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第16章 今度は召喚(ビッチェ王女編)

第208話 開花

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「う、う~~ん」
 良い匂いがする。
 どうやら俺は眠ってしまったらしい。
 あれ?なにかを抱きしめているぞ?
 
「はっ!」
 見るとビッチェ王女の顔が、俺の顔の近くにあった。
ふと
「わっ、どうなっているんだ?!」
「実はエリアス様にお話しがありまして…。丁度、お食事の用意ができていたので私が、メイドの代わりにお持ちしたところです。起こそうとしたのですが、ね、寝ぼけられていたようで私を…」
「す、すいません。王女様みずからお持ちいただけるなんて」
 そう話すビッチェ王女は、何か思い詰めたような顔をしていた。

 「さ、さあ、食事に致しましょう」

 そう言われて俺は身を起こしベッドから降りた。
 テーブルに座わり出された食事を食べる。
 うん、美味しい。
 野菜や肉が入ったスープだ。
 香辛料が効いて美味しい。

「お味はいかがでしょうか?」
「香辛料が効いて、とても美味しいです」
「それは良かった。急ごしらえでお作りしたようなので」
「香辛料が効いていますが、簡単に手に入るのでしょうか?」
「はい、州の都市自体で採れるものでしたら…」

 話を聞くと俺が今いるジリヤ国は、300年後と同じように王都中心に東西南北に6つの州を、更に王都寄りの東西に2つの州を配置して外敵に備えているそうだ。
 アスケルの森から魔物が出てくることは無く、開拓する余力もないようだ。

 魔物が徘徊しているのは都市間の森で、今のところ城壁に囲まれた都市を襲うことは無いようだ。
 だが街道にも魔物が現れるようになり、作物を収穫しても各都市に運ぶこともできなくなり食べるものが無くなる。

 それを打破するための勇者召喚なのか。

「すみません。これは贅沢なお食事なのですね」
「いいえ、我が国の都合で召喚してしまい本当に申し訳なく思っております。エリアス様には、できる限りのことをしたいと思っております」
 そう言ってビッチェ王女が頭を下げる。
 いいのか?王族が簡単に頭を下げても。
 そうか、だから俺と2人きりになれるこの部屋を選んだのか。

「エリアス様、失礼だと思わないでください。実はお詫びしなければならないことがございます」
「どんなことでしょうか?」
「はい、実はオバダリア侯爵様にエリアス様のことを、鑑定をして頂いたのです」
「部屋に居た貴族の方でしょうか?」
「はい、そうです。オバダリア侯爵様はこの国でも、珍しい鑑定能力をお持ちの方です」
 鑑定能力?
 だから俺を凝視ぎょうししていたのか。

「そうですか。では、その結果はどうでしたか?」
「はい、その~、とても申し訳にくいのですが『凡人』だと言われました」
 鑑定は相手が自分よりも能力が高い場合、見ることが出来ないはずだ。
 だから何も見えなかったのだろう。

「『凡人』ですか。そうと言えばそうかもしれません。ですが少しはお役に立てるかもそれません」
「本当でしょうか。エリアス様は召喚前は何をされていたのでしょうか?」
「俺ですか?俺は…、そう冒険者をやったり、村を開拓して生活していました」
「冒険者ですか?!冒険者とはなんでしょうか?」
 あぁ、この時代ではまだ冒険者という職業はないのか。

「魔物の討伐依頼を受けたり倒した魔物の素材を売却したり、商隊護衛の依頼を受けたりと、それを生業なりわいとしている人のことです」
「えっ?!エリアス様の世界ではそんな職業があるのですか!!」
「はい、命がけにはなりますが、貧困に苦しむ人達は冒険者を選ぶ人もいます」
「そんな職業があるなんて。その冒険者を集めるギルドを作るのは賛成です。騎士団の助けになるでしょう」

「ですが冒険者ギルドを作っても、冒険者を育てていく準備が必要になります」
「準備でしょうか?」
「えぇ、今まで剣を持ったことのない人が、いきなり討伐に出ても死ぬだけです」
「それはそうでしたね…」
「そのために事前に剣技を教えたり、今まで騎士団で戦ったことのある魔物の資料を作りそれを広め教えるのです。魔物のレベルが分かれば、ここで戦うのか、引くのかがわかりますから」
「それはもっともです。もっとエリアス様のご意見をお聞かせ願えませんか?」

 俺がここで何かをすれば時代が変わってしまう可能性がある。
 アリッサさん達に出会わない未来も…。
 だが元の時代に戻れるのかもわからない。

 それなら腹をくくるしかない。
 この城から逃げても魔物に襲われ、国が滅びているのを見ていても仕方がない。

「えぇ、俺の意見でよろしければ…」

 俺がそう答えると先ほどまで思い詰めていたビッチェ王女の硬い表情が、バラのつぼみがゆっくりと開くようにほほ笑んだ。
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