化け物伯と追放令嬢

真麻一花

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「ではお前は、この異形にさわれるというのか」

 辺境伯さまが私の手をとった。
 男性から手を握られた事実に、顔がボンッと熱くなる。

「ひゃぅあ! あわわわ……」

 と思ったら、ぐっと手を引きよせられ、私の指先をその異形の部分に触らせようとしてきた。

「わぁぁぁぁぁ! ま、まって! まってください!! 手! 素手は!」

 慌てて手を引こうとするけど、力が強すぎて逃げられない。
 辺境伯さまの顔が歪むように笑った。

「どう取り繕っても、所詮は触るのが気持ち悪いということだろう」

「あ、洗ってから! ちゃんと手を洗ってから!」
「触ったあとで洗わせてやる」
「先に! 先に洗わせて下さい! 汚い手で触って膿んだらどうするんですか……!」

 私の悲鳴のような叫びに、辺境伯さまがキョトンとする。
 あ、なんかかわいい。

「……まさか、俺を心配して言ってるのか……?」

 その言葉に私は発狂したように叫ぶ。

「最初からそう言ってるじゃないですかーーー!! そんな痛そうなお肌、触るとかこわすぎます!!」

 途端に辺境伯さまが声をあげて笑った。

「ははははは!!」

 笑いどころじゃないです!

「これは魔障でなってるのだから魔物の皮膚と似たような物で、むしろ人間の皮膚より丈夫だぞ」
「そ、そうなんですか……? じゃあ、本当に痛くないのですね……? 触っても、本当に障りはないのですね…?」

 恐る恐る問いかける。
 見た目がぬめっとしてるから、傷口が体液で光っているようにも見えるのよぉ……。汚れた手で触っちゃいけない感がすごい。触るのこわい。

「ああ、ぬめりのように見えるが、それも多少湿り気が感じ取れる以外は手につかない。透明で柔らかいゲル状の膜が皮膚のように覆っているだけだ。鋭いもので突き刺してもなかなか貫通しないし、汚れもすぐに落ちる」

 そう言って辺境伯さまはその異形の部分をつまんでみせた。
 ひょえ! 痛そう……でもないかも。本当に透明の膜っぽいのが見て取れる。
 おお! 驚くべき事実に好奇心で思わず心が弾む。

「有能ですね! すごいです! もしかして眼球の部分も同じですか?」
「ああ」
「便利! 目にゴミがはいらないとか、有能!」

 衝撃で叫んだ途端、辺境伯さまが噴き出した。
 ぐふっと。

 え? え? わ、笑うところ、ありましたか?!

 おなかをかかえて笑ってるんですけど、この人。とりあえず辺境伯さまが笑っているので、私もへらりとわらってごまかしておく。怒られなくてよかったわ。

「似たような魔物がいるのを知っているか? 肉の塊で地べたを移動する……」

「存じております。あの魔物、気持ち悪いですよね」

 頷くと辺境伯さまが無表情になる。
 え? なんかしょんぼりして見えるんだけど、気のせい?

「……やはり、気持ち悪いか……」
「いえ、辺境伯様のことではなく……!」
「同じだろう。あれと俺の皮膚は同系統のものだ」

 また失言しましたわーーーー!!
 どうする! どうする?!

「じゃ、じゃあ、私、頑張って、あの魔物をかわいいと思えるようになります!」

「それは趣味が悪すぎだろう……」

「急な掌返しがひどい! 自虐はやめて下さい!」

 泣いちゃう!

 わたわたしながら取り繕おうとするけれど、この手の自虐に返す言葉が見つからない!
 何とか慰めたくて口をパクパクしていると、辺境伯さまがまた笑った。
 けれど先ほどの笑いとは違う初めて見せてくれた柔らかな笑みに、ドクンと心臓がはねた。

「君は、これをかわいいと思えるように、頑張ってくれるのか」

「はい! 頑張ります! ちょっとグロテスクな厳つさがキュート! 完璧な整った顔にちょっとグロさが混ざることでワイルドできも可愛さ・・・・・が増してる! って思えるようになります!」

「きも可愛い……。最低のセンスだな……」

 私のセンスが一刀両断! 辺境伯さま、さっきからひどい!

「どうしろと……!」
「これは、普通に気持ち悪いだろう」

 苦笑した辺境伯さまにちょっと困ってしまう。

「ええー……? でも夫の顔ですから、せっかくなのでかわいいと愛でたいじゃないですか……」

「……いや、頑張って何とかなるものなのか、それは」

「え、はい、たぶんいけます! 辺境伯さまはおやさしいですから! お顔自体はすばらしく整っておられますし! そのグロさと整った顔というギャップはむしろいい味になる可能性を秘めていると思うのです! あばたもえくぼっていうの、割と事実だと思うのです! 現にグロさはだいぶ見慣れました! まだ、つい目がそっちにいっちゃうんですけれど、そういうものと思えばたぶん慣れます!」

 辺境伯さまが肩と声を震わせながらつぶやいた。

「君は……絶妙に失礼だな……」

 ですよねーーーー! なんとなくそんな気がしてましたわ! 失言が止まらない……!!
 でも辺境伯さまは、うつむいて口元を押さえて小刻みに体を震わせている。めちゃくちゃ笑いを堪えていますわね?!
 笑ってくれているのが、救い……救いなのかしら! いえ、良くないわよね!! ごめんなさい!!

「正直すぎると、言われないか……?」
「そのせいで! 婚約破棄をされましたわ!」

 辺境伯さまがまたしても噴き出した。
 笑ってください! ええ、もう、好きなだけ!
 あのムカつく元婚約者も、辺境伯さまが笑うネタになったのでしたら本望でしょう!

「かわり者の嫁が来たな」

 楽しげな声がする。辺境伯さまが笑っている。
 だから私もなんだか嬉しくなった。

 私、この方のこと、なんだか、好きだわ。

 辺境伯さまが笑ってくれるのなら、かわり者の称号は受け取っておきましょう。
 ほんのり照れながら辺境伯さまを見つめる。

「もらっていただけますか?」
「そうだな、歓迎しよう、花嫁殿」
「ありがとうございます!」

 やったー! 優しそうな旦那さまのいる嫁ぎ先確保!

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