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《閑話》ある公爵令息の話
しおりを挟む……誰もいないな。
キョロキョロと辺りを見回し、よしチャンスだ! と僕はそぉ~っと、誰もいないお部屋に侵入する。
お姉様のお部屋は多分、他のうちの子とはちょっと違う。調度品や家具はお父様達が選んでいるからまともだけど、まともなのはそこだけ。棚には目がチカチカしてきそうな変な柄の布生地や獣の皮がギッシリと、でもどれがどこにあるのか分かるように入れられていて、それは床にも及んでいる。今も何か作ろうとしているかのような布が、型紙と一緒に置いてある。掃除の邪魔だってよくばあやに怒られているのに、全く懲りていない。
なぁんて考えながら、僕は目的のものに目をやった。書棚に大切に置かれている、お姉様の宝物に。
「今日こそ秘密を暴くぞ!!」
前に触ろうとしたからか、今は僕の手が届かない高い場所にあった。でも、そんな事でくじけない。
「ちゃーんと踏み台だって用意したもんね!!」
と、持ってきた踏み台を置いてその上に上がると、目的のものが目の前にあった。
紙で作られた、奇妙な物体。
ある日、お姉様が誰かにもらったと嬉しそうに持っていたって訊いた。まだ僕がお母様のお腹にいた時の話だ。ぱっと見、特別なもので作られてはいない。どころか捨てられた紙切れか何かで作られたようにしか見えない。
でも僕はそれがずっとずっとずーーっと! 気になっているんだ!
あんな紙切れがどうやったら鳥の形になるのか、どんな事をしたらあれが出来るのか! 今日こそ秘密を暴いてやる!
ドキドキしながら手を伸ばして――。
「坊ちゃま! 何をしてますか!!」
「うひゃあ!」
いきなりの怒鳴り声に、心臓が喉から飛び出た。
後ろを振り向くと、ばあやが恐い顔をして睨んでいる。――誰もいないと、思ってたのに。
「お嬢様の……姉上様の宝物に触れてはいけませんと、あれほど申し上げたでしょう!」
「ぶぅ……。いいじゃんかちょっとぐらい。ばあやだって、知りたくない?」
「知る必要はありません! お嬢様が大切に思われているのなら、守るだけです。坊ちゃまも前に触ろうとして怒られたではありませんか!」
うん覚えている。あの時のお姉様、僕が何をしてもあまり気にしないのに、アレに触ろうとした途端に、すごく怒ったんだ。ビックリするくらいに。
「……あんなんだから、マイト様にコンヤクハキされちゃうんだ……」
「坊ちゃま!」
「……ごめんなさい……」
ボソッと言ったらまた怒鳴られた。
……僕もちょっと、今のは悪かったです。
マイト様――マイト・ファンタ・シャーマティ様は、この国で王様の次位に偉い人である宰相様の子供だ。お姉様とは真逆で物静かで賢そうな人、だった。
僕たち貴族が結婚するのは、僕らが住む場所を守る為。だからお姉様とマイト様が婚約したのもおんなじだって、ばあやに教えてもらった。セイリャクケッコン、って言うんだって。
だから貴族の婚姻に好き嫌いはいらない、望んでも良いけど、期待はしない方がお互いの為。それが貴族のジョウシキ、だって言われていた。マイト様もそうだったと思う。でもお姉様とお茶会をしている時や、お誕生日会にプレゼントをする時にはポツポツでもお話はしていた。仲良しじゃないけど悪くもなかった、と思う。
でも、そんなマイト様は、ガクエンのオヒルヤスミにお姉様に言ったんだって。
『私は“真実の愛”を見つけてしまった。私はもう、彼女しか見る事は無い。だからケイト・ラッセン公爵令嬢! 君との婚約を破棄する!』
僕が知っている大人しいマイト様とは思えない。
“シンジツノアイ”って人を変えるみたいだね。
でも姉様だって負けてはいない。
『あなたのような色ぼけのボンクラ、こっちこそ願い下げですわ!』
とやり返してやった、って言うのはお姉様が言っていた。
だってあの、お姉様だもんなあ。……マイト様、よくそんな事言えたよ。
お父様達は、そんなお姉様にすっごく呆れつつも、
「マイト殿がああなってしまっては、ある意味良かったかもな」
と納得していた。そして、
「まぁあの子はたくましいから、どうとでも出来るだろう」
ってため息交じりに言っていた。
――まぁお姉様だからね。
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