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沈む気持に癒しを。――オリガミ、発動!
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ケイト・ラッセン嬢。
この王立学園で、数少ない特待生の1人。特待生とは、極めて優秀な成績を修めた者や、その能力で功績をあげた者に与えられる称号だ。勿論身分は関係がない。
そして特待生には、褒賞として一つ特権が与えられる。図書室の本を禁書を含めて自由に閲覧、貸し出しが出来るとか、食堂の日当たりの良い席を常に使えるとか様々だ。
ラッセン嬢が選んだのは……。
「先生、いつもわたくしのファッションにめざとくお気づき頂けるのね、嬉しいですわ」
そう言って笑う彼女の装いは、僕らと同じ学園の制服だ。――いや、正確には同じじゃない。
黒レースの手袋にロングブーツ。
幅広のリボンを付ける筈の場所には、大量のフリルがあしらわれている。焦げ茶色のスカートは左から右に斜めに切られていて、膝から少し上がチラ見出来る。ボリュームがあるように見えるのは下に付けているペチコートのせいか。
「今回もはっちゃけてるなぁ」
「馬車通学だから、外では分からないけどね」
町中を歩いたら、さぞかし注目を浴びるだろう。でも彼女なら変質者扱いされても動じず、逆に面白がりそうだ。でも風紀の先生にとっては違う。
「はしたない!!」
「この程度、体操着なら見える位置じゃないですか。」
つばが飛びそうな勢いで怒鳴る先生に、キャラキャラと楽しそうに応じるラッセン嬢。学園公認だから強気だ。
そう、彼女の特権は『制服改造』。
皆と同じ格好はイヤだと声高に主張し、この権利を学園公認で得た。ただし『素地として絶対に制服は着るように。露出はなるべく押さえる事』って条件付きだそう。
でも、そんな事は効果なしだったようだ。
「相も変わらず豪傑だねぇ……特待生様は」
エドも面白そうにやり取りを見ている。実のところ生徒の中には、彼女の改造を案外楽しみにしている人が多い。……実は僕も、その内の1人だったりして。
そこで休み終了10分前のベルが鳴った。先生も忙しいのか、『とにかく、あまりふざけないように』と一言言って去って行った。
「……で、さっきの話なんだけどよ」
僕と教室に向かいながら、再度エドが切り出す。
「お前がそれで良いなら仕方ねぇけど、怒る時はキッチリと怒れよ? お前の為だけじゃない、お前の家族の為にもな」
「…………うん」
エドに頷く。でも正直に言えば、出来るとは思えない。
“僕らの為に頑張ってる”とマリアは言ってくれていた。そこに嘘はないと思う。
あの時『卑下しないで!』と言ってくれたんだから。
『……あの子、今日は宰相様のご子息とお会いするんだ、って出て行ったのよ』
すっかり日が暮れ、僕はカフェの人に頼んで通信用の魔道具を借りてナルシト家に連絡した。
こんな時、前世みたいにスマホやケータイがないのは不便だ。似たようなものはあるけど、あまり普及していない。
でも……出たのはマリアではなく、お母さんのナルシト夫人だった。夫人は、僕がマリアをずっと待っていたことも、どれ程時間が経っているのかも気にしないように嬉しそうに言う。
『ふふ……あの子、私に似たのかしら? 身分が上の方々と仲良くなるなんて……。カヤラ君はいつも優しくて良い子だから、何も言わないでくれるわよね?』
「…………」
『じゃあこれからも、あの子の事、よろしくね~』
正直言うと、僕はこのおばさんが苦手だ、何となく。
だからか、通信が切れた後、ポツ、と呟いてしまった。
「――謝罪するものじゃないか?」
身内が他人に迷惑をかけたなら、僕の母さんならそうするのに。
でも、そんな僕自身の思いは懸命にもみ消した。
――こんな人も、世の中にはいるんだ。でも否定もされないで生きているんだからそれも……“普通”なんだろう。なら、受け容れないといけない。
暗くなった道を、トボトボと馬車乗り場に向かう。
出かける前は浮かれていた気持も、すっかり萎んでしまった。何だか家までの道が遠く感じる。そんな惨めな気持で歩くのは少し辛い。
「……楽して帰ろう」
キョロキョロと辺りをうかがい、僕が来たのは河原だ。そのまま人目のない橋の下に行く。
道を使って帰るには、家だと馬車で1時間。
でもそれは、うまく馬車に乗れたらの話で。家の前まで行く馬車を待ってたらもっとかかる。
僕は内ポケットから小さく折りたたまれた“それ”を取り出し、少しだけ魔力を注入して川面に放った。
「――“拡大”」
それが宙でパカパカッと動き、折り目が開いていく。本来の形に戻るように。
――みるみる間に大きくなって楕円形、もしくは鋭利な角のある、タライより少し大きい位の器状に変って川面に浮かんだ。ザバン! と川面が波立ち、飛沫が上がる。
僕が乗り込んだタイミングで、頭の中に声が響いた。
“所有者の手により、オリガミ“船”が具現しました。目的地と速度を設定してください”
「目的地はここから13キロ。速度は――」
僕の指示が終わると、待っていたように“船”がゆらり、と動いて……。
シャー!! って、水面を切り裂くように走り出した。
この王立学園で、数少ない特待生の1人。特待生とは、極めて優秀な成績を修めた者や、その能力で功績をあげた者に与えられる称号だ。勿論身分は関係がない。
そして特待生には、褒賞として一つ特権が与えられる。図書室の本を禁書を含めて自由に閲覧、貸し出しが出来るとか、食堂の日当たりの良い席を常に使えるとか様々だ。
ラッセン嬢が選んだのは……。
「先生、いつもわたくしのファッションにめざとくお気づき頂けるのね、嬉しいですわ」
そう言って笑う彼女の装いは、僕らと同じ学園の制服だ。――いや、正確には同じじゃない。
黒レースの手袋にロングブーツ。
幅広のリボンを付ける筈の場所には、大量のフリルがあしらわれている。焦げ茶色のスカートは左から右に斜めに切られていて、膝から少し上がチラ見出来る。ボリュームがあるように見えるのは下に付けているペチコートのせいか。
「今回もはっちゃけてるなぁ」
「馬車通学だから、外では分からないけどね」
町中を歩いたら、さぞかし注目を浴びるだろう。でも彼女なら変質者扱いされても動じず、逆に面白がりそうだ。でも風紀の先生にとっては違う。
「はしたない!!」
「この程度、体操着なら見える位置じゃないですか。」
つばが飛びそうな勢いで怒鳴る先生に、キャラキャラと楽しそうに応じるラッセン嬢。学園公認だから強気だ。
そう、彼女の特権は『制服改造』。
皆と同じ格好はイヤだと声高に主張し、この権利を学園公認で得た。ただし『素地として絶対に制服は着るように。露出はなるべく押さえる事』って条件付きだそう。
でも、そんな事は効果なしだったようだ。
「相も変わらず豪傑だねぇ……特待生様は」
エドも面白そうにやり取りを見ている。実のところ生徒の中には、彼女の改造を案外楽しみにしている人が多い。……実は僕も、その内の1人だったりして。
そこで休み終了10分前のベルが鳴った。先生も忙しいのか、『とにかく、あまりふざけないように』と一言言って去って行った。
「……で、さっきの話なんだけどよ」
僕と教室に向かいながら、再度エドが切り出す。
「お前がそれで良いなら仕方ねぇけど、怒る時はキッチリと怒れよ? お前の為だけじゃない、お前の家族の為にもな」
「…………うん」
エドに頷く。でも正直に言えば、出来るとは思えない。
“僕らの為に頑張ってる”とマリアは言ってくれていた。そこに嘘はないと思う。
あの時『卑下しないで!』と言ってくれたんだから。
『……あの子、今日は宰相様のご子息とお会いするんだ、って出て行ったのよ』
すっかり日が暮れ、僕はカフェの人に頼んで通信用の魔道具を借りてナルシト家に連絡した。
こんな時、前世みたいにスマホやケータイがないのは不便だ。似たようなものはあるけど、あまり普及していない。
でも……出たのはマリアではなく、お母さんのナルシト夫人だった。夫人は、僕がマリアをずっと待っていたことも、どれ程時間が経っているのかも気にしないように嬉しそうに言う。
『ふふ……あの子、私に似たのかしら? 身分が上の方々と仲良くなるなんて……。カヤラ君はいつも優しくて良い子だから、何も言わないでくれるわよね?』
「…………」
『じゃあこれからも、あの子の事、よろしくね~』
正直言うと、僕はこのおばさんが苦手だ、何となく。
だからか、通信が切れた後、ポツ、と呟いてしまった。
「――謝罪するものじゃないか?」
身内が他人に迷惑をかけたなら、僕の母さんならそうするのに。
でも、そんな僕自身の思いは懸命にもみ消した。
――こんな人も、世の中にはいるんだ。でも否定もされないで生きているんだからそれも……“普通”なんだろう。なら、受け容れないといけない。
暗くなった道を、トボトボと馬車乗り場に向かう。
出かける前は浮かれていた気持も、すっかり萎んでしまった。何だか家までの道が遠く感じる。そんな惨めな気持で歩くのは少し辛い。
「……楽して帰ろう」
キョロキョロと辺りをうかがい、僕が来たのは河原だ。そのまま人目のない橋の下に行く。
道を使って帰るには、家だと馬車で1時間。
でもそれは、うまく馬車に乗れたらの話で。家の前まで行く馬車を待ってたらもっとかかる。
僕は内ポケットから小さく折りたたまれた“それ”を取り出し、少しだけ魔力を注入して川面に放った。
「――“拡大”」
それが宙でパカパカッと動き、折り目が開いていく。本来の形に戻るように。
――みるみる間に大きくなって楕円形、もしくは鋭利な角のある、タライより少し大きい位の器状に変って川面に浮かんだ。ザバン! と川面が波立ち、飛沫が上がる。
僕が乗り込んだタイミングで、頭の中に声が響いた。
“所有者の手により、オリガミ“船”が具現しました。目的地と速度を設定してください”
「目的地はここから13キロ。速度は――」
僕の指示が終わると、待っていたように“船”がゆらり、と動いて……。
シャー!! って、水面を切り裂くように走り出した。
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