裏切られた侯爵夫人なんてお断り~離婚を求められた悪役夫人は踊りだす~

みけの

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賊の証言とフデキオへの処遇、ついでにくうちゃん

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 「さてと。では昨日襲撃してきた賊についてだが」

 サーベント公爵が話を切り出す。
 彼らが今いるのは食堂だが、今は報告の場だ。主席にいるのはサーベント公爵。その近くに夫人、フデキオ、エイミーの順だ。

 そして彼らと離れた場所にフォーレンとクロエ、そして騎士達が控えている。

「まずは騎士達、昨日はおかげで屋敷に被害がなく済んだ事を感謝する」

と、まず騎士達を労わる。そして本題に入った。

「賊の事だが、フデキオを人質に取った女が主犯だった。彼女はフデキオがよく使う宝石店の警備兵で、やって来ては散財するのを見て犯行に及んだ。屋敷の見取り図まで持っていたよ。

 しかし他の奴らと違い、彼女の狙いは宝物や金庫ではなく、エイミーさんの所持品だった」

「ええっ!?」

エイミーが真っ青になって口元を押さえる。ザワ、と空気が揺れた。夫人が夫に問う。

「では他の賊達は?」

「陽動だ。騎士達の注意をそちらに向けて、自分はエイミーさんの部屋に向かうつもりだったそうだ。奴らが成功すれば良し、捕まっても自分だけ逃げる気でいたらしい」

「じゃ、じゃあ……私の宝石やドレスが目当てで?」

 エイミーが小刻みに震える。

「それに関してはこれから、彼に説明してもらう。…君、聞いたまま話すように」
「はっ! ん、んっ」

君、と言われた騎士は敬礼し喉を整えると……。

 全く違う高めの女声で、次のように語った。

「『だっていつも男にねだっちゃあ、高―いイヤリングやネックレス買いまくっていたからさ。で、後付けて見たらいいお屋敷に入ってったじゃん。

 てっきり太客と娼婦だと思ってたら囲われ者なんて、うまくやってんなー、おこぼれ位欲しいなーって思ったんだよ。

 え、貴族のお嬢様? うっそでしょー? どう見たってスケベ野郎と愛人じゃん』」

「あ、愛人―――!?」
「ス、スケベ野郎 だとぅ!?」

 ガタッと音を立て、フデキオとエイミーが立ち上がった。それを無視して公爵は先を促す。

 「続けなさい」

「はっ、……『で、この屋敷で前に働いてた奴に金握らせて、詳しい情報をもらったってわけ。もおペラペラ話してくれたよ? 本妻はあの娘の姉で、なのにそっちのけで妹ばかり構いまくってるとか、姉に仕事押し付けて自分は遊び回っているとか。

 で、そいつも特に悪意もなく『ご両親にご連絡された方が良いのでは?』って聞いただけで首切られたんだと!

 最近のお貴族様ってどんだけ頭湧いてんの? って呆れたねぇ? でもまあ? あんだけ散財させてくれんなら、多少のスケベは良し! ってなるのかなぁ? つまりどっちもどっち』……」

「だだ、黙れっ!!」

 フデキオがバン! と机に拳をぶつけた。
エイミーもまた、肩を怒らせ真っ赤な顔でフーフーと鼻息が荒い。

 頭に血が上っている2人を前に、説明中だがどうしたら? と騎士が思っていると公爵が手を上げた。

「もうその辺で結構。直接原因ではないが、2人の素行により情報が漏れたともいえる。……しかも昨日の為体……

とてもじゃないが、今のお前に侯爵家を守れるとは思えん。

フデキオ、お前はしばらく執務はしなくて良い。その代わり騎士達に混ざり、明日からの強化訓練に参加する事を命じる」

「き、強化合宿!?」

 おののくフデキオの脳裏に、記憶にあるそれの情報がフラッシュバックする。ーーー曰く、

 ある屈強な男が、合宿を受けた後骨と皮だけになり帰ってきた。

 真冬には滝行が、真夏には炎の道を裸足で走らされる。

 魔獣と素手で対決させられるのが最後の試練

 夜中トイレに行くと天井に幽霊が貼りついていて、見た者は何日以内に死ぬ

 最後だけ嘘くさいが。

「お、叔父上お考え直しを、叔父上―っ!!」

どうやらフデキオの中では事実のようで、縋り付こうとする彼を無視し、

「そういう事なので、騎士達はこれからなお一層の警備の強化を心に留め置いて欲しい。報告は以上だ、では解散」

 公爵の解散宣言で、全ての使用人と騎士達がばらばらと持ち場に戻っていく中

「時にエイミーさん」

公爵がエイミーに声をかけた。

「? 何でしょうか」
「昨日は騒動で言い損ねたが、本日の午後に君のご両親がこちらに来られる」
「え?」

 途端にエイミーの顔色が変わった。

 妊娠した事を、ずっと両親に言えていない。どころか再三『戻って来なさい』と通信が来たのに『お姉様がお体を壊されて、お世話しなきゃいけない』『お姉様が私以外に世話して欲しくないと言ってるから帰れないのごめんね』と返事をし続けていた。

 父親は長年、教育に関わって来た事で信用を得た人物だ。一時は王家のお子様が生徒だった事もあるほどの。母もそう、そんな父を支える事で周りに一目置かれていた。幼い頃からエイミーも、その恩恵を受けてきた。

『エイミーちゃんのお父さんすごいねー。あんな偉い人達が頭をさげるんだもん』
『エイミーちゃんのお母さん、すごく頭が良いってお母さん言ってたよ? あんなお母さんがいるの良いなぁ』

 同年代の子供に言われるたびに、優越感に浸れた。
そんな彼らが……今のエイミーを見たらどう思う?
 姉の夫と(最初は力づくという形で)関係を続け、妊娠した自分を?
侯爵夫人ならこの位はと言われる教育の全てが、そのレベルに至らないという事実を


―――いいえ! フデキオの愛を得た事をきっと、喜んでくれるわ!

 エイミーの中では両親は絶対的自分の味方。これまでそうだったしこれからもそうだ。
結婚前に男性とそういう事をしたのはいけないが、結果として侯爵の妻が姉ではなく妹に替わるだけだ。

 そう、それだけ、心配する必要はない……。そう思っているエイミーに公爵はついでのようにその事を伝えた。

「そうそう、くうちゃ、いやクリスティアさんの事だが……」

「お姉様の事ですか?」

嫌でもあの日の事を思い出してしまう。

 フデキオに離婚された時、お姉様は全くの別人のようだった。
すっごくショックを受けて、ヒステリーを起こすか泣き喚くかと思っていたのに、実際には今まで見た事もないポーズで、変な事を言ってとっても楽しそうだった。

 なのに……そんな異常な状態のお姉様を、この家の使用人達は大喜びで取り囲んでいた。

 そんな彼らの輪の中心で、笑顔でいるお姉様はとても輝いていた。

―――でもそんなのは、ただの強がりよ?

 本心では私にフデキオ様を奪われた事に、ズタズタに傷ついている筈。今だって惨めな気持ちで、知らないどこかで俯いているのよ。
 そう決めつけていたエイミーに、返って来た答えは、予想から大幅に外れていた。

「ご実家から籍を抜いたそうだ。つまり彼女は伯爵令嬢ではなくただの平民になる事を選んだ。

この国では貴族と平民は婚姻できない。そして貴族から平民を守る法として“平民は貴族家の事情に助力を求められても一切干渉してはいけない”とされている。

 ……まあ当然だ。学もなく力もない者が無暗に貴族の事情に口を挟んでも、悪い結果しか見えないからな。
まあつまり……くうちゃ、いや君の姉君は今後一切、このノーム家だけでなくご実家のモーハン家とも関係がなくなった」
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