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第2話 街へ出掛けよう
5 幻の酒を求め生命の泉屋へ
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四つ葉堂を出ると、曇っていた空が晴れていた。日が暮れ始め、空がオレンジ色と紺色のグラデーションカラーに染まっている。
私達は“命の泉屋”という酒屋に向かった。深緑の翼亭でバンダさんが話していた幻の銘酒というのを買うみたいだ。
「よぉ、旦那ァ! 久し振りじゃねえかァ! 待ってたぜェ!」
そう言って迎えてくれたのは、アニマフィンド族のエルダーさんという獣人のおじさんだった。なんていうか、狼人間?みたいな外見をしている。エルダーさんは狼系だけど、他に猫系、馬系などと、アニマフィンドは様々な姿をしているらしい。
ってか、エルダーさんのその姿! 体中至る所に包帯巻いて左足にはギブスしてるけど、もしかしてマジで奥さんに半殺しにされたの!?
「久し振りだな、エルダー」
そんなエルダーさんを見てもアレックスは顔色一つ変えず、いつもの無表情のままだ。そして、痛々しいエルダーさんの姿については何も触れない。
「元気そうで安心したぜ。ずっと何の音沙汰もねえから、過労でおっ死んだのかと思っちまったじゃねえか。あんた、ちと働き過ぎなとこあるからよ」
「そうか、それはすまなかった。いらん心配をかけたようだな。まあ、つい最近まで大きな仕事を抱えていたのでな。だがこの通り私は極めて健康だ。何も問題はない」
「おう、健康ってのがやっぱ一番だぜ! オレもカミさんがしっかり健康管理に気ィ配ってくれてっから風邪一つひかねえ。この通り、ピンピンしてるぜぃッ!」
「そのようだな。奥方も相変わらずの賢妻ぶりだ」
「へへ、まあな。オレには過ぎたカミさんよ!」
何この肝心な部分がすっぽり抜け落ちた不自然極まりない会話!? エルダーさん、あんたどっから見ても重体の負傷者だからね!? 明らかに大怪我してんのに、何『ピンピンしてるぜぃッ!』って、無駄に豪語してんの!? そんでもって、アレックスもナチュラルにスルーしてるし! あんたの目は節穴なの!? 少しくらい突っ込めよ! こいつ、夫婦喧嘩の原因に自分も知らずに関わってたもんだから、完全スルーを決め込むつもりなんだ!
二人は顔を合わせるのは相当久しいようで長々と話し込んでいる。アレックスってかなり話し好きだよね。パッと見は寡黙そうな感じなのに……。でもまあ、初対面の時からやたら口数多かったもんね。減らず口ばっか叩いてさ。
暇なので私とクリンちゃんは店の裏手にあるというエルダーさんの家に行くことにした。なんでも、三つ子の子供達がいるとのこと。
エルダーさんの自宅を見て、私は思わず目を剥いた。なんと家の半分が見事にひしゃげているのである。ちょっ……、ここもバンダさんが言ってた通りじゃん! あの噂話、全部実話だったのね……。
「まあ、クリンちゃん、よく来たわね~。あら、今日はお友達も一緒なのね」
エルダーさんの奥さんだ。名前はビオラさん。バンダさんの言っていた通り、“虫も殺せぬ”という表現に相応しい、なんとも大人しそうで、優しそうな印象を受ける女性だ。
でも、大暴れしてエルダーさんを半殺しにするわ家を半分壊すわの大惨事を引き起こした張本人なんだよね……。とてもそうは見えないけど。けど、普段大人しい人ほどキレたら手が付けらんなくなるっていうしね。
「みんなー、クリンちゃんが遊びに来てくれたわよー!」
ビオラさんが家の奥に向かって呼びかける。すると、小さな三つ子ちゃん達がパタパタと走ってやってきた。
「わーい! クリンちゃんだ、クリンちゃんだぁ♪」
「ねえねえ、かくれんぼしよー♪」
「だめー。クリンちゃんは、あたちとおままごとするのー!」
クリンちゃんの人気の高さがうかがえる。
この三つ子ちゃん達の名は男の子二人がロウくんとレンくん。女の子がティアちゃんという。人間で言えば五歳くらいかな? その風貌は、まるで子犬のようだ。つぶらな瞳に、ふっかふかの体毛で、めっちゃ可愛い!
「そっちのお姉ちゃんは?」
ロウくんが私を見て言った。私は簡単に自己紹介をする。
「スッゲー! ユーコお姉ちゃん、違うセカイから来たヒトなんだー!」
「ねえねえ、チキュウのゴハンっておいしい? おやつは何を食べるの?」
「その服カワイイね♪ あたちも、そういうの欲しいなぁ~」
三人は目をキラキラと輝かせて、あれこれと話しかけてくる。
三つ子ちゃん達と遊び始めてから、かなり時間が経った。
まだ帰らないのかなと、私は店の方へ様子を見に行く。すると、アレックスってばエルダーさんと一緒にお酒飲んでるし!
「アレックスってお酒弱そうだけど平気なの?」
私は心配になってつい失礼な一言を発してしまった。
「馬鹿いっちゃあいけねえぜ、嬢ちゃん! この人はなァ、見かけはこんな、生っ白いモヤシみてェな兄ちゃんだけどよぉ、ここらじゃあ、いや、ティル・リ・ローナ一の酒豪よオオォッ!」
エルダーさんは既に酔いが回っているのか、上機嫌にそう叫んだ。アレックスは、エルダーさんの“世界一の酒豪宣言”には無反応で、ただ静かにグラスを傾けている。っていうか、エルダーさんも何気に失礼なこと言ったよね。モヤシとかって。
「ふ~ん、そうなんだぁ」
これはまだ当分かかりそうな気がすると思い、私はクリンちゃん達のところへ戻った。
しばらくすると、店の方が何だか騒がしくなってきた。私は再び様子を見に行く。
店先では、仕事帰りと思われるおじさん連中が集まって酒盛りをしていた。
エルダーさんは完全にできあがっており、ウザイくらいハイテンションになっている。その他のおじさん連中も似たような感じだ。そんな陽気なムードの中、アレックスは普段と変わらない様子で一人平然とグラスを傾けている。なんかあいつだけテンション低くて浮いてんだけど! 何、この温度差!?
酔いどれオヤジの一人が『ワシの酒を飲まんか~い!』と言わんばかりに、なみなみと酒が入ったグラスをアレックスの右のほっぺたにぐりぐりと押し付け始めた。すると今度は、その様子を見ていた別の酔いどれオヤジが千鳥足でやってきて、『ワシに酌をせんかい、コラ!』と言いたげに、空のグラスをアレックスの左のほっぺたにぐりぐりと押し付けだした。
アレックスはそんな酔いどれオヤジA、酔いどれオヤジBのW攻撃を物凄くウザそうにあしらいながら静かにグラスを傾けている。しかし、二人の酔いどれオヤジのしつこさは生半可なものではなく、あしらわれてもあしらわれてもアレックスのほっぺたにグラスを押し付けるのを止めようとしない。
見ていて気の毒になるような絡まれっぷりだが、不思議と目が離せず、私はその成り行きをただ見守る。
酔いどれオヤジAと酔いどれオヤジBによるグラスぐりぐり攻撃は、酔いどれオヤジCの出現により収まった。酔いどれオヤジCが二人の頭を酒瓶で殴って気絶させたのである。ってか、それ一歩間違ったら死んじゃうんじゃないの!? お酒って怖いなぁ……。
どこからともなく現れたこの酔いどれオヤジCは、別にアレックスを助けたわけではなく、ただ自分がアレックスに絡みたかっただけのようだ。そしてこの酔いどれオヤジCはさっきの二人とは比べ物にならないくらい質が悪い。
そうとう酔っ払っているのか、「へへへ、ねーちゃん、美人だなァ」とアレックスを女だと勘違いしているのだ。そんなオヤジにアレックスは「私は男だ」とめんどくさそうに否定し、軽蔑混じりの冷たい視線を向ける。
しかし、オヤジはアレックスの話などまるで聞いておらず、スケベったらしい笑みを浮かべて「なぁなぁ、今からワシと二人で抜け出さんか?」と、口説き始めた。アレックスはそんなオヤジに何を言っても無駄と思ったのか、もう何も言わず完全無視を決め込んでいる。が、酔いどれオヤジCはそれしきのことでは諦めるわけもなく「んもう、照れちゃって、可愛いなァ~」と、無謀にもアレックスのほっぺにキスしようと迫る始末だ。これにはさすがにアレックスも我慢ならなかったようで、無表情&無言で酔いどれオヤジCの顔面をぶっ飛ばして黙らせた。
しかし、酔いどれオヤジCはゾンビの如くよみがえり「いいね~。そんな気が強いとこもワシ好みよ♪」とアレックスの腰に手を回した。アレックスは嫌悪感に顔をしかめ、これ以上付き合うのはうんざりだと思ったのか、隣にいたおじさんに「こいつの相手は任せた」と無責任に託し、席を移動してしまった。
ちなみに託されたおじさんはどうしたかというと、この人も相当酔っ払っていたらしく、なんと酔いどれ親父Cのナンパを受けて、二人でどこかへ行ってしまったのだ! ってか、その後は一体……? うわ! 考えるのもおぞましいッ!
それにしても、あいつ、いろんなオヤジから、めちゃめちゃ絡まれて大変だったね。ご愁傷様……。
おじさん連中の酒盛りはすぐに大宴会へとレベルアップした。騒ぎを聞きつけて、近所中から人が集まってきたのだ。
ビオラさんとクリンちゃんがいきなり始まった宴会のために料理を作り始める。よくあることなのだろうか? ビオラさんに慌てた様子は全くない。私も微力ながらお手伝いをする。
結局この日は、もう遅いからと言われ、エルダーさんの家に泊まることになった。
☆★☆
グオオオオオオォォンッ! グオオオオオオォォンッ! ズゴゴゴゴゴオオオォンッ!
地を揺るがすような轟音が響き渡る。
「な、何!? なんなの、この音!?」
思わず飛び起きて、辺りを見回す。
隣のベッドではクリンちゃんがすやすやと、まるで天使のような寝顔で眠っている。時折「くりまんじゅう~」と寝言を言いながら…。
クリンちゃん……、どんだけ栗饅頭が好きなのよ……。っていうか、この轟音の中、よく寝てられるよね!?
アレックスのベッドは空だ。どこに行ったんだろう? まさか、この轟音にうんざりして一人でさっさと帰ったとか? うん、あり得ない話じゃないよね、あいつの場合。もしそうだったら、とっちめてやる! ってかそもそも、この轟音も一体なんなの?
そぉ~っと部屋を出た。
「あら、どうしたの?」
部屋を出るなり、ビオラさんに声をかけられた。
「あ、いえ、なんか凄い音がするので、何かと思って……」
すると、ビオラさんは恥ずかしそうな顔をして、
「ごめんなさいね、うるさいでしょう? 主人のイビキなのよ……」
心底申し訳なさそうに言った。
「そ、そうなんですか。ははは……」
私は引きつった笑みを浮かべるしかない。イビキって……、マジで!? この音、凄過ぎなんだけど! 軽く公害クラスじゃね? まるで飛行場のど真ん中にいるみたいだよ!
「そういえば、アレックスがいないんですけど、もしかして先に帰っちゃったんですか?」
「ううん、アレックスさんなら深緑の翼亭に行くと言ってたわ」
ゲッ! マジでか!? ここで散々酒をかっ食らっておきながら、まだ飲み足りないってか!? どんだけ酒好きなんだよ、あの男。
目も冴えちゃったし、っていうかこの公害みたいなイビキのなかじゃ寝らんないし、私も深緑の翼亭に行ってみることにした。
私達は“命の泉屋”という酒屋に向かった。深緑の翼亭でバンダさんが話していた幻の銘酒というのを買うみたいだ。
「よぉ、旦那ァ! 久し振りじゃねえかァ! 待ってたぜェ!」
そう言って迎えてくれたのは、アニマフィンド族のエルダーさんという獣人のおじさんだった。なんていうか、狼人間?みたいな外見をしている。エルダーさんは狼系だけど、他に猫系、馬系などと、アニマフィンドは様々な姿をしているらしい。
ってか、エルダーさんのその姿! 体中至る所に包帯巻いて左足にはギブスしてるけど、もしかしてマジで奥さんに半殺しにされたの!?
「久し振りだな、エルダー」
そんなエルダーさんを見てもアレックスは顔色一つ変えず、いつもの無表情のままだ。そして、痛々しいエルダーさんの姿については何も触れない。
「元気そうで安心したぜ。ずっと何の音沙汰もねえから、過労でおっ死んだのかと思っちまったじゃねえか。あんた、ちと働き過ぎなとこあるからよ」
「そうか、それはすまなかった。いらん心配をかけたようだな。まあ、つい最近まで大きな仕事を抱えていたのでな。だがこの通り私は極めて健康だ。何も問題はない」
「おう、健康ってのがやっぱ一番だぜ! オレもカミさんがしっかり健康管理に気ィ配ってくれてっから風邪一つひかねえ。この通り、ピンピンしてるぜぃッ!」
「そのようだな。奥方も相変わらずの賢妻ぶりだ」
「へへ、まあな。オレには過ぎたカミさんよ!」
何この肝心な部分がすっぽり抜け落ちた不自然極まりない会話!? エルダーさん、あんたどっから見ても重体の負傷者だからね!? 明らかに大怪我してんのに、何『ピンピンしてるぜぃッ!』って、無駄に豪語してんの!? そんでもって、アレックスもナチュラルにスルーしてるし! あんたの目は節穴なの!? 少しくらい突っ込めよ! こいつ、夫婦喧嘩の原因に自分も知らずに関わってたもんだから、完全スルーを決め込むつもりなんだ!
二人は顔を合わせるのは相当久しいようで長々と話し込んでいる。アレックスってかなり話し好きだよね。パッと見は寡黙そうな感じなのに……。でもまあ、初対面の時からやたら口数多かったもんね。減らず口ばっか叩いてさ。
暇なので私とクリンちゃんは店の裏手にあるというエルダーさんの家に行くことにした。なんでも、三つ子の子供達がいるとのこと。
エルダーさんの自宅を見て、私は思わず目を剥いた。なんと家の半分が見事にひしゃげているのである。ちょっ……、ここもバンダさんが言ってた通りじゃん! あの噂話、全部実話だったのね……。
「まあ、クリンちゃん、よく来たわね~。あら、今日はお友達も一緒なのね」
エルダーさんの奥さんだ。名前はビオラさん。バンダさんの言っていた通り、“虫も殺せぬ”という表現に相応しい、なんとも大人しそうで、優しそうな印象を受ける女性だ。
でも、大暴れしてエルダーさんを半殺しにするわ家を半分壊すわの大惨事を引き起こした張本人なんだよね……。とてもそうは見えないけど。けど、普段大人しい人ほどキレたら手が付けらんなくなるっていうしね。
「みんなー、クリンちゃんが遊びに来てくれたわよー!」
ビオラさんが家の奥に向かって呼びかける。すると、小さな三つ子ちゃん達がパタパタと走ってやってきた。
「わーい! クリンちゃんだ、クリンちゃんだぁ♪」
「ねえねえ、かくれんぼしよー♪」
「だめー。クリンちゃんは、あたちとおままごとするのー!」
クリンちゃんの人気の高さがうかがえる。
この三つ子ちゃん達の名は男の子二人がロウくんとレンくん。女の子がティアちゃんという。人間で言えば五歳くらいかな? その風貌は、まるで子犬のようだ。つぶらな瞳に、ふっかふかの体毛で、めっちゃ可愛い!
「そっちのお姉ちゃんは?」
ロウくんが私を見て言った。私は簡単に自己紹介をする。
「スッゲー! ユーコお姉ちゃん、違うセカイから来たヒトなんだー!」
「ねえねえ、チキュウのゴハンっておいしい? おやつは何を食べるの?」
「その服カワイイね♪ あたちも、そういうの欲しいなぁ~」
三人は目をキラキラと輝かせて、あれこれと話しかけてくる。
三つ子ちゃん達と遊び始めてから、かなり時間が経った。
まだ帰らないのかなと、私は店の方へ様子を見に行く。すると、アレックスってばエルダーさんと一緒にお酒飲んでるし!
「アレックスってお酒弱そうだけど平気なの?」
私は心配になってつい失礼な一言を発してしまった。
「馬鹿いっちゃあいけねえぜ、嬢ちゃん! この人はなァ、見かけはこんな、生っ白いモヤシみてェな兄ちゃんだけどよぉ、ここらじゃあ、いや、ティル・リ・ローナ一の酒豪よオオォッ!」
エルダーさんは既に酔いが回っているのか、上機嫌にそう叫んだ。アレックスは、エルダーさんの“世界一の酒豪宣言”には無反応で、ただ静かにグラスを傾けている。っていうか、エルダーさんも何気に失礼なこと言ったよね。モヤシとかって。
「ふ~ん、そうなんだぁ」
これはまだ当分かかりそうな気がすると思い、私はクリンちゃん達のところへ戻った。
しばらくすると、店の方が何だか騒がしくなってきた。私は再び様子を見に行く。
店先では、仕事帰りと思われるおじさん連中が集まって酒盛りをしていた。
エルダーさんは完全にできあがっており、ウザイくらいハイテンションになっている。その他のおじさん連中も似たような感じだ。そんな陽気なムードの中、アレックスは普段と変わらない様子で一人平然とグラスを傾けている。なんかあいつだけテンション低くて浮いてんだけど! 何、この温度差!?
酔いどれオヤジの一人が『ワシの酒を飲まんか~い!』と言わんばかりに、なみなみと酒が入ったグラスをアレックスの右のほっぺたにぐりぐりと押し付け始めた。すると今度は、その様子を見ていた別の酔いどれオヤジが千鳥足でやってきて、『ワシに酌をせんかい、コラ!』と言いたげに、空のグラスをアレックスの左のほっぺたにぐりぐりと押し付けだした。
アレックスはそんな酔いどれオヤジA、酔いどれオヤジBのW攻撃を物凄くウザそうにあしらいながら静かにグラスを傾けている。しかし、二人の酔いどれオヤジのしつこさは生半可なものではなく、あしらわれてもあしらわれてもアレックスのほっぺたにグラスを押し付けるのを止めようとしない。
見ていて気の毒になるような絡まれっぷりだが、不思議と目が離せず、私はその成り行きをただ見守る。
酔いどれオヤジAと酔いどれオヤジBによるグラスぐりぐり攻撃は、酔いどれオヤジCの出現により収まった。酔いどれオヤジCが二人の頭を酒瓶で殴って気絶させたのである。ってか、それ一歩間違ったら死んじゃうんじゃないの!? お酒って怖いなぁ……。
どこからともなく現れたこの酔いどれオヤジCは、別にアレックスを助けたわけではなく、ただ自分がアレックスに絡みたかっただけのようだ。そしてこの酔いどれオヤジCはさっきの二人とは比べ物にならないくらい質が悪い。
そうとう酔っ払っているのか、「へへへ、ねーちゃん、美人だなァ」とアレックスを女だと勘違いしているのだ。そんなオヤジにアレックスは「私は男だ」とめんどくさそうに否定し、軽蔑混じりの冷たい視線を向ける。
しかし、オヤジはアレックスの話などまるで聞いておらず、スケベったらしい笑みを浮かべて「なぁなぁ、今からワシと二人で抜け出さんか?」と、口説き始めた。アレックスはそんなオヤジに何を言っても無駄と思ったのか、もう何も言わず完全無視を決め込んでいる。が、酔いどれオヤジCはそれしきのことでは諦めるわけもなく「んもう、照れちゃって、可愛いなァ~」と、無謀にもアレックスのほっぺにキスしようと迫る始末だ。これにはさすがにアレックスも我慢ならなかったようで、無表情&無言で酔いどれオヤジCの顔面をぶっ飛ばして黙らせた。
しかし、酔いどれオヤジCはゾンビの如くよみがえり「いいね~。そんな気が強いとこもワシ好みよ♪」とアレックスの腰に手を回した。アレックスは嫌悪感に顔をしかめ、これ以上付き合うのはうんざりだと思ったのか、隣にいたおじさんに「こいつの相手は任せた」と無責任に託し、席を移動してしまった。
ちなみに託されたおじさんはどうしたかというと、この人も相当酔っ払っていたらしく、なんと酔いどれ親父Cのナンパを受けて、二人でどこかへ行ってしまったのだ! ってか、その後は一体……? うわ! 考えるのもおぞましいッ!
それにしても、あいつ、いろんなオヤジから、めちゃめちゃ絡まれて大変だったね。ご愁傷様……。
おじさん連中の酒盛りはすぐに大宴会へとレベルアップした。騒ぎを聞きつけて、近所中から人が集まってきたのだ。
ビオラさんとクリンちゃんがいきなり始まった宴会のために料理を作り始める。よくあることなのだろうか? ビオラさんに慌てた様子は全くない。私も微力ながらお手伝いをする。
結局この日は、もう遅いからと言われ、エルダーさんの家に泊まることになった。
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グオオオオオオォォンッ! グオオオオオオォォンッ! ズゴゴゴゴゴオオオォンッ!
地を揺るがすような轟音が響き渡る。
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クリンちゃん……、どんだけ栗饅頭が好きなのよ……。っていうか、この轟音の中、よく寝てられるよね!?
アレックスのベッドは空だ。どこに行ったんだろう? まさか、この轟音にうんざりして一人でさっさと帰ったとか? うん、あり得ない話じゃないよね、あいつの場合。もしそうだったら、とっちめてやる! ってかそもそも、この轟音も一体なんなの?
そぉ~っと部屋を出た。
「あら、どうしたの?」
部屋を出るなり、ビオラさんに声をかけられた。
「あ、いえ、なんか凄い音がするので、何かと思って……」
すると、ビオラさんは恥ずかしそうな顔をして、
「ごめんなさいね、うるさいでしょう? 主人のイビキなのよ……」
心底申し訳なさそうに言った。
「そ、そうなんですか。ははは……」
私は引きつった笑みを浮かべるしかない。イビキって……、マジで!? この音、凄過ぎなんだけど! 軽く公害クラスじゃね? まるで飛行場のど真ん中にいるみたいだよ!
「そういえば、アレックスがいないんですけど、もしかして先に帰っちゃったんですか?」
「ううん、アレックスさんなら深緑の翼亭に行くと言ってたわ」
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