そ、そうなのか………?」
「はい」
戸惑っているディーさんに私は強く頷く。
「――と言うか、私の尋ねたい事は別の事です。
……モーリさん、貴方とディートリヒ殿下のご関係についてです。
モーリさんは、貴方様……第3王子殿下にとって、どのようなお方なのですか」
けど……私はギリギリ平静を保つ中で、脳内は汗まみれだ。
―――ち、近い! 距離が近過ぎる!!
だってクリスティアって既婚者だけど、その実旦那とは何にもなかった。結婚前に出会った妹の事しかなかったのが今では分かる。
そして……前世、ポンコツ社会人であった私にも(出会いの場があるにはあったけど)、男性経験は皆無だった、最終学歴が男女共学の高校だったにも関わらず。
―――つまり、何が言いたいかと言うと……。
私もクリスティアも、ほぼ男性に対して免疫が……ない。
そんな私(+クリスティア)にとって、いきなり男性に触れられるのは勿論、ドアップで見つめられた経験は全く皆無! って事。
こ……これ、どう返せば良いの!?
って固まっていた私を助けるように
「すんませーん! ディーさん、お客様です!」
以前、ディーさんといた警備兵の片方の声がドアの向こうからした。
「な、何故あんたがここにいるんだ? ……叔父上」
「………え」
“叔父上”。そう呼ばれた目の前に人は、今の私にものすごく近い場所にいる人に……………………似ていた。
アパートの隣の住人。引っ越しの挨拶からずっと仲良くしてくれているおネエさん。
けど今の彼は、私が知らない憮然とした、上に立つ者の顔で目の前にいる。
両腕を組んで、ディーさんを真っ向から見据える様は―――私の知らない彼、だ。
――モーリさん。
でも今の彼は、私の知る彼じゃない。いつも優しい笑みを浮かべた体は男・でも心は女な人じゃない。
そこには全く知らない、けれど知っている――と思っていた――別人が、いた。
それは……誰かの上に立つ者、だ。
その事実に固まる私をよそに、彼は言う。
「それはこっちのセリフだ甥っ子。
ここ最近、ずっと彼女を何かと呼び出しているじゃないか。やっと平穏な日を手に入れたクリスを自己都合で利用するとは、未だ未熟だと示しているぞ」
「い、イヤ……俺はただ、こいつが前の旦那達の事を思い出して苦しむかと思ったから!!」
「え?」
イヤな事とは?
でも疑問を口にする前に、ディーさんの方が理由を言ってくれる。
「いやお前も、その子爵夫人と似てるとーー“信頼している夫と、夫が善意で引き取った子供に裏切られる”って状況に、その……」
きょとん、としているだろう私に、申し訳なさそうに目を逸らしつつ頭を掻くディーさん。
こうゆう困った顔をしている彼は、本当に年相応の少年だ。さっきまでの横柄な態度と一転した事で、妙な親近感が湧く。でも彼の言った事は完全に、今のクリスティアにとっては杞憂だ。
まぁ? 確かにクリスティアは長年婚約者だった夫と実妹に裏切られた。だから“気を許し、信頼している相手からの裏切り”という意味では共通するところがある。
でも前世の記憶を思い出した今、私はクリスティアではあるけど違う。それはあの日に、示せている。
あのノーム侯爵邸で、夫と妹に裏切りを告げられ、離婚を求められたクリスティア。本来なら彼女はそこで、ショック死していた。その呆気ない死により、ヒロインとヒーローのハッピーエンドは確定した。
けど――私はそれを、様々な人達の助けを借りて、別の形に変えた。
“夫と妹に裏切られる侯爵夫人”ではなく、
“裏切った夫と妹を捨てる侯爵夫人”になってやったのだ。
だから、この目の前にいる“普通”から外れた身の上の人が気遣う必要がない。もっと言えば気にする事もないのが普通だろう。だから目の前のディーさんの反応に、どう返せばいいかは分からない。
でも……分からないなりに何かは返さなくちゃいけない。と、
「全てをディーさんに話す事は出来ませんが、これだけは確かです。
今わたくしは、この状況に大変満足しています。
確かに色々はありましたが、やっと息が出来る場所に落ちつけた事、そしてそれを自ら成しえた事を心から喜んでいます」
「そ、そうなのか………?」
「はい」
戸惑っているディーさんに私は強く頷く。
「――と言うか、私の尋ねたい事は別の事です。
……モーリさん、貴方とディートリヒ殿下のご関係についてです。
モーリさんは、貴方様……第3王子殿下にとって、どのようなお方なのですか」
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