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第14章 マジスカ領
第189話 リップと蜜蝋家具
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高価なのか?
それなら駄目だ。
意味がない。
なぜなら庶民相手の商品だからだ。
そんなにするのか?
そう言えば以前にも蜂蜜は高価だと聞いていたが。
巣だから違うと思っていた。
今回、作ったハンドクリームの材料の内訳だ。
まず蜜蝋だ。
動物性の蝋燭は臭い匂いがある。
そのため今回使用したのは、蜂が巣を作るときに分泌するろうの成分だ。
人の皮脂にも含まれ肌馴染みもよく、保湿作用に優れている。
そして蜂の巣から採れる蜜蝋は高価だった。
だが蜜を手に入れるためには、キラービーの大群を相手にしなければならない。
そして油だ。
植物油、動物油、魚油とあるが植物油は他に比べると高価だ。
油はランプの灯りに使われ皿の上に灯心(綿布でできた細い糸)を載せ火を灯す。
魚油、動物油は、燃焼すると臭い匂いがする。
植物油は上質なものとして、喜ばれこれも高価だそうだ。
【スキル】現代知識で事前に調べ匂いが無いの揃えた材料だった。
だが値段まではわからなかった。
失敗だ。
「デリクさん、店で売るとしたら幾らくらいの値段になりますか?」
「そうですね、エリアス様。キラービーの蜜蠟は貴重なものです。それだけでも高額となり、この少ない量でも1カップ5,000円くらいの売値になるでしょう」
「それではメイドや労働者相手の品物としては高価ですね」
「その通りです。富裕層の主人がメイド達のために、保湿クリームを購入するとも思えませんし」
「せっかく良い思い付きだと思ったのですが、商品としては売れませんね」
重たい空気が流れる。
「エリアス様、これは手に付けるだけですか?唇には付けれないのでしょうか?」
見るとエリザちゃんの唇が、カサカサになっている。
この世界は蝋燭、ランプ、囲炉裏、暖炉に火を灯して明かりを得ている。
だから冬場は空気が乾燥し唇が荒れる。
「エリザちゃん、匂いが無いので付けれますよ」
「それは良いですね。試しにつけてみます、どれどれ…」
そういうとエリザちゃんは、側にあった鏡を見ながらハンドクリームを唇に塗る。
「良いです、これは。痛かった唇が痛くなくなったもの。それに唇に艶が出ました」
「そうだ、デリクさん。これを唇用のクリーム、唇に塗る化粧品リップクリームという名で売り出しませんか?」
「リップクリームですか!それはいいかもしれん。冬場は唇が割れる。唇用なら量もそれほど必要が無い。小さい貝殻を入物にして富裕層に販売しよう」
「量がすくなくなれば安くなり、販売する相手も富裕層となりお金を持っている」
「その通りです、エリアス様」
「では実際にジェシカさんに付けてもらい、お店に出てもらいましょう。ジェシカさんを見れば、その唇の艶に驚くはずです」
ジェシカさんに聞くと口紅はアカネという植物の、赤い根から採ったものを染料に混ぜ塗っているらしい。
そのため、色に艶が無かった。
その口紅の上から塗ると光沢がでて、更に唇に艶が出るではないか。
「これはいい!!これはいいですぞ、エリアス様」
「それと商品の周りに、のぼり旗を出しましょう」
「のぼり旗ですか?!」
「えぇ、その旗にはこう書くのです。『今年の冬は、艶のある唇から』と」
「宣伝文句を入れると言うのですか?!なんという考え方だ。素晴らしい、さっそく作らせます。それからまだありますか?」
「う~ん、そうですね。ニスの代わりに家具に塗るのはどうでしょうか?」
「家具にですか?」
「そうです、保湿ができるので木の表面がカサカサしたり、乾燥したものに塗り込むと艶が出て綺麗だと思います」
「そうか?!丁度、在庫の家具があります。それでさっそく試していいでしょうか」
「えぇ、やってみましょう」
店の奥に行くとむく材のチェストがあった。
※むく材とは?
表面に張り物をしたり、修正加工したものではない木材のこと。
売れ残りで時間が経っているためか、木の表面がカサカサになっていた。
そのチェストに車のワックスを塗るように、デリクさんはクリームを塗り込む。
「おぉ、これはいい。いいですぞエリアス様。まるで家具が生き返るようです」
そう言うとデリクさんは子供の様に目を輝かせ、チェストにクリームを塗って行った。
「デリクさん、いかがでしょうか?」
「気に入りました、エリアス様。我が店の商品にしたいと思います」
「では材料を定期的に卸しますので、デリクさんのところで作って頂いた方が安く済みますよ」
「それはありがたい。しかし大丈夫でしょうか?ジリヤ国はここから往復で2ヵ月は掛かるはずです」
「大丈夫です。問題はありません」
「それにキラービーの巣は貴重だと伺いましたが…?」
「大丈夫ですよ。豊富に確保できますから」
キラービーの巣は、たくさんストレージの中にあるからね。
「してお値段はどのくらいで?」
「このくらいで、いかがでしょう?」
「あ、いえ、なんとか」
「では、これで…」
「そこをもう少し…」
久しぶりに楽しそうに商談している夫、デリクを見て妻のジェシカは微笑んだ。
2日後、艶が出て綺麗になったチェストはお客の目に留まり売れて行った。
しかも元のチェストの2倍の値段で売れたそうだ。
手間をかければこんな値段で売れるのかと、デリクさんは喜んでいた。
リップクリームも好評のようだ。
富裕層の女性は対抗意識が強いから人気になった。
ジェシカさんが売るリップクリームは、生産が間に合わないくらい売れている。
実際にジェシカさんの潤いのある唇を見て、のぼり旗のうたい文句に釣られて買っていくという。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
その後、リップとハンドクリームは全国規模になる。
ラードルフ国ではデリク商会。
セトラー国ではエリアス商会が扱っている。
それからしばらく経った話。
「おい、どうすんだよ!!キラービーが居ないじゃないか」
「そうなんですよ。最近は見かけなくて…」
狼族と虎族の男が森の中で話している。
セトラー国で暮らす住民は身を守るために、武器を習うが多い。
人族、兎族、犬族、狐族は、武器を剣ではなくクロスボウを選んだ。
剣を希望したのは狼族、虎族だけだった。
そして今やクロスボウは、その威力に向かうところ敵なし。
なぜなら遠距離からの安全策攻撃。
勝てそうもない相手には挑まない。
だがある時、エリアスよりキラービーの巣が必要になったと言われ慌てる。
キラービーの装甲は固く、矢では通らない。
そこで弓ではなく剣を希望した狼族、虎族に順番が回ってきた。
肩身の狭い思いをしていた彼らは、ついにわれ等がお役に立てる時がやってきたと叫び喜んだ。
クロスボウの陰に隠れ、陽が当たらなかった彼等は獅子奮迅し成果を上げた。
数年後、アスケルの森のキラービーは乱獲され絶滅寸前に陥る。
慌てたエリアスの発案により、この世界初の養蜂場が発足したのであった。
それなら駄目だ。
意味がない。
なぜなら庶民相手の商品だからだ。
そんなにするのか?
そう言えば以前にも蜂蜜は高価だと聞いていたが。
巣だから違うと思っていた。
今回、作ったハンドクリームの材料の内訳だ。
まず蜜蝋だ。
動物性の蝋燭は臭い匂いがある。
そのため今回使用したのは、蜂が巣を作るときに分泌するろうの成分だ。
人の皮脂にも含まれ肌馴染みもよく、保湿作用に優れている。
そして蜂の巣から採れる蜜蝋は高価だった。
だが蜜を手に入れるためには、キラービーの大群を相手にしなければならない。
そして油だ。
植物油、動物油、魚油とあるが植物油は他に比べると高価だ。
油はランプの灯りに使われ皿の上に灯心(綿布でできた細い糸)を載せ火を灯す。
魚油、動物油は、燃焼すると臭い匂いがする。
植物油は上質なものとして、喜ばれこれも高価だそうだ。
【スキル】現代知識で事前に調べ匂いが無いの揃えた材料だった。
だが値段まではわからなかった。
失敗だ。
「デリクさん、店で売るとしたら幾らくらいの値段になりますか?」
「そうですね、エリアス様。キラービーの蜜蠟は貴重なものです。それだけでも高額となり、この少ない量でも1カップ5,000円くらいの売値になるでしょう」
「それではメイドや労働者相手の品物としては高価ですね」
「その通りです。富裕層の主人がメイド達のために、保湿クリームを購入するとも思えませんし」
「せっかく良い思い付きだと思ったのですが、商品としては売れませんね」
重たい空気が流れる。
「エリアス様、これは手に付けるだけですか?唇には付けれないのでしょうか?」
見るとエリザちゃんの唇が、カサカサになっている。
この世界は蝋燭、ランプ、囲炉裏、暖炉に火を灯して明かりを得ている。
だから冬場は空気が乾燥し唇が荒れる。
「エリザちゃん、匂いが無いので付けれますよ」
「それは良いですね。試しにつけてみます、どれどれ…」
そういうとエリザちゃんは、側にあった鏡を見ながらハンドクリームを唇に塗る。
「良いです、これは。痛かった唇が痛くなくなったもの。それに唇に艶が出ました」
「そうだ、デリクさん。これを唇用のクリーム、唇に塗る化粧品リップクリームという名で売り出しませんか?」
「リップクリームですか!それはいいかもしれん。冬場は唇が割れる。唇用なら量もそれほど必要が無い。小さい貝殻を入物にして富裕層に販売しよう」
「量がすくなくなれば安くなり、販売する相手も富裕層となりお金を持っている」
「その通りです、エリアス様」
「では実際にジェシカさんに付けてもらい、お店に出てもらいましょう。ジェシカさんを見れば、その唇の艶に驚くはずです」
ジェシカさんに聞くと口紅はアカネという植物の、赤い根から採ったものを染料に混ぜ塗っているらしい。
そのため、色に艶が無かった。
その口紅の上から塗ると光沢がでて、更に唇に艶が出るではないか。
「これはいい!!これはいいですぞ、エリアス様」
「それと商品の周りに、のぼり旗を出しましょう」
「のぼり旗ですか?!」
「えぇ、その旗にはこう書くのです。『今年の冬は、艶のある唇から』と」
「宣伝文句を入れると言うのですか?!なんという考え方だ。素晴らしい、さっそく作らせます。それからまだありますか?」
「う~ん、そうですね。ニスの代わりに家具に塗るのはどうでしょうか?」
「家具にですか?」
「そうです、保湿ができるので木の表面がカサカサしたり、乾燥したものに塗り込むと艶が出て綺麗だと思います」
「そうか?!丁度、在庫の家具があります。それでさっそく試していいでしょうか」
「えぇ、やってみましょう」
店の奥に行くとむく材のチェストがあった。
※むく材とは?
表面に張り物をしたり、修正加工したものではない木材のこと。
売れ残りで時間が経っているためか、木の表面がカサカサになっていた。
そのチェストに車のワックスを塗るように、デリクさんはクリームを塗り込む。
「おぉ、これはいい。いいですぞエリアス様。まるで家具が生き返るようです」
そう言うとデリクさんは子供の様に目を輝かせ、チェストにクリームを塗って行った。
「デリクさん、いかがでしょうか?」
「気に入りました、エリアス様。我が店の商品にしたいと思います」
「では材料を定期的に卸しますので、デリクさんのところで作って頂いた方が安く済みますよ」
「それはありがたい。しかし大丈夫でしょうか?ジリヤ国はここから往復で2ヵ月は掛かるはずです」
「大丈夫です。問題はありません」
「それにキラービーの巣は貴重だと伺いましたが…?」
「大丈夫ですよ。豊富に確保できますから」
キラービーの巣は、たくさんストレージの中にあるからね。
「してお値段はどのくらいで?」
「このくらいで、いかがでしょう?」
「あ、いえ、なんとか」
「では、これで…」
「そこをもう少し…」
久しぶりに楽しそうに商談している夫、デリクを見て妻のジェシカは微笑んだ。
2日後、艶が出て綺麗になったチェストはお客の目に留まり売れて行った。
しかも元のチェストの2倍の値段で売れたそうだ。
手間をかければこんな値段で売れるのかと、デリクさんは喜んでいた。
リップクリームも好評のようだ。
富裕層の女性は対抗意識が強いから人気になった。
ジェシカさんが売るリップクリームは、生産が間に合わないくらい売れている。
実際にジェシカさんの潤いのある唇を見て、のぼり旗のうたい文句に釣られて買っていくという。
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その後、リップとハンドクリームは全国規模になる。
ラードルフ国ではデリク商会。
セトラー国ではエリアス商会が扱っている。
それからしばらく経った話。
「おい、どうすんだよ!!キラービーが居ないじゃないか」
「そうなんですよ。最近は見かけなくて…」
狼族と虎族の男が森の中で話している。
セトラー国で暮らす住民は身を守るために、武器を習うが多い。
人族、兎族、犬族、狐族は、武器を剣ではなくクロスボウを選んだ。
剣を希望したのは狼族、虎族だけだった。
そして今やクロスボウは、その威力に向かうところ敵なし。
なぜなら遠距離からの安全策攻撃。
勝てそうもない相手には挑まない。
だがある時、エリアスよりキラービーの巣が必要になったと言われ慌てる。
キラービーの装甲は固く、矢では通らない。
そこで弓ではなく剣を希望した狼族、虎族に順番が回ってきた。
肩身の狭い思いをしていた彼らは、ついにわれ等がお役に立てる時がやってきたと叫び喜んだ。
クロスボウの陰に隠れ、陽が当たらなかった彼等は獅子奮迅し成果を上げた。
数年後、アスケルの森のキラービーは乱獲され絶滅寸前に陥る。
慌てたエリアスの発案により、この世界初の養蜂場が発足したのであった。
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