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第13章 南のラードルフ国

第180話 いいえ、魔女です!

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 エリザちゃんとメイドのアーネさんを連れて、マンフレートにやってきている。
 魔物の襲撃を受け傷ついた人々を、エリザちゃんが回復魔法で治した。

「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」
 「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」
  「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」
  「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」
 「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」
「「「 聖女様!! 」」」「「「 聖女様!! 」」」

 人々は両手を胸の前で組み、口々にそう叫んでいる!!

「そ、そんな~、困ります。いくら私が若く見えるからと言って。こう見えても30代半ばですし、子供も産んだ経験がありまして…」
 はい、ノエルさんのことではありませんから!!

「みなさん、静まってください!!私は聖女ではありません!!」
 エリザちゃんが集まった人達に声を掛ける。
「しかし…」
「あんな凄い魔法は見たことが無い…」

 普通、教会で回復魔法で治してもらうことはとても高額だった。
 わずかな怪我でも支払う事も出来ないような、金額を要求される場合もある。
 それだけ回復魔法が使えることは貴重なことだ。
 まして複数人、同時に回復させるなどあり得ない。
 町の人々にしてみれば回復魔法自体、見るのは初めてのことだろう。

「わ、私は…」
 エリザちゃんが困った顔をしている。
 俺が話に割って入ろうとすると、エリザちゃんが意を決した顔で言う。
「わ、私は聖女ではありません。魔女、そう私は魔女です!!」

 魔女か?!
 そう言えばここに来る途中、暇なので『ふかし話』をエリザちゃん達に話したな。
 
 例えばだ。
 魔法はイメージが大切だということ。
 発動させる時、もっともそうな呪文を唱えると効果が高くなる。(かも?)
 俺が以前、居たところでは魔法を使う女性を魔女と言ったこと。(空想の中では)
 魔女は黒いローブと頭頂部がとがった、黒いとんがり帽子をかぶっている。
 力のある魔女は右手に暗黒の意思を封印し、左目は邪気眼じゃきがんと言う選ばれし者が持つという第三の眼を持っている。
 その封印を解くことにより、特殊能力が呼び起されることを話して聞かせた。

 まあ以前、住んでいた世界なら『右手がうずく』のは、「マウス操作と軽作業からくる腱鞘炎けんしょうえん」だし。
 『左目がうずく』のは、「近視や遠視からくる眼精疲労」だけど!!


 魔女、初めて聞くその名前に人々は、戸惑ったがそれも一瞬のことだった。

「あの~、魔女様のお名前は…」
「私の名はエリザです」

 ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
  魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、
  ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
 魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、魔女エリザ様、

 人々の心の中には、魔女エリザの名が刻み込まれた。



 買い物に来たが、これでは今日は無理だろう。
「俺達はまた日を改めてきます」
 門番さんにまた来ることを伝える。

「えっ?またですか」
「これでは買い付けどころではないでしょうから」
「わかりました、お待ちしております」

 門番さんは頭を下げ、俺達は出直すことにした。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 2週間が経ち、俺達はマンフレートの町へやってきた。
 あれからエリザちゃんは右手首に布を巻き左目に黒い眼帯をして、とんがり帽子と黒い服を着たいと言っていたが皆に反対され町人の姿のままだった。

 門のところに来るといつもの門番さんが居た。

「や、やあ、いらっしゃい」
「こんにちは!」
 俺達は挨拶をして市場まで歩く。
 朝、早い時間なのにたくさん人が居る。

 市場に並んでいる魚を見て、エリザちゃんが驚いている。
「まあ、凄い!!」
「お、おや?魔女様ではないですか?!先日はありがとうね」
 市場のおばちゃんが気さくに声を掛けてくる。

「ここにある物、全部買います!!」
 ストレージに入れておけば、駄目にならないからね。
 そう言って俺はお金を渡す。
「ジリヤ国硬貨なんだね。両替が本当は必要になるけど、魔女様御一行なら、私が後で換金しておくから。それに助けてくれた上に、そんなに買ってくれるのかい?!」
 そう言って喜んでくれた。
 やはり国によって貨幣は違うんだね。
 ストレージに驚いていた、店のおばちゃんが嬉しそうな顔をする。
 そして俺達は干物や生の魚をあるだけ買い付けた。


「エリアス様、これはなんですか?」
 生の海老を見て、エリザちゃんが不思議そうな顔をしている。
 交通手段が確立していないから、生ものは離れた場所では手に入らないから見たことが無いのも分かる。
「これは海老と言うんものだよ」
「海老ですか?」
「醤油をかけて食べると、美味しいんだよ」
「おじさん、海老を買うからここで食べて行っていいかな?」
「あぁ、いいよ。ここでないと生では食べれないからね」
 そう言われ俺はストレージから皿を出した。
 殻をむき皿に醬油をたらし海老に付けて口に入れる。
「う~ん、美味しい!!」
「ほんと、美味しいです」
「美味しいですわ」
 エリザちゃんとメイドのアーネさんも絶賛している。

「それはなんだい?」
 店のおじさんが聞いてくる。

「これは醤油と言う調味料です」
「醤油?」
「えぇ、生ものや焼き魚に合う調味料で刺身にも合います」
「俺も付けて食べても良いかな?」
「どうぞ、どうぞ」
 おじさんも興味があるのか、海老を1匹むき醬油に付けて口に入れる。
「美味い!!なんという、美味しさだ」
「醬油はジリヤ国の商業ギルド経由で買えますよ」
「ほう、そうなのか?」

 すると周りの商人やお客さんが集まってくる。
「俺にもくれ!」
「俺にも!」
「私にもおくれ!!」

 みんな手に手に海老をむき始める。
「旨い!!」
「美味しい!!」
「ほんと。美味いよ」
「醤油がこんなに合うとは知らなかった」

 みんな喜んでいる。
 これでワサビがあれば…。

 しかし、この海老の代金は誰が払うんだ?
 俺じゃないよね?
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